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――長期任務三日目/氷原夜営地
吹雪は止んでいた。
だが気温は下がり続け、
夜の氷原は静寂と死に近い冷気に包まれている。
焚き火の火だけが、
二人の影を揺らしていた。
ド「気温マイナス三十五」
ド「長時間の単独待機は凍傷域だな」
火に薪を足しながら言う。
カ「交代で休む」
ド「合理的だ」
だが博士は続けた。
ド「だが効率は悪い」
視線を上げる。
ド「体温維持は接触の方が早い」
沈黙。
焚き火が弾ける。
カ「却下だ」
ド「研究的提案だ」
カ「不要だ」
博士は肩を竦める。
ド「君は本当に境界線を引きたがる」
少し間を置き――
ド「だが体温は正直だ」
端末を操作。
ド「末端温度、低下傾向」
隊長の腕を取る。
カ「触るな」
ド「確認だ」
手袋越しに手首を測る。
ド「冷えている」
カ「問題ない」
ド「凍傷前段階だ」
焚き火の横を軽く叩く。
ド「こちらへ」
隊長は動かない。
ド「命令ではない」
ド「観察精度維持のためだ」
数秒。
やがて。
カ「……短時間だ」
焚き火の横へ座る。
距離は近いが、まだ余白がある。
博士は少し笑った。
ド「その距離では意味がない」
言うと同時に――
外套の端を引き寄せた。
カ「何を――」
ド「保温だ」
半ば強引に、
同じ外套の中へ腕を通させる。
距離が一気に縮まる。
肩が触れる。
カ「離せ」
ド「熱源は共有した方が効率的だ」
焚き火の光が、
仮面の輪郭を赤く照らす。
ド「心拍上昇」
耳元で低く。
ド「低温環境では説明がつかないな」
カ「……測定をやめろ」
ド「拒否権はある」
少し間。
ド「だがこの状況で退くか?」
沈黙。
隊長は動かない。
博士は満足げに息を漏らす。
ド「いい判断だ」
外套越しに、
腕の位置を微調整する。
より体温が伝わる配置へ。
カ「……過剰だ」
ド「保温効率の最適化だ」
だが声は少し低い。
ド「それとも――」
顔を寄せる。
ド「近すぎるか?」
仮面同士が、
触れそうな距離。
焚き火の音だけが響く。
カ「……任務中だ」
博士は喉で笑う。
ド「分かっている」
だが距離は離さない。
ド「だからこれ以上はしない」
低く続ける。
ド「観察だけだ」
数秒。
静寂。
やがて博士は視線を落とす。
ド「だが一つ発見だ」
カ「何だ」
囁く。
ド「君は逃げない」
隊長は答えない。
ド「戦場でも」
ド「医療区画でも」
ド「そしてこの距離でも」
顔をわずかに傾ける。
ド「興味深い」
その瞬間。
薪が崩れ、火が強く弾けた。
距離が一瞬照らされる。
隊長はゆっくり言う。
カ「……体温は回復した」
博士は短く笑う。
ド「観察完了だな」
外套を戻し、距離を解く。
だが去り際――
ド「次はもっと低温環境で試そう」
カ「却下だ」
ド「検討だけしておけ」
焚き火を見つめながら、
博士は低く付け足す。
ド「長期観察は始まったばかりだ」
氷原の夜。
二つの影は再び距離を取る。
だが以前より――
確実に近い温度を残したまま。