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御子柴聖 十七歳
赤髪の男の子が教室に入って来た瞬間、また違う意味で重くなって行くのを肌身で感じていた。
「マジかよ、もう任務を終わらせて来たのかよ…」
「弍急の妖怪達の群れを退治しに行ったんじゃ…?」
急にクラス全体がザワザワしだしたけど…、この赤髪の男の子は一体…。
そんな事を考えていると、ふと赤髪の男の子と目があった。
前髪と襟足は長く血色のない青白い肌、少し長い前髪から見える目尻の上がったオレンジの瞳、綺麗な鼻筋、耳には光り輝く沢山のピアス。
改めて正面から見ると、綺麗な顔をした男の子だなぁ…。
ギロッっと赤髪の男の子は眉を顰め、あたしの事を睨み付けてくる。
えー、むっちゃ睨んで来るんだけど。
あたし、何かした?
何もしてないのに、何故に?
「おーい!!!隼人。もう、任務終わったのか?流石だなぁ」
この男の子は隼人と言うのか。
「おい、早乙女。職員室に寄って、報告は済んだのか?」
佐和先生は、赤髪の男の子を見ながらそう言った。
へー、早乙女と言うのか。
ん?
早乙女…、早乙女!?
え、え、え?!
えええええええええええっ!!!?
もしかして、智也さんが言ってた早乙女家の坊ちゃんって…。
この男の子の事か!!?
早乙女隼人とまさか同じクラスだったとは…!?
あたしは慌てて早乙女隼人から視線を逸らし、顔を合わせないようにする。
智也さんっ、早乙女隼人が同じクラスって聞いてないよっ!!!
まぁ、あたしが御子柴家の人間って分からないだろうし…、慌てなくて良い筈。
あたし、御子柴家の参加に入ってる三家の人達と会った事ないし。
うん、関わらないようにしよう。
うん、そうしよう。
それが一番良い。
そう思い、あたしは静かに気配を消す事にした。
あたしは空気。
そう、空気だ。
「終わったから、教室に来たんだろ。ほら、印鑑付きの書類」
早乙女隼人は不機嫌な声を出しながら、佐和先生に書類の束を乱暴に手渡す。
「何だ?今日は一段と機嫌が悪いな、早乙女。反抗期か?」
「あ??」
「うわー、隼人の機嫌がかなり悪い」
ポリポリッと前田大介が頭を掻きながら、佐和先生と早乙女隼人の会話を聞いていた。
「機嫌が悪いと、何かマズイの?」
「いやー、アイツさ、機嫌が悪いとすぐ喧嘩売るから」
前田君は苦笑いしながら、あたしの質問に答えてくれた。
成る程、機嫌が悪いのか。
まぁ、誰だって機嫌が悪い時だってあるよね。
ツカツカ!!!
乱暴な足音があたしの目の前で止まり、頭上から不機嫌な声が降り注がれる。
早乙女隼人が歩いて来ているのは分かっていたけど、まさか声をかけれるとは思ってもみなかった。
「おい」
「…」
聞こえないふりをしていたが、早乙女隼人は更に声を大きくして声をかけてくる。
「おい、聞こえねーのか」
これはさすがに、反応しないとまずいか…。
#ダークファンタジー
#現代ファンタジー
るるくらげ
「えっと…。もしかして、あたしに話しかけてます?」
「何言ってんだ、お前しか居ないだろうが」
話し方からして、あたしにイライラしているのが分かる。
いやいや、何故に?
さっきからあたしに対して、敵対心を剥き出しにする?
「お、おい、隼人!!!女の子に喧嘩売るなよ!?」
前田君が早乙女隼人を止めようと、慌ててあたし達の間に入って来た。
「お前、本当に鬼頭家の人間か?」
「は?」
ドキッ!!!
何で、いきなりそんな事を聞くんだ?
「え、え!?それって、どう言う意味?」
そう言って、前田大介が早乙女隼人に尋ねていた。
「本城家の車にコイツが乗ってたから」
もしかして、智也さんに会いに行った時に車の中を見られたって事?
だとしたら、めちゃくちゃ視力良過ぎるでしょ!?
本城の家紋が付いていた車に乗っていたから、御子柴家の参加に入ってる三家の人間が見たら分かるな…。
いや、あたし達は校舎の裏側で降りたから誰にも見られてないはずだ。
だとしたら、正面を通った時に見られたのか。
「隼人は目が良過ぎるんだよ…。そんな、車の中なんか見ないって…」
前田大介の問い掛けに答えずに、グイッと乱暴にあたしの髪を掴み顔を近寄せた。
「お前、何者だ?」
誰にも聞こえないよう、わざわざ小声で尋ねてくる辺り、早乙女隼人はあたしの正体には気付いていない。
だけど、明らかに疑っている。
早乙女隼人が何でか分からないけど、あたしに敵意を向けてるのは確かだ。
「おい、隼人!!!やめろって!!!」
「何やってんだ、早乙女!!!」
前田大介と佐和先生が止めに来る前に、あえてコイツの挑発に乗ってみようか…。
こう言うタイプは、すぐに乗るだろう。
何かしてくるのは分かっていたし、わざと避けないであげたんだからね?早乙女隼人。
喧嘩を売って来たのは、早乙女隼人なんだから。
そう思いあたしは、早乙女隼人の手を勢いよく振り解いた。
パシッ!!!
静かな教室内に手を叩いた音が響き渡り、あたしは早乙女隼人を睨み付けながら口を開く。
「初対面で、いきなり髪の毛をつかまないでくれる?喧嘩売ってるの?」
あたしの発言で更に教室が静まり返り、早乙女隼人の眉間に皺が入り始める。
「な、なぁ、やばくない?」
「ちょ、ちょっと佐和先生、止めてよ…」
ヒソヒソヒソ…。
あたしの行動を見たクラスメイト達が騒ぎ出す。
そりゃそうだ、女子が男子に喧嘩を売る事なんて滅多にないし。
「へぇ、面白いな」
「「「はぁ!?」」」
生徒の言葉に耳を傾けずに、佐和先生はあたしと早乙女隼人を見てニヤリと笑った。
ふと、あたしの背後から蓮の気配を感じた。
「おい、早乙女。喧嘩を売るなら、公平なやり方にしろよー」
蓮の声がしたので後を振り返ってみると、気配を消して静かに教室に入って来ていたらしい。
早乙女隼人の反応を見る限り、蓮の気配に気付いてなかったようだ。
それはクラスの子達の反応を見てもそうだけど…。
「田中っち!?いつの間に?」
「た、田中っち?」
前田大介の呼び方が独特過ぎて、思わず声に出して反応してしまった。
「僕はちゃんと後ろに居たよー、前田。早乙女さ?鬼頭の事が気に入らないなら、決闘を申し込めばいいじゃないか」
「決闘って…?」
あたしがそう言うと、蓮はニッコリと笑った。
蓮はきっと、考え無しにこんな事を言わないし、何か考えがあって言った事だろうから。
「お互いの能力を高め合う事を言いますね。手合わせと言ったら早いね。自分より高い級の相手に勝てば、自分の級も上がるシステムなんだよ。モニター室で級を取るより早いしね?」
蓮の話を聞きながら、あたしはチラッと早乙女隼人の胸元を見た。
右胸に赤い札のバッチが貼られていおり、壱級と書かれていて前田大介は…、青い札で弐級と書かれてあった。
決闘で早乙女隼人に勝てば、あたしは壱級になれるって事か。
確かに、試験を受けるよりかは早く取れるな。
「あたしは良いけど、向こうがね…」
そう言いながら、あたしは挑発するように早乙女隼人をチラ見をする。
案の定、早乙女隼人は眉毛をピクピクさせながら言葉を放った。
「女に俺が負ける訳ねぇだろ、俺はお前に申し込むぜ」
「「「えええええええええええええ!!!!!??」」」
早乙女隼人の言葉を聞いたクラスの子達の大声が重なり、佐和先生は頭を掻きながらあたしに近寄ってくる。
「おいおい!!?話を勝手に進めるなよ…!ったく仕方ねぇな…。昼休みに体育館で行う。放送かけるから来いよ。田中先生に案内させるからな鬼頭」
「分かりました」
佐和先生の言葉を聞いて、蓮は礼儀正しく頭を軽く下げながら答えた。
「ほら、そういう事だから。早乙女、自分の席に戻れー」
佐和先生にそう言われると、早乙女隼人は渋々席に戻って行く。
「あの転校生…、ヤバくない?」
「でも、面白そうじゃん?」
生徒達のザワ付きが治る事は無かった。
「ごめんな聖ちゃん。隼人の奴、本当は悪い奴じゃないんだよ」
「前田大介が謝る事じゃないじゃん。それに…、あたし売られた喧嘩は買う主義なので」
あたしがそう言うと、前田君は吹き出した。
「あははは!!!聖ちゃん男前過ぎ!!!前田大介って…、謎にフルネーム呼び!!!それと大介で良いから!」
「分かった。そんなに面白い?」
「うん!!!それに隼人が、女の子に興味を持つのも初めてだからさ…」
「へぇー、その辺はあんまり興味ないかも」
「おい、大介。俺の事ベラベラ喋んなや」
大介の隣の席が早乙女隼人だったらしく、あたしとの会話が丸聞こえだった様だ。
「悪い悪い」
大介は早乙女君と仲良さげに話し出した。
その後は普通に授業を聞いていたら、あっという間にお昼休みの時間なっていった。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーンッ。
昼休みのチャイムが鳴り、鞄からお弁当を出していると大介が声をかけてくる。
「聖ちゃんっ、良かったら一緒に昼食べない?」
「いや、あたし一人で食べる。大介は早乙女隼人と食べて」
「え、聖ちゃん!?」
あたしは慌てる大介を放置し、お弁当を持って足早に教室を出て行く。
廊下に出た途端、他のクラスの人達から噂話をされながら見られたけど、本家でも不快な視線を向けられていたからなぁ…。
視線を無視しながら階段を降り、人気のない裏庭に向かった。
何故なら、そこでお昼休みに蓮と会う約束をしていたからだ。
体育館につながる通路を通り、右側に抜ける。
確か…、ここが裏庭かな?
そう思いながら曲がると、ベンチが数個配置された小さな公園のような敷地に出た。
どうやら裏庭に到着したらしい。
「お嬢。お疲れ様です」
眼鏡を外した蓮が、お弁当を持ってベンチに座っている。
「お疲れ様、と言うか、蓮!!!朝の発言は何?」
「決闘の事ですか?」
「そうそう。蓮の意図は何となく分かったけどさ」
あたしは蓮の隣に腰を下ろして、ジッと顔を見つめながら問い詰める。
「お嬢が負ける筈ないからですよ、それに早乙女隼人は何か勘づいている可能性が高いです。感が鋭いですよ、彼」
「確かに…、あたしが鬼頭家の人間じゃないって言ってたしね」
「この決闘で、力の差を見せ付ける良い機会です。女の子に負けてしまえば暫くは大人しくなるでしょう。髪の毛、大丈夫でしたか?早乙女隼人に引っ張られてましたけど…。すいません、止めに入りたかったのですが…」
蓮はそう言って、優しくあたしの髪の毛に触れながら謝ってきた。
早乙女隼人に掴まれた所を優しく指で撫で、大切な物を触るように丁寧に触れてくれる。
「大丈夫だよ、蓮。そんなに痛くなかったしさ」
「お嬢の大事な髪ですよ、許せません」
「ふふっ、蓮がそう言ってくれるだけで、嬉しいよ」
蓮があたしの事を気にしてくれるだけで、嬉しいんだから。
高鳴る胸を押さえながら、蓮が朝に作ってくれたお弁当の巾着袋の紐を解く。
「美味しそうっ、作ってくれてありがとう蓮」
「凝った物じゃないですが、食べましょうか」
「そんな大したものだよ!!!いただきます」
両手を合わせてから、卵焼きを口に運んだ時だった。
ピンポンパンポーン♪
「えーっと。二年零組の鬼頭聖さんと早乙女隼人君は、至急体育館に集まって下さーい」
佐和先生の声が、学院中に響き渡った。
どうやら、決闘の時間が始まったようだ。
「楽しみですねー。久々にお嬢の戦いぶりが見れます」
「買い被り過ぎだよ、蓮は」
「お嬢は自分の実力が分かっていませんよ。早乙女隼人の驚く顔が想像出来るな」
「早乙女隼人も壱級なんだから、それなりの腕だと思うけど…。まぁ、手合わせしてみないと分からないよね」
話しながらおにぎりを一つ食べ、あたし達は急ぎ気味に体育館に向かった。
裏庭から体育館は近った為、遠目から見ても入り口が人で溢れ出しているのが分かる。
あたしと早乙女隼人の決闘を見に、わざわざ集まったの!?
入り口付近にいた金髪の男子があたしの存在に気付くと、目を丸くさせながら大声で叫び出す。
「おい、例の転校生が来たぞ!!!!」
ザワザワザワ…。
金髪の男の子の声を聞いた周りの生徒達が一気に騒つく
「この人の量は…。多過ぎでは?」
「皆んな、鬼頭さんの決闘の噂を聞いて見に来たようだねー」
あ、蓮の口調が先生モードに切り替わった。
本当に切り替えが早いな…、蓮は。
「退け」
蓮の横顔を見つめていると、早乙女隼人の低い声が体育館に静かに響き渡る。
ギャラリー達の話し声が止んだ。
それ程に、この早乙女隼人の威圧感が凄いのだろう。
あたしから見てもオーラが他の生徒達と違うし、場の空気を変える力を持っている。
早乙女隼人は大介と一緒に、先に体育館の中に入って行った。
「行きましょうか、お嬢」
蓮があたしの耳元で囁きながら、ポンポンッと背中を叩く。
「うん、行こうか」
あたし達も続けて体育館の中に入り、佐和先生と早乙女隼人が立っている中央に向かう。
「よし、二人は前に出ろー。後ろの二人は下がってろ」
佐和先生に言われて蓮と大介は下がり、あたしと早乙女隼人は前に出ると、早乙女隼人と対面する体勢になった。
「これより決闘を行う、ルール上で式神の使用は二回まで。武器は木刀を使って貰う。相手から一本取った方が勝ちとする。また、勝者には級の昇格がある」
へぇ、木刀で戦うのか…。
佐和先生から木刀を貰い、軽く木刀を一振いし、体の感覚を呼び覚ます。
ブンッっ!!!
うん、体が覚えてるみたい。
最近は妖怪銃の訓練をしてたから、刀での戦闘は暫くぶりだ。
「アンタ、慣れてんだな」
「慣れてるって、何が?」
「木刀を使う事にだ。俺が勝ったら、お前の正体を教えて貰うからな」
早乙女隼人はあたしに対して睨みを効かせた。
「普通の人なんだけどな。じゃあ…、あたしが勝ったらあたしの犬になって貰おうかなぁ。それぐらいの事はしてくれるよね?寧ろ、そのぐらいして貰わなと割に合わないし」
ザワザワザワザワッ。
あたしの爆弾発言で、ギャラリーが騒ぎ立てた。
「あははは!!!やっぱり、聖ちゃんは面白いなぁ…。もし、隼人に勝てたら凄いよ?」
そう言って、大介はお腹を抱えて笑った。
「早乙女隼人に勝よ?あたしは」
「へ?」
「あたし、負けた事って一回しかないの。人相手には一度も負けた事がないし」
あたしの言葉を聞いた大介は、目を丸くさせながら固まる。
「ハッ、上等だ!!犬でも何でもなってやる!」
「それでは、両者構え!!!
佐和先生の号令で、あたしと早乙女隼人は木刀を構え、周りが静まるのを確認してから、佐和先生は手を挙げた。
「始め!!!」
ダンッ!!!
号令とと同時に先に動いたのは、早乙女隼人だった。