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2 - 君の為

♥

538

2025年04月26日

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「っ、…涼ちゃん、俺上手く出来ない。」

そう言った元貴の手のひらに持たれていた楽譜にぐしゃりと力が入る。視線を床へと落としたまま弱々しく呟く瞳が苦しげに揺れた。

「…大丈夫だよ!僕たちなら絶対形に出来るから!」

不幸の雨が降り続き

「そんなん言ったってさ、…確証なんてないじゃん。涼ちゃんも若井も、技術的に限界だってあるんだから。」

「は、?何だよそれ!」

僕の隣に座ってた若井が、ガタリと椅子を揺らして立ち上がった。視界の端にある拳が強く握られていて、表情を伺わずとも心の内は分かる。でもきっと僕とは違う。

傘も無い僕は 佇む毎日

「……元貴、ちょっと休も?皆多分疲れてるよ。元貴だって喉の調子悪いんでしょ。」

僕に向けられた元貴の瞳にじわじわと透明の膜が張る。自身の座っていた椅子を立ち上がり、元貴の傍に歩み寄って、震える身体をそっと抱き締める。元貴の言葉は全部本心ではないはずた。僕の心が嘘をついたとしても、みんなと紡いだ時間は偽れない。僕が2人に追いつけていないのも、本当だ。

伝えられるのに僕らは

「………俺だって必死なんだよ。」

「、!若井、!!」

後ろで小さく呟かれた若井の声。酷く苦しそうな声色で、思わず振り向くが、 残されていたのは無機質な音を立てて閉まる扉だけだった。

壁を作って逃げた

でも なんでなの

「…ね、元貴。」

「ん……」

若井を追いかけなくては、という焦燥をぐっ、と堪え、抱き締めたままの元貴の背中を優しく撫でる。幼子に言い聞かせるよう、なるべく穏やかな声色で口を開く。

「僕が元貴の才能に追い付けないのはちゃんと分かってる。でも若井の事は認めてあげてよ。」

人が連なって 生まれる意味も

「…さっきのは、…」

そう言いかけた元貴の唇に人差し指を重ねる。大丈夫、分かってるよ。でも僕は言葉にはしない。

人が散らばって 消えゆく星が泣いてるよ

「誰も欠けたくなんてないから。」

元貴もそうでしょ?と小さく微笑んで問いかければ、先程よりも強い力で抱きしめ返された。

「涼ちゃんが居てミセスだからね!」

色が付いたら 僕に名前をと

僕が居なきゃダメだって、元貴から何度も言われた言葉。僕らが3人で、価値ある光を浴びるんだ、って。キラキラと目を輝かせて言った君の姿が鮮明に思い出される。でも今の元貴の目にはそんな光なんて無い。色々なことを思い詰めたような、複雑な瞳。

空が茜色に染まるあの様に

「…元貴の為ならずっとミセスで居るよ。」

君が笑えるならば側にいよう

「ほら、ちょっと休んでて!喉も安静にさせるよーに!!」

わかりまーした、と気の抜けたような返事を返す元貴の頭を雑に撫で、ポケットに入っていたのど飴を差し出す。もうすっかり涙は引いたようで、無邪気な笑顔を向けてくれた。感情が上手く操作できない時、思っていないことを口走ってしまう気持ちも分かる。そんな2人の為の僕なんだから、もっと支えなくては。きっと大丈夫、全部上手く行く。僕が音を創り出すんだ。

僕が傘になる 音になって 会いに行くから

La,la,la,la,la,la,la,la,la,la

Umbrella.






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