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「お兄ちゃん……。そのお顔についてるの、なに……?」
フランがレーヴァテインを消し、ゆらりと、まるで幽霊のような足取りで近づいてくる。 俺は白だしでびしょ濡れになった頬を押さえながら、後ずさりした。だが、背中はすぐに冷たい石壁にぶつかる。
「こ、これは……さっき言った『白だし』だよ! 舐めちゃダメだ、これはまだ『素材』なんだから!」
「……やだ。だって、すっごくいい匂いなんだもん」
フランが俺の目の前までやってきた。 彼女の七色の翼がカチャリと音を立て、俺を閉じ込めるように壁を囲む。 逃げ場はない。
「…………くんくん」
至近距離。フランの小さな鼻が、俺の頬のすぐそばで動く。 吸血鬼の鋭い嗅覚が、血の匂いを完全に上書きした「カツオと昆布の極致」を捉えていた。
「お姉様がくれるお砂糖のお菓子よりも、咲夜が淹れる紅茶よりも……ずっと、ずっと、美味しそうな匂い」
フランの瞳から、さっきまでの「壊したい」という狂気が消え、代わりに純粋で底なしの「飢え」が浮かび上がる。
「ねえ、お兄ちゃん。……ちょっとだけ、いいよね?」
「ひっ、やめっ……!」
抗う間もなかった。 フランの冷たい指先が俺の顎をクイと持ち上げ、そのまま彼女の舌が、白だしと血が混じり合った俺の頬を、ペロリと一撫で した。
「…………っ!!」
脳天を突き抜けるような、強烈な旨味。 四百九十五年間、決まった食事しか与えられてこなかった「禁忌の存在」にとって、外の世界の技術と俺の情熱が詰まった『白だし』は、もはや味覚の爆弾だった。
「…………おいしい」
フランの顔が、ボッと赤くなる。 「おいしい……おいしい! お兄ちゃん、これ、なに!? 噛むとジャリってする(鰹節)のに、お口の中が幸せでいっぱいになるよ!」
「お、落ち着けフランちゃん! 頬を舐めるのはそこまでだ! 本当は、これをもっと美味しく料理して食べさせるつもりだったんだ!」
俺が必死に叫ぶと、フランは俺の服の裾をぎゅっと掴み、潤んだ瞳で見上げてきた。
「もっと……もっと食べたい。お兄ちゃん、これを使って、私に『壊れない幸せ』をちょうだい!」