その日その瞬間、世界の底が抜けた───。
今この世界は別の世界線からやってきた侵略者によって危機に瀕している、らしい。
侵略者はモノクロームのピエロの格好だったり、この世界の創造主ともいえる市長や市長補佐とそっくりな見た目だ。ただ、別人であることは個人のプロファイルによって判明している。
これだけだと現実味もなくどこかのSF小説や映画のようだが、れっきとした現実だ。現に市内の公共施設や主要施設・店舗が見たこともない武器で襲われU.F.Oまで現れている。
市長の判断により、我々はこの世界線を捨て別の世界線に転送されるらしい。
連日の襲撃の中、慌ただしく開かれた記者会見で市民全員に告知された。
来たる日のため市民は準備や防衛に浮き足だった。
最終決戦ともいえるその日、侵略者の攻撃はひときわ激しかった。
マップはハッキングされ、停電も起き、街はロックダウン状態。天候もおかしかった。
そして、市内各所や転送に関わる住民を守るため公務員もギャングも一般市民も関係なく戦った。
転送開始まであと少し。SWATや救急隊のダウンが多くなりダーク山下と呼ばれる別世界線の市長が最重要拠点の入り口まで迫ったとき。
市からの「全人類を転送します」のアナウンスとともに、住人は空中に放り出され、意識を失った。
その日、その時。
ミンドリーは本来の持ち場を離れ、本署のエレベーターホールにいた。
そもそも最重要拠点の防衛を行っていたSWAT隊長であるミンドリーが、なぜ持ち場を離れたのか。
防衛戦の最終局面。ミンドリーは赤城から本署で20名近くのダウン者がいて救急隊・個人医の蘇生が間に合っていない可能性があることを告げられた。
即座に本署防衛メンバーを思い浮かべた。メカニック9055社員、BJローン、救急隊・個人医、そして署長をはじめとした警察官たち。BJローンは元ギャングメンバーとはいえ、当時どちらかと言えば前線ではなく後衛を行っていたメンバーのはずだ。メカニックはそもそも戦うことになれていない住民がほとんど。警察官も本署は最重要拠点ではないことからSWAT主力ではなく署長を含め、普段サポートや市民と関わりが多いメンバーを振り分けた。
そして、その中にこの街の家族である二人がいた。もちろん二人の実力を知っているし信頼している。だからこそ班分けをする際に戦いになれていない住民が多く、自分たちが帰る場所でもある本署を任せた。
ほんの数瞬でそこまで考えてしまった時、警察官のダウン通知が届いた。
警官が倒れている
シナー・ストリート、ミッション・ロウ(本署)
伊藤ぺいん
この時は警察官のダウン通知など山のように鳴り響き、自分が防衛している箇所のメンバー以外を気にかけている余裕などなかった。
だが、見てしまった。気付いてしまった。その場所と名前に。
考えながら足が動いた。すぐ最終防衛ラインの様子を確認し、霊明とレッサンにその場を任せた。霊明は自分が確認に行くと言ってくれたが、その時間すら惜しく「個人的に心配だから」と告げ移動した。
移動中、自分が離れたJTSをダーク山下が襲い始めたという無線報告があったが、たどり着いた本署もまた襲われていた。
その場にいた個人医に救助状況を聞き、救助が間に合っていることを確認すると署内に発生したピエロを倒しながら状況把握に動いた。案の定現場は混乱を極め、戦いになれていない市民の悲鳴も聞こえた。
「さぶ郎、お前一人で行くな!」
「おい、ダーク山下お前!」
「ぺいん先輩、逃げてください!勝てない!」
「ぐわぁぁぁっ!」
こんな場で姿は見えなくても彼の声はよく聞こえた。
ミンドリーは駐車場側入り口内部にいた敵を殲滅すると、高所を取るべくエレベーターで屋上に移動した。
───それがいけなかった。扉が開いた瞬間、待ち構えていたピエロに撃たれ倒れてしまった。
自分がここでダウンしていることを知るものはいない。そもそもこのタイミングで本署にいることを知っている人物すらほぼいない。
動かぬ体でなんとか一階まで移動し、助けを呼んだ。
───このままではまずい。
そう思った時、ミンドリーの声にぱちおが気付いてくれた。だが、本来この場所にいないと思われているせいか、エレベータ利用で起こる歪みだと思われてしまった。
先ほどの襲撃でダウン者が多く救急隊も個人医も救助の手が回らないのかこちらに気付いた様子はなかった。
「ミンドリー?」
助けを呼ぶ声は、確かに彼に届いていた。
ただ、ミンドリーにこのことを知るすべはなかった。
全人類を転送します
そのアナウンスが流れたと同時にミンドリーはたった一人で空に投げ出された。
───どういうことだ?まずい。
思わず声に出した時、世界も意識も闇に包まれた。
後輩に任せたJTSと最終防衛ラインは無事だったのか。
市長の思惑通り、転送はできたのか。
仲間は、家族は無事なのか。
この暗い世界で意識はあるのかないのか。自分は生きているのか。
願わくばもう一度───。
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