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雨彩れえ
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【Side 水】
『そろそろ5人でご飯行かない?』
くにおからそう連絡が来た時、れるは特に深く考えずに『いいよ』と返した。
断る理由はなかったし、このままこえくんと微妙な空気を引きずり続ける方が嫌だった。
あの日以来、 こえくんとは最低限の連絡しか取っていない。
喧嘩したわけでもないし、避けようとしているつもりもない。
ただ、どう接すればいいのか分からなくなってしまっていた。
冗談みたいに笑って流したはずなのに、結局こうして何日経っても残っている時点で、たぶん自分は思っている以上に気にしているんだろう。
どういう顔をして話せばいいのかも、どこまで今まで通りでいていいのかも、全部曖昧になってしまっていた。
でも五人なら、少しは気楽かもしれない。みんないれば自然といつもの空気に戻れる気がした。
そんな軽い考えで向かった待ち合わせ場所だったけれど、実際に店の前まで来ると少しだけ緊張している自分に気づく。
なんやねん、と心の中で自分にツッコミを入れながら集合場所に向かうと、もうみんな揃っていた。
「あ、れるち!」
最初に気づいたゆうくんが、ぱっと顔を明るくする。
「珍しいね、先に全員いるの」
「俺らさっきまで一緒に仕事しててさ」
とくにおが笑った。
「なんかれるちと会うの久しぶりだね」
こったんがそう言う。
「そうやねー。れる引きこもってたし」
「いつもどうりじゃない??」
すぐに返ってきたくにおのツッコミに、みんなが軽く笑った。
その空気に混ざりながら、れるも少しだけ肩の力を抜く。
こうして五人で集まる感じも、なんだか久しぶりだった。
卒業したあとも普通に会ってはいるけれど、全員揃う機会は前よりも減っている。
だからこそ、こういう空気はやっぱり落ち着く。
ちゃんと、いつもの感じだ。
そう思っていた時だった。
「でもちむさんとはよく遊びに行ってるんでしょ?」
ゆうくんが何気ない調子でそう言う。
その瞬間、れるの呼吸がわずかに止まった。
「えっ あぁ……、まぁ……」
返事をしたあと、自分でも分かるくらい変な間が空いてしまう。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
別に隠したいわけじゃない。
むしろ、今までなら「そうそう、めっちゃ会ってる」くらい普通に返していたはずなのに、ちむのことを意識した瞬間、急に言葉がうまく出てこなくなる。
どう返すのが自然だったのかすら分からなくて、自分で自分に困惑する。
「と、とりあえず入ろうか!!」
くにおが空気を変えるみたいに少し大きな声を出して、そのまま店の中へ歩き出した。
みんなもそれに続いて動き始める。
れるも慌てて後を追いながら、小さく息を吐いた。
ちゃんと普通にしようと思っていたのに全然うまくいかない。
すぐ横で、ちむの顔が少し曇っていることにも、れるは気づかなかった。
【Side 赤】
「と、とりあえず入ろうか!!」
くにおの少し大きな声に押されるみたいにして、みんなで店の中へ入っていく。
さっきのやり取りを引きずっているのは、たぶん自分だけなんだろう。
ゆうくんもこったんも特に気にした様子はないし、れるさん自身ももう普通の顔をしている。
でも一回気になり始めてしまうとずっと考えてしまう。
さっきの微妙な間も、泳いだ視線も、全部頭の中に残って離れない。
やっぱり、避けられてるのかな。
そんな考えが浮かんでしまった瞬間から、急に呼吸がしづらくなる。
席についてからも、れるさんは普段通りみたいに笑っていた。
ゆうくんと話して、こったんにツッコミを入れて、くにおとくだらないことで笑い合って。
ちゃんと、いつものれるさんだ。
なのに、自分と話す時だけ少し空気が違う気がした。
話しかければ返事は返ってくるけれども、なんとなく目が合わない。
視線が合っても、すぐ逸らされる。
それが偶然なのか、自分の気にしすぎなのかも分からないまま、小さな違和感だけが積み重なっていく。
「ちむさん最近忙しそうだよね」
ゆうくんにそう聞かれて、
「まあそれなりにね」
と笑いながら返す。
本当は全然余裕なんてないくせに、変に明るく振る舞ってしまう。
れるさんの前で落ち込んでる感じを出したくなかったからなのかもしれない。
自分から変なことを言ってしまったのは事実であり、今のれるさんに気を遣わせるようなことはしたくなかった。
「れるちは最近なにしてんの?」
こったんがそう聞くと、
「いやー曲作ったり、色々」
れるさんは気の抜けた声でそう返す。
その何気ない会話に混ざりながらも、意識だけはずっとれるさんの方へ向いてしまう。
楽しそうに笑う横顔を見ていると、に苦しくなった。
あの日のことで、やっぱり困らせたよなとか。
気持ち悪かったかな、とか。
そんなことばかり考えてしまう。
「ゆうくん!!隣おいで!!」
れるさんが明るい声でそう言って、自分の隣の席をぽんぽん叩く。
「ええ、いいの?」
なんてゆうくんが言いながら嬉しそうに移動していくのを見て、胸の奥がきゅっと縮こまった。
別に、それ自体はなんでもないのに。
れるさんは昔からゆうくんのことが大好きだったじゃないか。
いつもの光景だなんてわかってる。
けどどうしても、自分だけ遠ざけられているような気がしてしまう。
食事に集中しようにも、結局料理の味なんてほとんど覚えていなかった。
笑って、相槌を打って、結構会話にも参加していたはずなのに、頭の中ではずっと別のことを考えていた気がする。
嫌われたくない。
あんなこと言わなきゃよかった。
でも、言わなかったらたぶんずっと苦しかった。
そんな答えの出ないことばかりを繰り返して、勝手に落ち込んでいく。
解散して店を出る頃には、気持ちは完全に沈みきっていた。
少し前を歩くれるさんの背中をぼんやり眺めながら、小さく息を吐く。
やっぱり、前みたいには戻れないのかもしれない。
「……くにお」
隣を歩いていたくにおが振り返る。
「二次会いこ」
自分でも驚くくらい弱々しい声だった。
くにおは一瞬だけこちらの顔を見て、それから小さく苦笑する。
「はいはい。付き合いますよ」
その言い方が妙に優しくて、少しだけ泣きそうになった。
否、このあと泣いた。