テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
※このお話には少しグロめなシーンが含まれています。ご注意ください。
煌めく光。
ポツンポツンと淡く色を残すそれは、僕には降り注がない。
僕がそれから逃げているから。
…いや、近づけないから。
沢山の都会のお洒落な店が、遠く見える。
(眩しいなぁ。)
薄汚れた灰色のビルとビルの隙間に座り込んでいた。
目を瞑っても瞼をしつこく照らす灯り達を煩わしく思って、
俯いて腕で顔を覆う。
見えて、しまった。
母親と幸せそうに手を繋ぐ幼子。
愛おしげに雑談をする男女。
笑顔で走り回っている学生達。
見てしまった。
ああ、見たくない、見たくない、見たくない。
自分が惨めになる。可哀想になってしまう。
失敗してしまった人生を後悔したくなる。
(ああ。)
生き地獄だ。
死にたいなあ。
そんなことを思った瞬間、
湿った温い風がピュウっと吹いて体を撫でた。
夜の匂いが濃くなる。
(あれ。)
車のクランクションの音だけがやけに頭に響く。
街の音が聞こえなくなって。
虚ろのまま顔を上げた時。
「死にたいん?」
僕は死神に出会った。
「死にたいん?」
「うん。」
「ほんまに?」
「痛くて、痛くて、きっと生き地獄の方がマシって思うかもしれんで?」
「うん…いいよ。」
頭が、ふわふわしていたんだ。
何故だかは覚えていない。
死んだらどうなるか知らなかった。
消えるのは怖いって知らなかった。
僕の本当のねがい。
痛くて、苦しくて、叶わなくて。
忘れようとしたねがい。
いまだからこそ希うの。
慈悲を向けるような、失意を孕むような、
複雑で、恐ろしく、美しい。
海の深さの瞳をしながら。
死神は言った。
「じゃ、殺していい?」
静かに頷いて
僕は、次の瞬間________。
『あ”ぐっ』
気持ちが悪い。
喉から、腹の深い所まで。
手を入れられて掻き乱されているような。
吐き気がする。
胸から喉に不快感が迫り上がってくる。
いや、喉じゃない。心臓?脳?大事ないろんなところに
不快感が圧迫感に変わって。
圧迫感が痛みに変わって。
苦しい。苦しい。苦しい。くる
「….やから言ったのに。」
「死ぬってのは、こういうことなんやで。」
人影が倒れ込んだ僕に被さる。
「なぁ、死にたくない?」
そうだよ。
しにたくない。しにたくない。
痛いのは嫌いなの。でも苦しいのも嫌いだったから。
ただ、僕がいなくなりたかっただけなの。
『お”ぇ”…しに”たく、ないぃ….』
『ぅ…“きれいに、けして…。
ぼくの、こと…。』
血が混ざった嘔吐物が床に広がる。
こんな苦しい思いするくらいなら、存在ごと消してもらえた方が良かった。
そう考えて、やっとの思いで返事をしたとき。
彼はニヤリと笑った。
「死にたいの次は消えたい、ね。」
「…そう。その願い叶えてやるよ。」
「じゃあついでに、」
“カラダ、寄越せ”
自分のカラダが自分のものでなくなる。
自分はどこへいくのだろう。
消える、ってこういうことなんだ。
死にたくも、
消えたくもなかった。
生きるのをやめるのも嫌だった。
その先に待ち受ける”空白”は、恐ろしくて嫌いだったから。
ただ、
みんなみたいに、
あの子みたいに楽しい人生を送ってみたかった。
幸せに生きてみたかった。
それだけだったの。
「…それだけ、ねえ。」
「中々滑稽なもんやな、人間ってのは。
死にたいの意味を履き違えて、
消えたいを口にして。
そして2つを知り、生きるよりも苦しんだ結果、最終的には自分が一番かわいいって気づく。
ああ、なんて阿呆でかわええんやろう。
だから俺が体を貰ってあげる。
自身の身体すら上手に扱えない不器用で可哀想で愛おしい子。俺が救ってあげる。
だから、安心して眠ってええんよ…。」