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練習試合終了後 球場4-2で勝利。
審判の「ゲームセット」の声が響いた瞬間、
ベンチは歓喜の渦に包まれた。
選手たちが互いに抱き合い、
タクとアキは肩を組んで飛び跳ね、
真琴はまだ放心状態だったけど、
アキに頭をぐしゃぐしゃに撫でられて、
小さく笑っていた。
翼は応援席で、メガホンを握ったまま、
胸がいっぱいになって言葉が出なかった。
そのとき、応援席のギャル軍団から、
大号泣の声が上がった。
「うわぁぁぁん!! 卍最高すぎっしょ……まじ泣けたし!!」
「彩花ガチ泣きまじウケるんだけどww」
「うるせー! あんたも泣いてんだろが‼️」
彩花は派手なマスカラをぐちゃぐちゃにしながら、
隣の女子に突っかかっていた。
「椎名ってやつ、マジスカした野郎だと思ってたけど……
マジ漢すぎだし……!」
「わかるー! あのゴリラ(アキのこと)もやばかったよね!
最後の一打、超カッケー!」
「あの胡散臭いイケメン(タクのこと)も、2ベース打った時マジで心臓止まるかと思ったわ」
翼はそれを聞いて、思わず吹き出しそうになった。
(好き放題言われてる……
ゴリラ……胡散臭いイケメンって……🥹)
でも、その姿がなんだかすごく嬉しかった。
最初は「野球わかんねーけど」って言っていた子たちが、
今はこんなに真剣に応援して、泣いてくれている。
翼は自然と笑顔になっていた。
ギャルたちがやいのやいの言いながら帰り支度を始めたとき、
彩花が振り向いて、翼に向かって大きく手を振った。
「斎藤ぉ〜! お疲れ〜!
夏の大会もウチら応援キメっから⭐︎
じゃ、月曜な〜!」
翼はメガホンを下ろして、精一杯の笑顔で返した。
「今日はありがとう!
また月曜、よろしくね!」
彩花たちは「はーい!」と手を振りながら、
派手な笑い声を残して球場を後にした。
翼はしばらくその背中を見送っていた。
(……みんな、来てくれたんだ)
試合はボロ負けから始まった。
真琴は苦しみ、アキは支え、
タクは走り、アキは打ち、
そして、応援席のギャルたちまでが、
このチームに心を寄せてくれた。
翼は胸の奥で、静かに思った。
野球部は、今日、一つ大きく前進した。
球場が学校から徒歩15分ほどの距離だったこともあり、
野球部一同は荷物を抱えてぞろぞろと歩いて帰ることにした。
翼は勝利の興奮が冷めやらなくて、
すぐにタクの元へ駆け寄った。
「タク! おめでとう!!
最後の打席めっちゃすごかったな!」
百万ボルト級の笑顔でそう言われて、
タクは一瞬、目眩がした。
(……可愛すぎるだろ……)
(抱きしめたい……抱きしめたいけど、他の奴らがいるから我慢、我慢……!)
タクは喉の奥で小さく唸りながら、
なんとか声を絞り出した。
「……グ……おう。」
翼はそんなタクの反応など気にも留めず、
興奮冷めやらぬマシンガントークを始めていた。
「ねえねえ、最後の打球の角度ヤバかったよね!
アキくんの長打もすごかったし、真琴くんも最後まで投げ切って……
みんなほんとに頑張ったよ!
俺、応援してて声枯れちゃった!
月曜からまた練習頑張ろうね!
横断幕も少し直した方がいいかな? 風で端がめくれちゃって……」
タクは隣を歩きながら、
翼の横顔をチラチラ見ながら悶え続けていた。
(……可愛い……可愛すぎる……
この笑顔の破壊力、反則だろ……)
一方、野球部の最後尾。
アキと真琴がゆっくり歩いていた。
アキは自分のスポーツバッグに加え、真琴の荷物も軽々と肩にかけている。
真琴の右肩には、アイシング用のコールドパックが巻かれていた。
「……アキ、持たせてごめん……」
真琴が小さな声で謝ると、
アキはすぐに首を振った。
「何いってんだよ。
肩大事にしろって。
お前、今日はよく頑張った」
真琴は俯いたまま、
小さく頷いた。
アキは少し歩いてから、ふと思い出したように聞いた。
「真琴さ、真琴は、何で勝負したい?
あ、球種の話な」
「……え?」
真琴が顔を上げると、
アキは真っ直ぐ前を見て、穏やかに続けた。
「なるべく真琴が投げたいやつで勝負してーんだ」
真琴は一瞬、言葉に詰まった。
今まで誰にも聞かれたことのない質問だった。
体が小さいからストレートは無理。
変化球でテクニックで勝負するしかない。
そう言われ続けてきた。
「……あ、えっと……か、カーブで……」
本心は違う。
本当は、早いストレートでバッターを三振に取るのが、
一番楽しいに決まっている。
アキは静かに微笑んだ。
「それ本心?」
見透かされた。
真琴は唇を噛み、しばらく沈黙した後、
観念したように小さな声で呟いた。
「……ストレート……がいい」
その言葉を聞いた瞬間、
アキの顔がパッと明るくなった。
嬉しそうに、満足そうに、
心の底から笑った。
「よし。
じゃあ、ストレートで勝負しようぜ」
真琴は驚いたようにアキを見上げた。
アキは真琴の頭を軽く撫でて、
優しく、でも力強く言った。
「俺が受け止めるから。
お前が投げたい球、全部投げていい」
真琴の目が、じわりと潤んだ。
でも、泣かなかった。
ただ、初めて、
本当に初めて、
自分の意志で投げてみたいと思えた。