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キュートアグレッション。
この言葉を、聞いたことがある?
可愛すぎるものを見て、潰したいとか、噛みたいとか、そんな攻撃的な衝動に駆られること。
そのキュートアグレッションに、俺は最近悩まされている。
「…ゆあんくん?」
隣を見ると、不思議そうな顔をしたなおきりさんがいた。
俺を狂わせているのは、この人。
「何か悩み事ですか?」
「…ううん、ぼーっとしてただけ」
「そうですか、!」
にっこりと笑う彼に、俺も微笑みかける。
なおきりさんは、俺の先輩にあたる人だった。
どうやら凄くモテるようで、学校になおきりファンクラブがあるだとか。
確かに、整った顔立ちをしているし、背も高いし、性格も良いと思う。
まぁ…たまに変人になるけど、表向きは本当にイケメンだ。
そんななおきりさんだけど、最近はやたらと俺に懐いている。
俺を見かけたら目を輝かせて来てくれるし、どこかへ行こうとしたら、着いてくるし…
なんか犬みたいで可愛い。
でも、可愛いって感情を抱いてるのは俺だけみたい。
なおきりさんがどこを通っても、周りから聞こえるのは「イケメン」、「かっこいい」という言葉だけ。
もっと可愛いんだけどな、なおきりさん。
…ずっと、これ位の感情でいられたら、楽だったのかなぁ。
今の俺は、なおきりさんに対して、そんな純粋な想いは抱けない。
こんな濁った感情になってしまったのは、なんでだっけ。
ある雨の日。
学校帰り、俺は傘を忘れて、教室で空を眺めてた。
そのとき、教室の扉が開いた。
「あれ…ゆあんくん?」
そこにいたのは、なおきりさん。
傘を持っていたから、今から帰るらしかった。
「帰らないんですか?」
「…傘、忘れちゃってさ」
そうですか…と呟きながら、なおきりさんは教室に入り、俺の隣の席に座った。
「じゃあ、雨が収まるまで、僕と話しませんか?」
頬杖をつき、こちらへ首を傾げながら微笑む。
とても絵になる構図で、こうして女の子達はなおきりさんに堕ちてゆくんだなと思った。
「…女たらし」
「え!?なんでですか!?」
いけない、声に出てしまっていた。
まぁ、事実だから別にいいよね。無自覚女たらし。
「…てか、なおきりさん傘持ってるのに帰らないの?」
「ゆあんくんを置いて帰れる訳ないじゃないですか!」
訂正する、この人は人たらしだわ。
でもそんな人たらしにも、思わぬ欠点があった。
「…ちなみに、その傘に俺も入れて一緒に帰る選択肢は?」
「え?……あ、確かに」
見ろ、この天然。
さっきのかっこよさを忘れたように、なおきりさんは少し頬を赤くして慌てている。
こんな面を見れるのも、俺だけ。
「…じゃあ、一緒に、帰りましょうか…」
「うん、ありがとう」
あーぁ、可愛いなぁ。
もっともっと困らせて、色んな顔が見たい。
この完璧な顔を、歪ませてみたいなぁ…。
まだ、このときは知らなかったけど。
きっと俺がこうなったのは、この出来事が大きな原因になっているんだろうな。
なおきりさんの家にて。
なんとなおきりさんは頭も良く、勉強を教えてもらうために、お家にお邪魔させてもらっていた。
「では、始めましょうか!」
「まずこの問題はですね、ここにこれを代入してから〜〜…」
なおきりさんはゆっくり、着実に、俺に勉強を教えてくれる。
分かりやす…これがモテ男か、クソ。
「…ん、なおきりさん?」
「はい?」
「ここ、なんかずれてるけど…どうなるの?」
「…え、」
なおきりさんの顔が固まった。
慌てて解説と答えを見直し、照らしあわせてゆく。
やがて、みるみるその顔が青白くなり、なおきりさんは叫んだ。
「ゆあんくん、ごめんなさい!僕の見るところがずれていました…!!」
泣きそうな顔でぺこぺこ謝る姿が愛おしい。
俺はなおきりさんの首に手をかけた。
「…大丈夫だよ、なおきりさん」
「ゆあん、くん…?」
少し顔を歪ませ、俺の名前を呼んだ。
手にぐっと力を入れると、分かりやすくなおきりさんの顔が変わった。
「ゆあ…ッ、くっ…ッ、?」
息が出来ず、苦しげにまた俺の名前を呼ぶ。
自然と口元に笑みが浮かんだ。
その言葉も、”俺”が絞めているから出ている言葉。
俺のためだけに用意された、なおきりさんの言葉。台詞。声。
その全てに酷く唆られた。
もっと絞めたい。もっと呼んで。もっと苦しんで。もっと歪ませて。もっと楽しませて。もっと愛されて。俺のためだけにその顔を変えて。俺のためだけに言葉を発して。俺のためだけに。俺のためだけに…もっともっともっともっともっともっともっともっと。
もっと、俺だけを見て。
コメント
12件
俺もきゅーとあぐれっしょん?良くあるかも(笑)
ありがとうございます…あの…ありがとうございます…本当に、ありがとうございます。ありがとうございます以外の言葉が見つからないくらい性癖に刺さりに刺さりまくって最高でした。ありがとうございます
うわあ…これは、読んでいてちょっと息が詰まるような感覚になりました。なおきりさんが無意識に見せる「可愛い」仕草に、ゆあんくんがじわじわと侵食されていく心理描写が生々しいですね。「もっと歪ませたい」という願望が、勉強中のミスの場面で具体的な行動(首絞め)に変わっていく流れが、狂気と哀しさが混ざっていてとても印象的でした。完璧な人を独占したいという歪んだ愛情、その濁り方のディテールが本当に上手いです。続きが気になります。
塩 🚰
6
しの
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