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何番煎じか分からん。
「久しぶりの出勤だなぁ」
ある日の昼下がり。「ミスリ課ハウス」と呼ばれる自宅で起床した伊藤ぺいんはスマホを取り出し、ステートアプリで警察の出勤人数を確認した。
この時間帯なら10人は出勤しているはずなのに、この日は後輩のレッサンとるんるん、ブロッコリー斎藤のみ。この街の家族であるさぶ郎も同期のミンドリーや皇帝もいないのは珍しい。
そんな日もあるかと思い、玄関へ歩きながら出勤して無線に入る。
あいさつをしようと思ったところで先にレッサンの悲鳴が聞こえた。
「ぺんぱい!助けてぇっ!」
「なになに?どうしたの?」
「早く本署に来てください!もう私の手に負えないぃ」
「すぐ行くから、ちょっと待ってて!」
今まで数回しか聞いたことのない焦ったレッサンの声。緊急事態だと思い急いで建物の玄関を出た。本署は道路を挟んで向かい。そちらに目を向けると、すぐ異変が分かった。
「なに、これぇ」
目の前には本署駐車場。いつもと違ってそこには大量の動物がいた。レッサンとるんるんは動物たちが敷地外に出ないよう必死に追いかけている。
「コラー!あんたたち、言うこと聞きなさーい」
「あーん。言うこと聞いてー」
「………帰っていいかな」
玄関前でぼやいていたぺいんに気付いたレッサンが大声で呼びかけた。
「ぺんぱい、早くこっち来て!動物たちが出ちゃうぅ」
レッサンの声に気付いた動物たちがこちらに気付き、駆け寄ってきそうな気配がした。大量の動物が敷地外に出るのは大変まずい。ぺいんは諦めた感じで駐車場に向かった。
「レッサン、どうしたのこれ。前に救急隊が動物を増やしてレギオン周辺が大変になったことあったけど」
「私も出勤したらこんな状態で、もう訳が分からないです。やたら人なつこいし、見覚えのあるアイテムを着けた動物もいるし。………ちょっとそこは考えたくないですけど」
レッサンを見れば、言葉の通り見慣れたゴーグルを首にかけたキツネを抱えている。まとわりついて離れないから抱き上げたらしい。ぺいんがキツネを見ると涙目でこちらを見てきた。
ぺいんがそうしていると軽く腰を押された。振り返ってみるとそこには紙袋を咥え、見たことのあるストールを首に巻いた白いオオカミがいた。オオカミはぐいぐいとぺいんに紙袋を押し付けてくる。中を見ろと言っているようだった。
ぺいんが紙袋を受け取り、中を覗くと子猫が飛び出してきてへばりついてきた。みーみーと鳴いている姿はかわいらしいが、問題はその中身、いや正体だ。
「もう、この紙袋がさぶ郎のやんけ。いやな予感しかしないわ」
「お前さぶ郎か?」と問えば、子猫の鳴き声が大きくなった。
「で、お前はミンドリー?」とオオカミに問えば、正解だと言わんばかりに目を伏せる。
「で、あの馬は署長、と」その視線の先では馬がうろうろしていた。
その近くにいるゴリラ2体はテンガロンハットをかぶっていることからしょうじとボイラだろう。他にもどことなく同僚たちの面影がある動物がいる。もう頭を抱えるしかない。
「レッサン、これは悪い夢だ。もう一度寝れば治るかもしれない」
「ぺんぱい、現実です。帰ってきてください」
しばらく動物たちを眺めていたが、このままでは本当にどうにもならない。
ぺいんの胸元のさぶ郎らしき猫はずっとしがみついて鳴いているし、ミンドリーらしきオオカミも心配そうに見上げている。
「よし。まずは現状を把握しよう。レッサン?今日出勤している警察官わかる?」
「とりあえず、私とるんるんですね。さっきまでブロもいたんですけど、面倒ごとと思ったのかパトロールに出ました」
「じゃぁ、斎藤を呼び戻して。僕は病院に電話してみる」
改めてステートを見ると救急隊の人数も少ない。この事態は警察だけではなく他でも発生しているかもしれない。
程なくしてましろ先生に連絡がついた。聞けば病院に怪我をした動物を抱えてくる住民もいることから、これは街全体の歪みらしい。
ぺいんは後で病院を訪れることを約束し電話を切った。これは本腰を入れて対応するしかないらしい。
しばらくSWAT業務はできないと感じたぺいんは、久々に警官の服装に着替えた。おとなしく更衣室の外で待っていたさぶ郎を抱き上げると上着の中に入り込みモゾモゾしていたが、最終的におなかあたりに落ち着きそのまま寝てしまったようだ。
「オルカ出勤したー」
「オルカ、駐車場に来て。大変なことになっている」
まずは署内をなんとかしようと元警官らしい動物たち含めて地下駐車場に集めた。元々個性の強い警官たちだからか言うことを聞かない動物たちは動き回ったり、吠えたりで騒々しかった。
「僕なめられてる?」
無事な警官たちでなんとか動物たちを落ち着かせようとしているが、動物たちは一向に言うことを聞かない。
その時「ウォン!」とオオカミが吠えたら、動物たちは一斉におとなしくなった。
その様子を見たオオカミは動物たちのクビをくわえて運び、うるさい動物を足で押さえつけていた。
無事な警官は今のところ、ぺいん、レッサン、るんるん。ブロッコリー斎藤と後から出勤してきたオルカ。この後起床した警官がどちらの姿になっているのかが分からない以上、この人員でなんとかするしかない。
「救急隊に聞いたら同じようなことが他の場所でも起きているらしい。これ街全体の歪みかもね」
「ぺいん先輩。僕、パトロールしてきたんですけど、動物があちこちであふれていましたね。どこも同じで混乱しているかもしれません」
「とりあえず、ここの動物たちは署内というか建物内に集めた方がいいね。馬とかいるから地下になっちゃうけど」
「さすがに市長補佐か市長に連絡してみます?だんさんの連絡先なら私持っていますけど」
「いやステートに市長がいるから僕が聞くよ。救急隊にも行きたいから外回りとか連絡は僕がやる。その代わり他のみんなは動物の面倒をみるのと市民対応して欲しい」
「じゃぁ、オルカは窓口と動物の面倒をみよう。るんるんとレッサンも手伝ってほしい。ブロッコリーは大型動物をお願い」
「えぇ〜。僕、大型動物っすか。大変そうなんですけど」
「人数少ないんだから文句言わない!」
「はぁい」
ぺいんは一度この場をオルカたちに任せ、病院に向かおうと駐車場に向かった。相変わらず上着の中でさぶ郎が猫のまま寝ているが仕方が無い。パトカーを出したところで裾をひかれたのでそちらを見るとオオカミのミンドリーがいた。
「何?一緒に行くの?」
助手席のドアを開けるとオオカミは乗り込んだ。本当に一緒に行くらしい。一応シートベルトは着けてあげたが意味があるとは思えないため、速度を出さずに運転する。
程なくして病院に着く。停めたパトカーの助手席のドアを開けるとオオカミも降りてついてきた。そのまま入り口の自動ドアを通ると奥からましろが声をかけてきた。
「こんにちはー。救急隊の様子を見に来ました」
「風ぇ。警察の方はどうだ?」
「無事なのが僕、オルカ、レッサン、るんるん、斎藤で後はみんな動物です。事件対応はできないっすね」
「救急隊も俺、ももみさん、イロハさんだけだね。他もこんな状態らしいけど救助要請はそこそこあるって感じかな」
「了解です。こちらもなるべくダウンはしないように気をつけます」
「で、そのオオカミは?」
「多分ミンドリーです。こちらの言うことは分かるし人としての意識もあるようですが、いかんせんしゃべれないみたいで」
ぺいんがましろと情報交換をしていると奥から救助が終わったらしいもみみとイロハがやってきた。イロハに気付いたのか、ぺいんの上着の中で寝ていたさぶ郎が起き出しイロハに飛びついた。
「ちょっ!痛い、痛い。爪立てないで!なんですかこの子猫。かじらないで!」
「すんません、それ多分さぶ郎です」
「まぁ、かわいい猫ちゃんだこと!」
イロハはうっとうしがっていたのに猫の中身がさぶ郎だと分かると手のひらを返して愛で始めた。
ましろの話によると、救急隊で動物になった隊員はおとなしいようで宿直室にいるそうだ。イロハになついたさぶ郎を、騒がしい本署にいるより安全だろうとそのまま預けることにした。
引き続きぺいんとましろが話をしていると唐突に市長がやってきた。
「住民が大変なことになっていると聞いて様子を見に来たんだが」
「市長、この後に連絡しようと思ってたんですよ」
「だろうね。他もこんな状態らしいから市役所に各所の代表を集めて説明と情報共有を行おう。救急隊、警察それぞれ上官1名ずつで良いから来てほしい」
「でしたら警察からは僕がこのまま行きますわ。今のところランクが一番上なので」
「救急隊はももみが行きますね」
「ところで、なんだこのオオカミは、なにげに威嚇されて失礼なヤツだな」
「おそらくミンドリーです。どうもこっちの言うことは分かってそうなので連れて行きます」
会合はすぐ始めたいとのことだったので、ぺいんは無線で会合と市役所に行くことを伝えそのまま向かった。もちろんオオカミも一緒だ。
市役所には既に他の住民も集まっていた。
警察からはオオカミをつれたぺいん、救急隊からはももみ、個人医はマイゴ・ニ=ナリエル。ギャングはケイン/オーとクマゴリ。メカニックから9055のこさ猫弐郎がきたが他の面子が自分より街にいる期間が長いため少し萎縮していた。
まずは市長から今回の事態の原因が話された。
市長補佐がイベントに合わせて動物の耳や尻尾を模したアクセサリやマスク、着ぐるみを追加したところ、盛大に歪み散らかしたらしい。
歪みの影響を受けなかった住人は全体の1割ほど。多種多様な住人の中で元々獣性をもつレッサンたち、妖精であるるんるんやロボットのケインが無事なのは分かるが、それ以外にも無事な住人がいるのでランダムで発生しているのかもしれないと推測された。
歪みの影響が少ない住民から自然に元に戻ると思われるが、完全な解消まで1週間かかるとのことだった。
「市長。こういう歪みは何度目?」
「誠に済まん」
「原因は前と違う?」
「ああ。前の歪みは再発しないよう対応済みだ。今回のは全く別の原因だ」
「ちゃんと確認しろって」
「それに関しては本当に済まない。住人の多様性まで考慮しきれなかった」
集まった住人からチクチクされる市長だが、起きてしまった歪みはしょうがない。解消に励んでもらうしかない。
獣性に引っ張られている住民と、言葉は通じないが人としての知性が残っている住民、それぞれがいることも分かった。幸い職種がバラバラなので各々の職場で無事な住人が面倒を見ればなんとかなるという算段だ。
街全体の歪みならば白も黒も関係なくなる。事件や市民の対応、医療体制、飲食、メカニックの方針を共有してこの場は解散となった。
会合が終わり本署に戻ったぺいんは無事な警官に決まったことを共有した。
その後署長室に入り、情報の整理と後から起きる警官向けにタブレットで記録を残していた。その間もずっとオオカミはついてきていた。
ぺいんがふと気付くと足下でカチャカチャ、たしたし、びしっと聞き慣れない音がした。
椅子の足下を覗くと、どこからか警官用タブレットを持ち出したミンドリーがオオカミの前足でタブレットをたたいていた。オオカミの足では指紋認証が通るはずもなく画面は暗いままだ。
「気持ちは分かるけど、それ以上やると壊れるからやめてね。ひびが入ったような音がしたよ」
ミンドリーはしばらくタブレット見つめていたが、無理だと言われるとそのまま足下で伏せた。
歪み発生から二日後
歪みから戻れた住民が少なく、事態になれたせいか救助を要請する住民が少ないこの日。病院の待合ロビーではずっと外を見ている猫のさぶ郎の姿があった。病院に来た頃はずっとイロハにべったりしていたが、イロハが救助に出かけたり治療をしている間はこの場所でおとなしくしていた。
しばらくじっとしていたが、急に耳を立てたさぶ郎は急いで自動ドアまでかけていった。
自動ドアが開きやってきたのはぺいんとオオカミのままのミンドリーだった。パトロールで病院に来たらしい。
見慣れた姿に安心したのかさぶ郎はぺいんに飛びつくとみーみーと鳴いてしがみついた。
「さぶ郎。さびしかったのか?」
ぺいんは猫のままのさぶ郎を抱き上げなでていた。やがてさぶ郎は満足したのか前のようにもぞもぞと上着の中に入り込み、そのまま落ち着いたのかおとなしくなった。
「お手数をおかけしてすいません」
様子を見ていたももみにぺいんは話しかけた。イロハはちょうど治療中らしい。
「さぶちゃん、良い子にしてましたよぉ。でも寂しかったみたいでずっと外を見ていました」
「こちらこそ皆さんに甘えて預けっぱなしにしちゃいました。寝ちゃったみたいだしこのまま連れて帰りますね」
「やっぱり家族のそばが一番安心すると思いますよ」
「そうですね」
この日から、ぺいんの足下にはオオカミになったミンドリーが、猫になったさぶ郎はぺいんの服の中かミンドリーの背中が定位置になった。
歪み発生から五日後。
街では徐々に元の姿に戻る住民や、耳や尻尾など一部は残しているがほぼ人型に戻った住民が増えていた。あの日以降初めて起床した警察官は歪みの影響を受けていないようでまだ動物の姿のままの者の世話やパトロールを任せた。
そんな中、ぺいんは相変わらず署長室で関係各所との連絡や共有事項をまとめていた。
しばらく作業に没頭していたら、ミンドリーが服の裾を引っ張ってきた。
「どうしたー。かまってほしいのか?」
そう言いながらぺいんはオオカミの頭をなで、首をかいた。オオカミはしばらく目をつぶって気持ちよさそうにしていたが、はっとして改めてぺいんをソファの方に引っ張っていった。そのソファではさぶ郎が丸まって寝ていた。
「今、資料をまとめているんだって」
ぺいんのそんな言葉にお構いなしのオオカミは押して引いてでぺいんをソファに座らせたあげく、引き倒して自身にもたれさせた。
「休めって?」
オオカミはそうだと言わんばかりに目を伏せた。この様子に譲らなさそうなことを感じ取ったぺいんは横で丸まっていたさぶ郎を抱きかかえるとそのまま目を閉じた。
「仮眠とるわ。誰か来たら起こしてね」
しばらくすると穏やかな寝息が聞こえてきた。
数時間後、署長室のドアが開く音がした。
「すまん、ぺいん。復帰するから情報共有してくれ」
声の主は皇帝で耳と尻尾が残ったままだが復帰するつもりで情報を聞きにやってきたところだった。
足音の段階で気付いていたミンドリーは皇帝の声の大きさに威嚇し、さぶ郎はひっかき、かみついた。
「ちょ、さぶ郎、痛いって。ドリーも威嚇するな!」
皇帝はやめるように言うがさぶ郎もミンドリーも止まらない。
「お前らこっちの言うこと分かってるだろ。ずっと出勤しているぺいんに話を聞かないとダメなんだって。あと、絶対元に戻れるのにしないで甘えているだけだろ」
そうこうしているうちにぺいんが目を覚ました。ぺいんは皇帝とさぶ郎、ミンドリーの剣呑な雰囲気に気付かず「誰か来たら起こしてって言ったでしょ」とのんきに言っている。
「おはよう、ぺいん。情報共有してくれ」
「皇帝、耳と尻尾残ってるけど」
「この状況で容姿を気にかける余裕はないだろ。動ける者が動かないと」
「了解。助かるよ」
ソファに座り直した二人はタブレットにまとめた情報を見ながら話をした。
ギャングは自分たちでなんとかしている。ぺいんは救急隊と連携をとって事件性があるものの対応をし、市役所を含め各所とやりとりをしている。直近の市民からの情報はオルカがまとめているから聞いて他の署員と同じように手分けして対応して欲しい。
そのことを伝えると皇帝は「メカニック周りに行く」と言って署長室を出て行った。
皇帝は駐車場でパトカーに乗ろうとしたところで乱歩に声をかけられた。
「皇帝先輩、その格好で復帰ですか?」
「そんなこと言ってる場合ではないだろ。今ぺいんに状況を聞いてきたからメカニック回ってくる」
皇帝の言葉に引っかかりを覚えた乱歩は皇帝に質問した。
「もしかして署長室に行きました?」
「そうだが?」
「守護神にかみ殺されそうになりませんでしたか?」
「守護神って。さぶ郎に引っかかれてドリーに威嚇はされたが」
「俺、起こそうとしたら引きずり倒されて押さえつけられてかみ殺されそうになりました。肝が冷えました」
まぁ、先ほどの署長室の様子を思い出せばさもありなんといった感じだ。共有を受けた今だからこそ分かるが、当初の無事な警官の数を考えれば各自の負担は相当なものだったろう。
「まぁ、この際だ少し休ませてやれ」
乱歩にそう告げ、皇帝は愛車でパトロールに出かけた。
一方、署長室ではすっかり目を覚ましたぺいんと相変わらずくっついている猫とオオカミの姿があった。
「目、覚めちゃったし、お腹すいたからパトルールついでに買い物に行こうかな」
その言葉を聞いた猫とオオカミはそわそわし出し、猫はしがみついてきた。
「一緒に行く?」
その問いに猫もオオカミも尻尾をゆらし、おとなしくついてきた。
市長の宣言通り、歪みは発生から一週間で解消され、動物に変化した住民は全員元に戻った。予想通り、動物の姿になっていた時も元の人格は残っていたし、元に戻った後も動物の時の記憶を引き継いでいた。
普段のイメージと異なった動物の姿をした者や周りにお世話されまくった記憶のある者は「黒歴史だ」と言い、市長を襲うと公言している者もいるらしい。
しばらくはこういったやりとりもあるだろうが、数日もすればいつも通りの騒がしい街に戻るだろう。
歪みが治まってからしばらくして、明味房の開店準備をしていたミンドリーは店員でもあるルウ・ギャラクティカに声をかけられた。歪み中、ぺいんが明味房に買い物に来たところの写真をくれるらしい。
写真には胸に猫を抱え、オオカミを従えて歩くぺいんの姿が納められていた。ここ数日間ですっかり見慣れた光景だった。
「ありがたく貰っておくよ」
このように市内には動物になったり尻尾・耳付きの住民の写真が出回り、市長陣の思惑通りか導入された新しい動物の耳や尻尾のアクセサリやマスク、着ぐるみは飛ぶように売れたらしい。