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面白かったです!柚葉さんの「私の道具の貸し代は高くつきますよ」という最後の台詞、ゾクッときました。普段は淡々としている彼女が、仕事道具を冒涜されたことで初めて見せる冷たい怒り——そのギャップがたまらなく好きです。紅玉様の小さな「ありがとう」にもじんわりきましたね。次の展開が気になります!
第22話 職人の逆鱗と、暴かれた毒の処方箋
私の施した化粧によって、紅玉様の土気色の肌は、血色の良い健やかなそれへと上書きされた。
手鏡を覗き込んだ紅玉様は、元の美貌を取り戻した鏡写しの自分に目を見張っている。信じられないといった様子で、そっと自身の頬に触れた。
「……戻って、いる。本当に、私の顔なの……」
「ええ」
手元の化粧道具を片付けながら、私は淡々と事実を告げる。
「ですが、あくまで特殊な死化粧の技術を応用し、表面を覆っただけです。根本の毒を抜き、真に回復するには、しっかりと養生するしかありません。今は決して無理をしないように」
「……ええ。分かったわ。その……」
沈黙。やがて、彼女の唇から、躊躇うように吐息が漏れた。
「あ、ありがとう」
あの高飛車だった紅玉様が、小さな声だが礼をこぼしていた。
これ以上の長居は無用だ。
「では、遺体(お客様)が待っていますので。失礼いたします」
そう告げて、私は紅玉様の寝所を後にした。
○
部屋を出てすぐのことだ。
廊下で待機していた侍女頭に呼び止められ、私は人払いのされた薄暗い客間へと通された。扉が閉められ、完全に二人きりになる。
「柚葉殿。此度の件、深く感謝いたします。……何より、医官を呼ばずに内密に対処してくださったこと、改めてお礼申し上げます」
私はそのつむじを見下ろしながら、単刀直入に尋ねた。
「やはり、あの紅玉様に毒を盛っていたのは、出入りの医官ですか」
「……はい。貴女には、全てをお話しするべきでしょう」
侍女頭は重く頷き、紅玉様が追い詰められていった経緯を語り出した。
発端は、翠蓮からの『贈り物』だったという。この後宮において、それは送った相手を『好敵手』と見なすという無言の圧力を持つ。完璧主義の紅玉様は焦りを募らせ、その重圧から不眠に陥った。
そこへ医官が、不眠解消と称して持ち込んだ薬に頼るようになった。初めは確かに効いたらしい。だが、次第に薬が切れると酷い禁断症状が現れるようになった。苦しむ主を見過ごせず、症状を抑えるために、侍女たち自身の手でその劇薬を飲ませてしまっていたのだという。
「……愚かですね。主の異変に対して、目先の安寧を優先し怪しい薬を飲ませ続けるなど。一番近くにいる貴女たちが止めるべきだった」
私の冷たい指摘に、侍女頭は痛ましく肩を震わせた。
だが、最も罪深く、最も悪辣なのは、そんな毒を処方し患者を薬漬けにした医官であることに間違いはない。
「ところで、一つ確認を」
私は、ずっと腑に落ちなかった違和感を口にした。
「私からの贈り物だと称して、不完全な死装束が届いたはずですが。私はそのようなものを送っていません。なぜ、私からのものだと判断したのですか?」
侍女頭は青ざめ、泳ぐ視線を床へと落とした。
「それは……あのお品の中に、柚葉殿の持ち物が、添えられていたからです。貴女がいつも持ち歩き、地下の仕事場に置かれている『特殊な刃と小瓶』が添えられていたからです」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中で、何かが冷たく弾ける音がした。
地下の遺体安置所に置いている、私の大切な仕事道具。
何者かがそれを盗み出し、あろうことか、生者を罠に嵌めるための低俗な嫌がらせの飾りに使ったというのか。
「…………そうですか」
口から出た声は、自分でも驚くほど平坦で、温度を持っていなかった。
死者に寄り添い、最期を美しく送り出すための神聖な道具。それを、あんな陰謀に冒涜された。その事実が、私の腹の底に、冷たく、重く、黒い怒りを沈殿させていく。
私は無意識に強く握りしめていた拳を解き、侍女頭を真っ直ぐに見据えた。
「その医官の名前を書きなさい」
侍女頭は震える手で紙に名を記した。
「今日の深夜、再び薬を届けにここへやって来ます。どうか……よろしくお願いします」
「ええ。お預かりします」
差し出された紙を受け取り、私は即座に客間を出た。
向かう先は一つだ。私は一切の躊躇なく、皇帝直属の近衛兵の詰め所へと直行した。
夜の帳が下りた宮の回廊を歩きながら、懐にしまった紙の感触を確かめる。
詰め所に到着するや否や、私は卓の上にその紙を滑らせた。
「深夜、紅玉様の宮に毒を持った張本人が現れます。逃げ道のないよう、網を張ってください」
不意の訪問と物騒な要請に怪訝な顔をした近衛兵だったが、紙に記された名と私の真剣な眼差しを確認し、力強く頷いた。
――私の道具の貸し代は、高くつきますよ。