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第21話 色彩の魔術と血色の偽装
むせ返るような真紅の薔薇の香りが漂う、紅薔薇宮の自室。
私は手鏡を持たせた紅玉様に目を閉じさせ、その顔を改めて検分する。
かつて後宮で筆頭側室として権勢を振るっていた女の顔には、病による極端な黄ぐすみと、目の下に深く落ち窪んだ暗いクマが刻まれていた。血の気を完全に失った青白い唇は、一般的な女官たちが見れば「取り返しのつかない末期の病人の顔」と同情を誘うだろう。
だが、本質は違う。
これは単なる「血液沈下と色素の欠乏」という物理現象に過ぎない。病による影響は明白だが、造形自体が崩れているわけではない。
傍らに置いた自身の仕事道具――遺体(お客様)用の化粧箱を開く。
並ぶのは、通常の白粉や紅だけではない。鮮烈な緑、深く濁った紫。およそ生きた人間の肌に乗せるべきではない、強烈な色身を放つ顔料の数々だ。
私は指先を、淀みなく走らせた。
面相筆と指の腹を使い、紅玉の頬へ躊躇いなく緑と紫の顔料を塗り広げていく。
緑は頬の赤みや炎症の痕を潰すため。紫は、黄ばんだ肌色を打ち消すための統制色だ。
視界の端で、薄く目を開けた紅玉の肩が跳ねた。
鏡に映った己の異様な顔の様相を見て、喉の奥でヒュッと短い息を呑む音がする。
だが、私の手は一ミリも止まらない。
「動かないでください。ズレます。……大丈夫ですから」
平坦な声で告げ、さらに筆を進める。
生者は、遺体と違う。肌には絶えず体温があり、毛穴からは汗が滲む。そのため、顔料の伸びや定着度を都度都度計算し、指の腹にかける圧力を微細に調整しながら完璧な下地を作り上げていく。
異様な斑模様となった下地の上に、私は極薄の肌色の白粉を、叩き込むように重ねた。
その瞬間。
強烈な緑と紫が、黄ぐすみや暗い隈と完全に相殺される。色素の欠落した病人の顔面から、透き通るような白磁の肌が浮かび上がった。
最も細い筆に持ち替える。
血の気のない唇と頬の奥に、ただ表面に塗るのではなく、皮膚の奥から滲み出ているように錯覚させる特殊な赤を「染め上げる」ように定着させる。
完全に血流の止まった遺体に対して、生前以上の生気を与えるための、死化粧特有の手技だ。
最後の一筆を離し、化粧道具を布で拭う。
「……終わりました。目を開けてください」
私の声に、紅玉が恐る恐る閉じていた目を開いた。
ゆっくりと手鏡を覗き込む。
鏡を見た瞬間、紅玉様は完全に言葉を失っていた。信じられないものを見るように、ご自身の頬にそっと指を触れる。その指先は小刻みに震えていた。
鏡の中にいるのは、病みやつれた女ではない。病の痕跡を完全に消し去り、やつれた輪郭すらも儚く高貴な美しさへと昇華された、完璧な造形の美女の姿だった。
私は、驚愕に固まる彼女の様子を、ただ淡々と見下ろした。
この化粧代もきっちり請求しておこう。
コメント
1件
ひぇ〜〜!! 第21話、めっちゃ引き込まれた!!😳✨ 「色彩の魔術と血色の偽装」ってタイトルからしてカッコよすぎる…! 緑と紫の顔料を重ねて病んだ肌を白磁に変える手技、めちゃくちゃ細かく描写されてて、まるで目の前で施術を見てるみたいだった…!! 化粧代きっちり請求するところでニヤリとしてしまった🤭💕 紅玉様が震える指で自分の頬に触れるシーン、すごくエモかったです…!