テラーノベル
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その日の夜 真琴の部屋部屋の電気を消して、布団に入っても、真琴はなかなか寝付けなかった。
天井の木目がぼんやり見える。
まだ体が熱い。
肩のアイシングはもう外したけど、
心臓の鼓動が、妙に大きくて、うるさい。
今日のことが、頭の中でぐるぐる回っていた。
——トイレの冷たい床。
震えて蹲っていた自分。
あの坊主頭の男の怒鳴り声。
拳が振り上げられた瞬間。
そして、突然現れた翼の声。
「何してるの⁉️」
……翼は小さくて、細くて、
でもあの時、めちゃくちゃ大きく見えた。
そして、アキ。
「真琴! 俺の目見て!」
マスクを外して、笑っていた。
あのゴリラみたいな大きな体で、
俺のことを、ちゃんと守ってくれた。
「……お前はいい投手だよ」
あの言葉。
あの大きな手で、俺の右手を撫でてくれた感触。
震える体を抱きしめてくれた、温かさ。
真琴は布団の中で、
無意識に自分の右手を左手で包み込んだ。
胸が、痛い。
痛いのに、苦しくない。
むしろ、熱くて、
息が詰まりそうで、
でも、どこか心地いい。
(……なんでだろ)
真琴は目を閉じた。
アキの笑顔が、瞼の裏に浮かぶ。
あの優しい声。
「俺がいるから」って言ってくれた、低い声。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
痛い。
でも、もっと近くにいたいと思う。
もっと、あの温もりに触れていたいと思う。
真琴は小さく息を吐いた。
(……俺、変だ)
まだ、その痛みの正体を、
真琴は知らなかった。
ただ、今日一日で、
自分の世界が少しだけ、
広がったような気がしていた。
布団の中で、真琴はそっと呟いた。
「……ありがとう、アキ」
その声は、誰にも聞こえないくらい小さかった。
でも、心の中では、確かに響いていた。
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