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9話一消える表情一
昼食の時間になり
柊は先ほど購買で買ってきたフルーツサンドをちまちま食べながら
午後の授業内容の確認やら配る予定のプリントに不備が無いかなどを確認していく
ーここのクラスの数学・・・少し遅れが出てきてるんだよな…
次の授業では最低でも此処までは進めておく必要が――
「柊先生。」
――あ、このプリント脱字あんじゃん。
まだ少し時間あるし一一食べ終わったら付け足しておくか・・・
「柊先生っ!」
「うわあっ!は、はいなんでしょ――って野崎せんせ・・・
もう・・・驚かせないで・・・」
耳元に息が掛かるくらいの近さから自分の事を呼んだ野崎に驚き
持っていたフルーツサンドを落っことしそうになりながら
柊は直ぐ隣に立ち、 自分の事を見下ろしてくる野崎を何事かと見上げる
「あ…大した用じゃないんですけど――朝の事とか気になっちゃって…..
ほら俺、目ぇ赤くしてる柊先生ほっぽって生活指導と行っちゃったし…
その後はすれ違いで全然会えないしでどーしてるかなって・・・」
見上げてくる柊の目をマジマジと見つめながら
心配そうに話しかけてくる野崎に対し、 柊は少し苦笑を浮かべると
かけていた眼鏡を外し、 野崎に自分の目を見せるような感じで再び野崎を見上げる
「もう…大丈夫ですよ。 ホラ、 赤くないでしょ?」
「ん~……」
野崎は柊の頬を両手で包み込むと
柊の目を覗き込むようにして中腰になりながら柊に徐々に顔を近づけていく
ーちょっ近いっ… 近いって…っ!
徐々に近づいてくる野崎の顔に焦りながらも柊は野崎から目が離せず…
真剣な眼差しで自分の事を見つめてくる野崎に柊が息を殺して固まっていると 不意に野崎のモスグリーンの瞳が綻(ほころ)び
野崎が柔らかい微笑みを浮かべる
「――確かに――もう赤くないですね。 良かったぁ〜…」
野崎は心底ホッとした表情を浮かべ、 柊の頬から両手を離す
柊は離れていく野崎の手を少し寂しく思いながらも
再び眼鏡をかけようとしたその時
眼鏡を持つ柊の手を野崎が軽く制してきた
[…?]
柊が不思議そうに野崎を見つめる
すると野崎が
「柊先生って――コンタクトに変えようとか思った事はないんですか?」
「え…」
「だって…」
野崎は再び柊に顔を近づけながら覗き込む
「勿体ないですよ? 折角こんな可愛い顔してるのに――
あのダサ……微妙な黒縁眼鏡で顔隠しちゃうなんて…」
「ッ! かっ、可愛いって・・・何ソレ・・・
30過ぎの男に言うセリフじゃないよ・・・」
柊は野崎のセリフに一気に顔が熱くなるのを感じて慌てて野崎から顔を逸らすと
手に持っていた眼鏡を何事も無かったかのように平静を装いながら掛け直す
「あー勿体ない・・・ 眼鏡かけない方が絶対良いのに…」
「眼鏡かけないとほとんど何も見えません。」
「だからコンタクト。」
「コンタクトって・・・目に直接レンズ入れるのとか怖くって…」
「あー…・・ソレは――分かるかも・・」
「?野崎先生はコンタクトをした事が・・・?」
「? 無いよ? ただ――カラコン ・・・ 黒か茶のヤツが欲しいかなって前から思ってて
「何故?野崎先生の瞳の色、 素敵じゃないですか…」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど――
何かこの目の色のせいで此処では目立っているきがして・・・」
[………]
一多分目立っているのは――
その目の色だけのせいじゃないと思うけど・・・
柊がフルーツサンドを一口頬張りながら野崎の様子を眺めていると
野崎がおもむろにスマホを取り出してスケジュールを確認しながら口を開いた
「柊先生…食事の時間邪魔しちゃった上に長話しちゃって大変申し訳ないんですけ
ど――
俺――次の授業の支度しなきゃいけないんでこの辺で――」
「気にしなくていいですよ。 俺もまだやる事があるんで…・・」
「それじゃあ失礼しまーす! 今日何処か飲みに行きません?
最近飲みに行ってないじゃないですか!」
「ッ、 今日・・・」
『逃げずに俺のところまで来るように…』
呪詛の様に緒方の言葉が柊の頭の中に響き渡り
柊の顔から表情が消える・・・
「今日は――ちょっと用事が・・・」
「そう…ですか・・・じゃあまた今度誘いますね! それじゃあ失礼します!」
野崎はそれだけ言うと自分の席に戻って何かを準備し始め
柊は食べかけのフルーツサンドをゴミ箱に捨てると
無表情で脱字のあったプリントに訂正の文字を付け加えていった…