テラーノベル
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翌朝、ブルーロックの廊下。潔は壁際に身を潜めながら、周囲を警戒していた。
昨夜の「疑惑」を解決すべく、潔が向かったのは唯一まとも(に見える)な感性の持ち主、千切豹馬の元だった。
「……千切、ちょっといいか? 誰にも見られない場所で話したいんだ」
「……潔? なんだよ、お前。その泥棒みたいな歩き方」
千切は訝しみながらも、潔に手を引かれるまま、人気のない備品庫へと連れ込まれた。
「……なぁ、千切。……昨日、みんなにされたこと、一晩中考えてたんだけど……。普通、友達ってあんなことしないよな? 胸を……こう、吸ったりとか。おでこにキスしたりとか」
潔が真っ赤な顔で、指をモジモジさせながら問いかけると、千切は目を見開いたまま数秒間、石のように固まった。
「……はぁ!? ……お前、……マジで言ってんのか? 昨日のあの惨状を見て、まだ気づいてなかったのかよ!!」
「えっ、やっぱりおかしいのか!? 玲王も蜂楽も『普通だ』って言ってたし、凪なんて寝ぼけて……」
「バカかお前は!!」
千切は潔の肩を掴み、至近距離でその目を覗き込んだ。
「いいか、よく聞け潔世一。世の中の『男友達』は、明け方まで相手の胸を弄ったりしねぇし、ジェルを塗り込みながら愛撫したりもしねぇんだよ!」
「あ、愛撫……!?」
「あいつら全員、お前のことが好きで、独占したくて狂ってんだよ! 凪も玲王も蜂楽も……凛だってそうだ。お前が鈍感すぎて付け入る隙がありすぎるから、あいつらやりたい放題なんだよ。お前が感じてるその違和感、100%正しいからな!」
千切が全部ぶちまけると、潔の脳内はついに大爆発を起こした。
「す、……すき……? 独占欲……? 俺を……え、サッカーじゃなくて……? 男の俺を……!?」
潔は顔から火が出るどころか、全身から蒸気が吹き出しそうなほど真っ赤になり、その場にヘナヘナと座り込んだ。
千切の言葉が、潔の脳内で強烈なフラッシュバックを引き起こした。
(待て……思い返せば、全部おかしいだろ……!)
玲王がジェルの蓋を開ける時の、あの獲物を定めるような熱い視線。
凛が「教育」と称して、わざと耳元で低く呟いた時のあの距離感。
凪が寝ぼけたふりをして、服の中に滑り込ませてきた指の執拗さ。
そして蜂楽が「親友」の仮面を脱ぎ捨て、屋上で自分を喰らおうとした、あの獣のような瞳。
「…………っ、あぁああああああああッ!!!」
潔は頭を抱えて叫びそうになった。
何より恥ずかしいのは、それを「一流のケア」だの「親睦」だのと信じ込んで、されるがままになっていた自分だ。
(……っていうか、俺、ずっとその…………『あ、……ん……っ』とか、……あんな、……だらしない、声……出してたのか……!?)
ピュアすぎる潔にとって、自分の口から漏れたあの熱い吐息や、掠れた喘ぎを「性的な反応」として自覚した瞬間の破壊力は凄まじかった。
「……無理。……絶対、無理だ……!!」
そこへ、廊下の向こうから四人の気配が近づいてくる。
「あ、潔みーっけ。……何、そんなに顔赤くして。また熱でも……」
「どけ、凪。潔、今日の『手入れ』のメニュー……」
「………………ッ、くるなあああああああッ!!!」
潔は、自分を「一人の男」として、いや「美味そうな獲物」として見ている四人と、一秒たりとも目を合わせることができなかった。
「な、……なんなんだよ、お前ら……! マジで、……マジで意味わかんねぇからな……っ!!」
真っ赤どころか、ゆでダコのように顔面を沸騰させた潔は、四人の包囲網のわずかな隙間を縫うようにして、猛烈な勢いでダッシュした。
「……あ、逃げた」
「……チッ。余計なことを吹き込んだな、あの赤頭」
「……いいよ、追いかけっこでしょ? 楽しいな〜」
「逃がさねーよ。……潔、お前はもう俺の『管理下』なんだからな」
背後から聞こえる、逃げ場のない四人の声。
潔は心臓をバクバクさせながら、ブルーロックの入り組んだ廊下を全力で疾走する。
(……どうすればいいんだよ!? チームメイトで、ライバルで、……なのに、みんな俺のことが『好き』って……そんなの、……どうやって顔合わせりゃいいんだよぉおおおお!!)
もはやサッカーどころではない。
潔世一、17歳。人生最大の「オフサイド(想定外)」に直面し、真っ赤な顔をして迷走するストライカー。その背後には、彼を追い詰めることを楽しむ四人の最強のエゴイストたちが、静かに、そして着実に距離を詰めていた。
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