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真っ暗な部屋の中,パソコンのブルーライトの明かりだけが此処を現世たらしめている。
そんな中,闇と見間違うような黒がカチカチ,とタイピング音を鳴らす。
ガラスの画面に映る黒の瞳は,ブルーライトだけを映し燦々と輝いている。
黒の手は止まらず,ずっと何かを打ち込んでいる。
末「ああ゙…仕事終わんねぇ…」
そう呟く黒の顔には濃い隈ができていた。
末「てか…もう出勤じゃん…」
漸く体を動かした黒は,パソコンの電源を静かに落とす。
黒によって開けられたカーテンは,真っ暗だった部屋を明るく照らす。
乱雑に脱ぎ捨てられた服,そこら中に散らばった書類。
テーブルの上に放置されたペットボトルとカップ麺の容器。
異様に整えられたパソコン周り。
それが,それだけが黒の人間性を謳っている。
末「今日は,何があったっけ…」
末「あぁ…ウマ社が管理してる刑務所間の会議か…」
黒は机の上にある手帳を手に取り,予定を確認している。
大量に書き込まれた手帳は,所々字が潰れて見えないほどに黒く汚れている。
いつの間にか仕事着に着替えた黒は,目元の隈をコンシーラーで隠していた。
末「あの書類は今日中だから…会議の前に一回ツィーンに行って…」
玄関に放置されていた鞄を手に取り,黒は家を出る。
末「…今度は失敗しないようにしないと…」
そう,小さな声で呟く黒の瞳には生気は宿っていなかった。
暫くして,黒はある建物の中に入る。
職員A 「あ!末次看守長!おはようございますっ!」
末「ん…?あ…おはよ〜!」
建物の中にいた人物に話しかけられた途端,黒の表情が明るくなる。
黒は,「末次」と呼ばれてる。
生気を宿していなかった瞳は急に光を取り戻し,その瞳はまるでオニキスのように輝いている。
末「今日も元気だねぇ…笑」
職員A「そうですか?いやぁ…夜勤明けだからかもしれないですねぇ…」
末「じゃあ,今日は非番?」
職員A「はい!これから帰るところで…」
末「あ,本当?邪魔してゴメンね…」
職員A「いえいえ!あ,自分はこれで失礼しますね!」
末「うん,じゃあねぇ!」
去っていく職員の姿を眺める末次の瞳はほんの少し虚ろに戻っている。
職員の姿が見えなくなるとまた,末次の瞳に生気がなくなる。
末「あー…じゃ…今日は帰れそうにないなぁ…」
ふっと苦笑し,手元のキーカードを通す。
末次は,真っ直ぐに看守長室へ向かう。
道中,多くの職員に会ったが末次と会話しようとする職員は少なかった。
看守長室に辿り着き,扉を開くとデスクの上に置かれた大量の書類が目に入る。
末「ああ…やっぱ多いなぁ…」
会議までに間に合うかなと考えつつ,書類に手を付ける。
会議の時間まで,あと数時間。
末次はそれまで,大量の書類を終えてしまおうとした。
数時間後,書類は減ることなく増える一方だった。
別の職員がどんどんと末次のデスクに書類を置いていく。
書類を捌く速度より,増える速度のほうが早い。
末「ああ゙あ゙あ゙あ゙!!終わんない終わんないッッッッッッ!!!!!」
叫びながら頭を掻き毟り,血走った目で書類に目を通している。
粗くなる呼吸と比例して,段々と瞳孔が開いていく。
末「終わらせなきゃ,終わらせなきゃ…!」
そう,ぶつぶつと呟く姿は端から見ると狂気で,端的に言うと怖い。
手元は止まらないのに,瞳だけが狂ったように虚空を睨みつけている。
部屋も,その狂気に呑まれたのか,段々と雰囲気が暗くなる。
そんな室内の空気を切り裂くように,陽気な音楽が流れ始めた。
末「んぁ…?でんわ…?」
末次が手探りでスマホを手繰り寄せると,画面には「指原」と表示されていた。
震える指で,通話開始のボタンを押す。
ゆっくりと耳にスマホを当てると聞き馴染みのある声が焦ったような声を発し始めた。
末「もしもし…」
指「あ,末次?今どこにいる?」
末「どこって…ツィーンだけど…」
指「…会議まで一時間もないけど…間に合うか?」
末「…え」
慌てて末次が時計を確認すると,表示された時間は会議の丁度一時間前。
末「あ゙…!?ご,ごめんッッ…す,すぐいく…!」
指「あ,俺も遅刻するから安心してくれよな…ッッ」
指「寝坊したわ笑」
末「なにしてんの…」
そう言いながら部屋の戸締まりをして,長い廊下を走る。
周りの職員に白い目で見られているが,気にしている暇はない。
急がなくては,急がなくちゃ。
遅刻なんてしたことがなくて,初めてのことで体が強張っているのがわかる。
すぐに船を出し,ノインに向かおう。
最短でも一時間と少し。
遅刻は確定だ。
末「失敗しないって…ッ」
微かに目に涙を浮かべながら走る。
ほんの少しでも,時間を短縮するために。
少しでも自身の罪悪感を軽くするために。