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10話一従う一
「それでは緒方先生、 柊先生・・
私はこれで――お先に失礼させていただきますよ・・・」
「あ、遅くまでご苦労様でした。 横尾先生・・・
もう夜も遅いので、お気をつけてお帰りになって下さい。」
職員室から退出しようとしている年配の女性教師、 横尾に向けて
緒方は進めていた作業の手を止め、席を立ち
姿勢を正しながら柊の目の前で何食わぬ顔で軽く頭を下げ、笑顔でそう言うと
横尾はガラリと職員室のドアを開け
未だに職員室に残っている緒方と柊の方へと振り返り
上品な笑顔を浮かべて会釈を返すと
静かに職員室のドアを閉め、その場を後にした・・・
[………]
横尾が去り、職員室に取り残されたのは緒方と柊の2人のみ…
途端に重苦しい沈黙が辺りを包み込み、 その場を支配し始める・・・
緒方のところに・・・行かないと・・・
柊はおぼろげながらそう思い
席を立とうと虚ろな表情で両手を机の上に置き、 両足に力を込める・・・
しかし柊の身体はその場に縫い止められたかの様に全く動かす事が出来ず、
柊は想像以上に自分が緒方に怯えている事に気が付き
苦虫を噛み潰したような顔で俯き、 その瞳をギュッと閉じる・・・
行かないと…っ! だって俺にはもう-
“緒方に従う”以外の選択肢は用意されていないのだから…
逃げ道は無く“従う”以外の選択肢しか残されていないのだと…
昼食後からずっと自分に言い聞かせていた事を
柊は噛みしめる様に再び自分に言い聞かせると
震えて怯える自分を落ち着かせる為に 「はー・・・」 と大きく息を吐きだし
閉じていた瞳を徐々に開け、俯いていた顔を少しずつ上げていく・・・
すると机の上に野崎から借りた
乾かす為に机の上に置いたままにしていたハンカチが目に入り
柊はそのハンカチを手に取ると、 まだ少し湿っているソレを上着のポケットに仕舞い
意を決したかの様に席から立ち上る
-どうせ・・・“従う”しか選択肢がないんだから――
柊がポケットにしまった野崎のハンカチを握りしめながら
ゆっくりと緒方が居る方へと歩きだす・・・
-無駄に足掻く事無く・・・
大人しく従う道を選んだ方が――俺自身・・・ 楽になれる・・・
まだ柊の中には抗う気持ちや足掻く気持ちはあるものの一一
弱みを緒方に握られている今の状況では全てが無駄だと判断した柊は
それらの気持ちに蓋をし
限られた――選択肢とも呼べない選択肢の中
自分が楽になる為にも緒方に “従う”とい選択肢を選び取り
覚悟を決めて緒方の元へと歩み寄る・・・
「緒方…先生…」
柊は緒方のすぐ傍まで来ると、震える声で緒方を呼ぶ
「――柊先生…やっと来てくれましたか…」
緒方は纏めていた書類を封筒に収め、 鞄に仕舞うと
怯える柊を見上げながら緒方が静かに口を開く
「昨日の今日ですからね… 今日は――手短に終わらせてあげますよ…
まあ・・・それも貴方の心がけ次第ですが――」
[………
柊はその言葉に一瞬身体を強張らせるものの
虚ろな表情のまま緒方を見据える・・・
…?
心ここに在らずで反応の薄い柊に、緒方は訝しむが
直ぐに意地の悪い笑みを浮かべると
柊の動揺を誘うかのように更なる言葉を続ける
「それより今日の昼食の時一一
随分と楽しそうに野崎先生と話をしていらしたじゃないですか…
一体何をそんなに楽しそうに話してたんです?ねぇ・・・ 柊先生?」
「….、」
ねっとりと…絡みつく様な緒方の問いかけに
ポケットの中で握っていた野崎のハンカチを更に強く握りしめ
柊はヒュッと息を飲み込む
見られてた・・・
柊は緒方に見られていた事に妙な腹立たしさと恥ずかしさを覚え
緒方から顔を逸らしながらグッと歯を食いしばる・・・
「そんな苦々しい顔をしなくても――
わざわざ周囲に言ったりしませんよ。 貴方が――野崎先生を好きな事・・・」
「な…っ、」
唐突に緒方の口から飛び出た発言に、 柊は目を見開いて緒方の顔を凝視する
「毎回野崎先生に絡まれるつど
恋する乙女の様に顔を真っ赤にしながらあんな風にあたふたしていたら――
そりゃ誰だって気づくでしょw
野崎先生本人くらいじゃないですか?w
未だに貴方の気持ちに気づいていないのは…」
あてずっぽうで出た言葉が
予想に反して図星だったらしい事に緒方は少し驚きながらも
柊の反応が可笑しくって緒方は柊を揶揄う様にクスクスと笑い続け
柊はそんな緒方の反応に憤り、 思わず声を荒げて叫んだ
「ッ、うる…さい……っ! 何が…..そんなに可笑しいんだ…っ!
人の気持ちも知らないで…!」
柊は泣きたくなるのをグッと堪え、ポケットの中のハンカチを握りしめたまま
笑い続ける緒方を睨み付ける
「ええ…知りませんよ? 貴方の気持ちなんて・・・」
緒方は笑いすぎて目に溜まった涙を親指の腹で軽く拭うと
スッと刺す様な視線で、 自分を睨み付けている柊の目を見据える…
「だって俺は――そんな誰かを想う貴方の気持ちを踏み躍って―― これから貴方を犯すのだから・・」
ッ..
緒方はそう言うと
絶句し固まる柊の身体を引き寄せた