テラーノベル
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本編とは関係ありません。
一応死ネタです。
太敦です。
スタート。
昇り始めた太陽を眺めていた。
暖かい日が差し、体温が高くなる。
背も垂れていた何の命も無い、無機質な物に、
温かさが宿る。
木々が、 何とも爽やかに揺れ踊っている。
そんな、何ともない日常を、今日も送るだろう。
けれど、今日は、自分にとって、特別な日。
ただの、後輩の祝い事だけれども、
特別な日。
地面の草木に手を着いて、
自分は語り始めた。
「太宰さん!また自殺ですか!?」
濡れた髪を揺らしながら云った彼は、相当お怒りの様だ。
「もう今週で何回目ですか!」
「21回目〜!」
「んもぅ……」
この人は……と頭を抱え困っている。
「敦くんはお母さんみたいだねぇ〜」
「誰がお母さんですかっ!!」
「わぁ〜!敦くんが怒ったァ〜!逃げろ〜!」
「あっ、一寸!」
水浸しの儘、敦から逃げる。
また、其の後を追う為、敦まで水浸しになりながら追い掛ける。
一見、傍から見たら可笑しいのだろうが、
これが、私達の日常だ。
「追い付きましたよ!」
「敦くんは脚が速いなぁ〜」
「虎ですからね」
「うふふ、便利な異能だねぇ」
「太宰さんの前では無意味ですがね」
それもそうだ、と頷く。
「風邪引いちゃったら困るから、家の風呂借りてく?」
「へっ?あ、はい」
「なぁに〜?一緒に入りたいのぉ?」
「はぁっ!?そ、んな、わけ……」
「わお、耳まで真っ赤」
「〜っ!」
まるで茹で蛸の様で、少し面白い。
然しまぁ、半年前から付き合っているというのに、
こうも初々しいのだろうか。
まぁ、其処が可愛いのだけれども。
「太宰さん、お風呂入る時も包帯付けるんですか……?」
「ん〜?私の肌が見たいのかい?」
「違いますっ!」
この人は本当に……!
「そろそろ私も湯船に入ろうかな」
「えっ、ちょ……」
返事も待たずに堂々と湯船に入って来た。
そして、狭いから、と膝の上に僕を乗せた。
「あの……近いんですけど……」
「いいじゃない、恋人なのだから」
「うぅ………」
恥ずかしさで死にそうになり、湯船に顔まで浸からせる。
「おやおや」
ふふっ、と笑う顔が見えた。
綺麗な顔をしている。
じっくり見てると、つくづく思う。
「敦くん」
突然名前を呼ばれたので、顔を湯船から出す。
すると、頬に手が伸びていき、
其の儘、太宰さんが自分の顔に僕の顔を近付け、
そっと、接吻をした。
「少しくらい、いいでしょう?」
「……恥ずかしい、です……」
「まだ駄目だったかい?」
「……駄目、」
そこで区切ったので、
若干太宰さんの顔が引き攣ったけれど、
「じゃ、ない、です……」
と云ったので、直ぐに明るい顔に戻った。
「そう、良かった」
微笑んだ其の顔は、
とても、綺麗だった。
「今日はもう遅いから泊まっていきなさい」
「え、でも、悪いですよ……」
「いいのいいの」
「判りました……」
偶々明日は休暇だったので、
太宰さんの好意に甘える事にした。
最近、太宰さんはお酒しか呑んでいないようだったので、
お酒を没収してご飯を作ってあげた。
太宰さんは泣いていた。
■■■
「さて、そろそろ寝ようか」
「そうですね」
「布団一個しかないから、一緒に寝よっか」
「判りました」
せっせかと寝る準備を済まし、
同じ布団の中へ潜った。
「狭くない?大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
正直な所、太宰さんの顔が至近距離にあるので、
ドギマギしていた。
「……恥ずかしい?」
「あっ、え…………はい……」
「うふふ、可愛い 」
「かわっ……!?」
「もぉ〜君は本当に可愛いなぁ〜!」
そう云い、太宰さんは僕の身体を抱き寄せた。
「ちょ、」
「好き、好きだよ、敦くん」
「……!」
「僕も、です……」
「良かった」
「ねぇ、敦くん」
「なんですか?」
「ずっと、ずっと……」
「傍に居てくれる?」
「はい、勿論です」
「約束ね?」
「約束です」
其の日は、太宰さんと依頼に行っていた。
「太宰さん!後ろ!」
「っ……」
依頼で、大企業の社長の娘が誘拐された、と云われ、
其の誘拐先に異能力者が居るとの事で、
探偵社に依頼が来ていた。
誘拐先は、完全に戦場だった。
総勢70人の敵を、あと1人という状況にした時だった。
太宰さんの背後に、最後の敵が居た。
あのままでは、太宰さんが殺されてしまう。
そう思い、脚を踏み出したんだ。
自分なら、傷もすぐ再生出来る。
タフネスが売りの白虎だったから。
銃で何十発も撃たれた。
敵は太宰さんによって倒された。
「敦くん!!!」
私は叫んだ。
心臓付近をやられた。
私は必死に敦くんの身体を揺らした。
嗚呼、駄目だ。
私の異能力があるのに。
離さないといけないのに。
私の手は止まらない。
そう思った時にはもう、諦めていたのかもしれない。
だって、
敦くんは既に。
背も垂れていた、何の命も無い、無機質な物、
墓石が温かくなっていった。
其れはまるで、彼の子の体温の様に感じた。
今日は君の誕生日だよ。
私と、君にとっての、特別な日だよ。
嬉しいでしょう。
私はそっと、震える声で呟いた。
「ずっと傍に居るって、約束したじゃないか」