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春の封

7 - 鈴ノ夜、選びの月

♥

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2025年09月21日

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白い雷鳴が去った神殿には、

静けさだけが残っていた。

夢から覚めた菊の胸には、

選ぶのは君だ――春の神の囁きが

いまだに熱を帯びて響いている。

月は雲間から覗き、

桜の花びらを銀色に染めていた。

鈴は静かに息を潜めている。

だが、菊には分かっていた。

これが嵐の前の静寂であることを。


神殿の奥、謁見の間では

ルートヴィッヒ、アーサー、アルフレッド、フランシス、

ギルベルト、アントーニョが

それぞれに言葉を交わしていた。

「世界会議を開くべきだ」

アーサーの声が冷たく響く。

「封印がこれ以上揺らげば、

人間界は持たない」

「会議なんて悠長なんだぞ」アルフレッドが腕を組む。

「動くなら早い方がいい。

俺は――菊を守りたい」

「守る?」ルートヴィッヒが眉をひそめる。

「彼を守るには封印強化しかない」

「強化? 愛を鎖で縛るのか」

フランシスが静かに笑い、

ギルベルトが赤い瞳を細めて口笛を吹く。

「オレはどっちでもいい。」

アントーニョが温和な笑みを崩さぬまま、

「ここは菊の意思を聞くべきやろ」

と柔らかく告げた。

――菊の意思。

その言葉が、皆の胸に重く沈んだ。


その夜、菊はひとり回廊を歩いていた。

月明かりが白い石床を淡く照らし、

鈴が衣の下で微かに揺れる。

「選ぶのは……私」

呟いた声は、自分自身への問いだった。

夢で見た六人の影。

愛を告げ、封印を選んだ者たち。

その面影が、今の彼らと重なって消えない。

「――眠れないのか」

背後から、低く澄んだ声。

振り向けば、月明かりの中に

ルートヴィッヒが立っていた。

その瞳には、昼間の剣士の鋭さではなく

淡い光が宿っている。

「貴方は……怖くないのですか?」

菊は思わず問うた。

「私が春を目覚めさせるかもしれないのに」

ルートヴィッヒは一歩近づき、

菊の肩にそっと手を置いた。

「怖いのは――

君が自分を犠牲にしようとすることだ」

――チリン。

鈴が、ひとつだけ鳴った。

夜風が桜を運び、

銀色の花びらが二人の間を舞う。

「世界会議が開かれる」

ルートヴィッヒの声が月に溶ける。

「皆が君を議題にする。だが、決めるのは君自身だ」

菊は瞼を閉じ、胸の鈴に手を添えた。

夢で聞いた言葉が再び蘇る。

「選ぶのはお前だ」


桜が夜空を舞い、

遠くで鐘が一度だけ鳴った。

世界が、春の封を巡る

選択の時へと動き出していた。

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