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雨彩れえ
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【Side 緑】
最近のちむさんは、なんとなく元気がなかった。
ちゃんと笑ってはいるし、仕事中も別にミスするわけじゃない。
いつも通りうるさいし、普通に喋っている。
でも、ずっと一緒にいるからだろうか。なんとなく、何かが突っかかっている。
特にれるちの話題が出た時には、ほんの少しだけ反応が鈍くなるというか、変に明るく振る舞う感じがある。
たぶん本人は隠せてるつもりなんだろうけど。
「絶対なんかあったよね」
日も暮れ始めたダンス練終わりの帰り道、ぽつりとそう呟くと、隣にいたこったんが苦笑いのような表情を浮かべていた。
「あー……まあ、なんかありそうではある」
「くにおなら知ってるかな」
「知ってるだろうけど、きっと自分からは言わないね」
くにおは、ああ見えてちゃんと口が固い。
ならば自分は別口を使おう。
おそらく原因であるだろう、れるちへLINEを送る。
『れるち、今からご飯いかない?』
すると数分もしないうちに返信が来た。
『え、珍し』 『いくー』
相変わらずフッ軽だが、こういう時は助かる。
待ち合わせた店に、れるちはいつも通りの姿で現れた。
身バレ防止のために一応被った帽子を外し、席につくなり「おなかすいた〜」なんてつぶやく。
あまりにも自然で、一瞬だけ考えすぎかなと思いかけた。
でも、ちむさんの様子を思い出すとやっぱり何もないとは思えなかった。
料理を注文してから待っている間、タイミングを見て口を開く。
「最近、ちむさんと遊んだ?なんか元気ないんだよねあの人」
なるべく軽い感じで聞くと、れるちの動きがほんの少しだけ止まった。
本当に一瞬だけ。
「あー……そう?」
「そう」
即答すると、れるちは図星を突かれたような困った顔で笑う。
「ちむさんとなんかあった?」
視線を落として、テーブルの上の水入りグラスを軽く回している。
別に急かすつもりもないから、そのまま待っていると少ししてから小さく口が開いた。
「……まぁ、ちょっと」
五人でご飯に行った時の二人の妙な空気は、やっぱり気のせいじゃなかったらしい。
「喧嘩?」
「いや、ではない」
「じゃあなんかやらかした感じ?」
そう聞くと、れるちは少しだけ眉を下げた。
「やらかしたというか、やらかされたというか……」
普段、人との距離感でそんなに悩むタイプじゃないから珍しいな、と思った。
誰とでも自然に喋るし、むしろ他人の喧嘩を仲介する方が多い。
「なんか、どう接したらいいか分からんくなって…」
ぽつりと落ちたその声は、思っていたよりずっと素直だった。
「え、ちむさんに告られた?!」
「しかもその前に四股男と付き合ってたの?!!?」
思わずそう聞き返すと、れるちは気まずそうに視線を逸らした。
「告られたっていうか……この前飲みに行った時に急に言われて。」
「ちむが、彼氏じゃだめ?って」
料理が運ばれてきてもすぐに箸をつけず、思っていたよりも悩んでいるようだった。
あのちむさんが、酔った勢いとはいえ、そこまで口にしたということはたぶんかなり前から抱えこんでいたんだろう。
「で、それなんて返したの?」
「普通に笑った」
「うわ、」
思わず反射で声が出る。
「いやだって!急すぎたし! 酔ってたし! 冗談やと思うやん普通!!」
と、れるちは言い訳を並べるように言い返してきた。
「まあ……うん、それはそうかも」
実際、状況だけ聞けばそう受け取っても仕方ない。
「じゃあなんでそんな気まずくなってるの」
その質問に、れるちはぴたりと止まった。
箸で料理をつつきながら、しばらく黙り込む。
「……分からん」
しばらくしてから、れるちは小さく呟く。
「なんか、変に意識するようになってもうて」
「へえ」
「いや、別に恋愛的にとかそういう意味じゃなくて!」
すぐ慌てたみたいに付け足してくる。
その反応がおかしくて、少しだけ笑いそうになった。
「誰もそんなこと言ってないけど」
「……うるさい」
れるちは居心地悪そうに顔をしかめる。
きっと、自分でも整理できていないんだろう。
恋愛なのかと聞かれたら違う気もする。
でも、今までと同じでもいられない。
そんな中途半端な場所で、ずっと足踏みしている感じだ。
「なんか……」
れるちはぽつりと呟いて、少し考えるみたいに視線を泳がせた。
「ちむって、ずっと隣におるのが当たり前やってん」
「メンバーで、親友で、一緒におるのが普通すぎて」
「うん」
「せやから、急にそういう風に言われても、なんて考えたらいいか分からんくて」
それが本音なのだろう。
れるちは昔から人との距離が近い。
でもその中で、ちむさんはたぶん別格で、特別扱いしている自覚すらないくらい自然に隣にいる存在で。
近すぎるからこそ、今さら名前をつけられない。
「ちむさん、れるちに嫌われてるかも…とか考えてると思う」
そう言うと、れるちはぱっと顔を上げた。
「え」
「めちゃくちゃ分かりやすい。くにおもたぶん気づいてる」
その瞬間、れるちの表情が少し曇る。
自分が避けているつもりはなくても、結果的にそうなっていたことに今さら気づいたみたいだった。
「……嫌いになったわけじゃないねん」
ぽつりと落ちた声は、言い訳みたいで。
「むしろ、大事やし」
「じゃあちゃんと話した方がいいんじゃない?」
「でも、なんて言えばいいん……」
「そのまま言えば?」
「無理やって……」
即答に、思わず少し笑う。
でもまあ、らしいといえばらしい。
「れるちは、ちむさんとこのままなのは嫌なんでしょ?」
「……そりゃ、嫌やけど」
小さい声だけども、迷いのない声だった。
「じゃあ、このまま避け続ける方がまずくない?」
返事は返ってこなかったけれど、たぶん今、ちゃんと考えているのだろう。
恋愛かどうかではなく、
自分が、これからも彼の隣にいたいのかを。
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