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「佐倉さん、すぐに私の部屋に来てください」
宮塚部長の声は冷たかった。
麻衣が部長室に入ると、そこには玲香も座っていた。
彼女はいつもの完璧な微笑みを浮かべている。
「佐倉さん、今朝の件ですが……」
宮塚部長は、重々しく口を開いた。
「調査の結果、あなたが持参した証拠は、すべて捏造されたものだと判明しました」
「え?」
麻衣は耳を疑った。
「氷室さんに確認したところ、あなたが撮影したとされる動画は、画像加工ソフトで作られたものです。第一、メモも通帳のコピーも、そんなものを不用心に見つかるような場所に入れていること自体、不自然なんです。氷室さんはそのような事実はないと証言しています」
玲香は悲しそうな顔を作り、首を振った。
「佐倉さん、あなた、なぜこんなことを? 私たち、同僚じゃないですか」
麻衣は混乱した。
「違います! 私は確かに見たんです!」
「佐倉さん」
宮塚部長の声はより厳しくなった。
「あなたは最近、業務でも多くのミスを重ねています。そして今回、同僚を陥れるために証拠を捏造した。これは重大な問題です」
「そんな……」
「申し訳ありませんが、明日から出社を停止とします。人事部と相談の上、あなたの処分を決定します」
麻衣の世界は崩れ落ちた。
すべては玲香の手の平の上で操られていたのだった。
会社を出た麻衣は、放心状態で街を歩いた。
すべてを失った。仕事も、恋人も、そして尊厳も。
夜中、麻衣は自分のアパートでパソコンに向かった。
もう一度、証拠を確認しようと思ったが、撮影したはずの動画ファイルが消去されていた。
写真もすべて、跡形もなく消えていた。
「どうして……」
そのとき、インターホンが鳴った。
夜中の11時過ぎに、いったい誰が?
ドアスコープを覗くと、見知らぬ男性が立っていた。
「佐倉麻衣さんですか? 重要なお話があります」
不安を感じながらも、麻衣はドアを開けた。
男性は黒いスーツを着た、如何にも怪しい人物だった。
「実は、氷室玲香についてお話があります」
男性が言った。
「彼女の正体を知りたくありませんか?」
「正体?」
麻衣は興味を示した。
「それはどういうことですか?」
「彼女は単なる産業スパイではありません。もっと大きな犯罪組織の一員です。証券詐欺、マネーロンダリング、様々な違法行為に関与しています」
男性は封筒を差し出した。
「これが証拠です。明日、この内容を警察に届ければ、氷室玲香を確実に葬ることができます」
麻衣は封筒を受け取った。
中には、玲香と暴力団関係者との写真、不正な金銭取引の記録、偽造された書類などが入っていた。
「なぜ、私にこれを?」
麻衣は尋ねた。
「氷室玲香に恨みを持っているのは、あなただけではありませんのでね。彼女に騙された人間は大勢いますよ。しかし、警察に直接持ち込むと、我々の身元がばれてしまう。それで、あなたに頼みたいんです」
男性は姿勢を正し、改めて麻衣の目を見つめながら言った。
「明日の朝一番に警察に行ってください。これで氷室玲香の人生は終わるでしょう」
男性が去った後、麻衣は封筒の中身を詳しく調べてみた。
どれも本物のように思えた。これがあれば、玲香を追い詰められるのかもしれない。
麻衣は希望を取り戻した。
これは、復讐のチャンスかのかもしれない。
翌朝、麻衣は証拠の封筒を持って最寄りの警察署に向かった。しかし、警察署の前で、予想外の人物と遭遇した。
「麻衣? こんなところで何してるの?」
振り返ると、親友の佐々木由美が立っていた。
大学時代からの親友で、現在は別の会社で働いている。
「由美? どうしてここに?」
「実は、交通違反で呼び出されてるの。麻衣は?」
麻衣は一瞬躊躇したが、由美には何でも話せる関係だった。
昨夜の出来事と、これから警察に証拠を届ける計画を説明した。
由美は心配そうに眉をひそめた。
「麻衣、それって危険じゃない? もしその男性が詐欺師だったら?」
「でも、証拠は本物に見えるよ」
「見せて」
由美は封筒の中身を確認した。
「確かに本物っぽいけど……」
由美は考え込んだ。
「麻衣、一度冷静になった方がいいと思う。今日は一旦家に帰って、もう一度考え直してみたら?」
由美の心配そうな表情を見て、麻衣は迷った。
確かに、昨夜の男性は怪しかった。
もしかすると、これも玲香の罠かもしれない。
「そうね。もう一度よく考えてみる」
麻衣は警察署に入ることをやめ、由美と一緒にカフェで話をした。
「麻衣、最近本当に大変そうね。氷室さんのこと、そんなに酷い人だったなんて知らなかった」
「由美も知ってるの?」
「実は、先週偶然会ったのよ。渋谷で」
由美は少し言い淀んだ。
「彼女、麻衣のことをすごく心配してた。最近、精神的に不安定だって」
麻衣の表情が変わった。
「由美にまで?」
「え?」
「玲香が、あなたにも何か言ったの?」
由美は困惑した。
「いえ、ただ麻衣が仕事で悩んでるって聞いたから……」
麻衣は不安になった。
玲香の魔の手は、親友にまで及んでいるのだろうか?
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