テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
数週間後、麻衣は健太との関係にも異変を感じ始めた。
「最近、忙しくて会えないね」
健太がため息をついた。
「ごめん。プロジェクトが今、難しい状況で……」
「そっか。ところで、氷室さんも大変そうだよね。でも彼女、本当に頭が切れるからな」
健太の言葉に、麻衣は違和感を覚えた。
「健太、氷室さんと話したことがあるの?」
「ああ、先週、君の会社の近くで偶然会ってね。君のことを心配してくれてたよ。『佐倉さん、最近お疲れのようで』って」
麻衣の心に不安が走った。玲香が健太と接触している?
それは偶然なのか、それとも……
その夜、麻衣は一つの決断をした。
玲香の正体を暴く必要がある。
翌日から、麻衣は探偵のような行動を開始した。
玲香の行動パターンを観察し、彼女が残業後にどこに向かうのかを調べ始めた。
そして一週間後、麻衣は衝撃的な光景を目撃した。
高級ホテルのラウンジで、玲香は見知らぬ男性と密会していた。
その男性は、ミラージュ・エンタープライズの最大のライバル企業「アトラス・コーポレーション」の営業部長、森川だった。
「来月の入札情報、確実に手に入るの?」
森川の声が麻衣の隠れている柱の陰まで聞こえてきた。
「もちろんです。宮塚部長は私を信頼していますから」
玲香は冷たく微笑んだ。
「報酬の件、約束通りお願いしますよ」
「分かっている。すでに君の口座に振り込んである」
麻衣は息を呑んだ。
玲香は会社の機密情報を競合他社に売っていたのだ。
産業スパイ行為──これは重大な背信行為だ。
翌日の夕方、健太から突然の電話があった。
「麻衣、話があるんだ。今日、会えるか?」
二人はいつものカフェで待ち合わせた。
しかし、健太の表情は沈んでいた。
「実は、麻衣に言わなければいけないことがある」
健太は目を逸らしながら言った。
「俺たち、少し距離を置いた方がいいと思うんだ……」
「え? どういうこと?」
麻衣は突然の言葉に混乱した。
「最近、仕事のことばかりで、俺たちの時間がないだろう。お互い、今は仕事に集中した方が……」
「待って、健太。何があったの? 急にそんなこと言うなんて」
健太は苦しそうに顔を歪めた。
「実は……氷室さんと話をしたんだ。君の会社での状況について」
麻衣の心臓が激しく鼓動した。
「氷室さんは君を心配してくれている。でも、君が最近不安定で、仕事でもミスが多いって……」
「それは嘘よ!」
麻衣は立ち上がった。
「氷室さんが何を言ったか分からないけど……」
「麻衣、落ち着いて」
健太は麻衣を宥めようとした。
「氷室さんは君の友人として心配しているんだ。君が疲れすぎて、現実が見えなくなってるって」
麻衣は愕然とした。
玲香は健太にまで嘘を吹き込んでいたのである。
「私の何が分かるの?」
麻衣の声は震えていた。
「私よりも、最近会ったばかりの氷室さんの方を信じるの?」
健太は何も答えられなかった。
その沈黙が、麻衣への答えだった。
「分かった」
麻衣は冷たく言った。
「もういいわ」
麻衣はカフェを出た。外は雨が降り始めていた。
恋人を失った麻衣は、復讐への意志をさらに固めた。
玲香の産業スパイ行為を証明し、彼女を破滅に追い込む。
それが麻衣の新たな目標となった。
翌週から、麻衣はより慎重に証拠収集を開始した。
玲香の残業後の行動を記録し、森川との密会の日時を把握し、彼女が持ち出している資料の内容を特定していく。
そして、決定的な証拠を掴む機会が訪れた。
金曜日の夜、玲香は残業しているふりをして、重要な入札資料をコピーしていた。
麻衣は隠れたところから、その一部始終を動画で撮影した。
さらに、玲香の机の引き出しから、森川から受け取った手書きのメモを発見した。
「これで十分」
麻衣は確信した。
月曜日、麻衣は宮塚部長に面談を申し込んだ。
「部長、氷室さんについて重要なお話があります」
「何でしょうか?」
宮塚部長は忙しそうに答えた。
麻衣は収集した証拠を一つ一つ提示した。動画、写真、金銭の授受の証拠などなど。
宮塚部長の顔は、どんどん青ざめていく。
「これは……本当か?」
「はい。氷室さんは会社の機密を競合他社に売っています。私たちが負けた案件も、すべて事前に情報が漏れていたからです」
宮塚部長は長い沈黙の後、言った。
「分かりました。これは重大事案だ。すぐに調査する」
麻衣は勝利を確信した。
ついに、玲香を追い詰めることができた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!