テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
4,674
佐久良優華@イラコン開催中
2,603
夜更け。
フォージャー家のリビングは、いつもより静かだった。
アーニャはすでに夢の中。ヨルも寝室で穏やかに眠っている。
わたしは窓辺で月を見上げながら、
昼間の笑い声を思い出していた。
――あの子の笑顔を、守れるのなら。
そう思うたびに、心の奥が温かくて、でも少しだけ痛む。
そのとき。
ポトリ、と玄関の方で音がした。
手紙だった。
宛名には、誰も知らない名前。
「エレナ・ヴァイス」。
わたしの、もうひとつの名前。
指先が冷たくなる。
開封すると、短い文が一行だけ書かれていた。
――次の標的は、〈黄昏〉。
息が詰まる。
わたしの心臓が音を立てた。
「……嘘、でしょ。」
思わず声が漏れる。
こんなにも平和で、笑っていられる日々の中で、
どうして“あの人”の名前が出てくるの。
ロイド。
フォージャー家の父親であり、アーニャのパパであり、
そして――〈黄昏〉。
西国の最強のスパイ。
けれどその時。
「……おねーちゃん?」
アーニャの小さな声がした。
わたしは慌てて手紙を背中に隠した。
「ど、どうしたの、アーニャ?」
「おトイレ……でも、なんか、かなしい気持ちがした。」
――読まれてる。
この子には、心の声が聞こえる。
わたしは笑ってみせた。
「だいじょうぶ。ただの、お手紙を読んでただけ。」
「……ウソ。」
アーニャが小さく言った。
その目が、まっすぐわたしを見ていた。
「おねーちゃん、泣きそうな顔してる。」
胸が締めつけられる。
でも、泣くわけにはいかない。
家族を守るために、どんな嘘でもつけるはずだった。
それが、わたしの生き方だったのに。
「アーニャ……ありがとう。でもね、これは“ないしょの手紙”なの。」
「ないしょ……?」
「うん。だから、ママにもパパにも言わないでね。」
アーニャは少し考えてから、小さくうなずいた。
「……わかった。でも、アーニャ、おねーちゃんの味方。」
その言葉に、涙がこぼれそうになった。
「……ありがとう。アーニャ。」
小さな手が、そっとわたしの手を握る。
あたたかい。
それだけで、闇が少しだけ遠のいていく気がした。
――でも、わかってる。
この平穏は、もう長くは続かない。
それでも、守りたい。
この“家族”を。
この“妹”を。
たとえ、世界中を敵に回しても。
🌙 次章予告
朝が来る。
けれど、その光は少しだけ冷たい。
ロイドの手の中に、一枚の“同じ手紙”が落ちていた。
第6章「嘘の境界線」
――家族の秘密が、静かに交わる。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!