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「やっぱりこの辺には宇宙人が多いんや!」
アタシは確信した。
ちょっと変なテンションになっていたのも事実だ。
だけど桃太郎にうらしま、何と言っても一寸法師と名乗ったあの小人!
不思議ワールド大爆発や。
このアパート、ある意味スゴイ!
探せばそのテのヤツ、もっといるかもしれない。
「リ、リカ殿。いい加減に目を覚ますのじゃ」
桃太郎のか細い声。
途方に暮れたようにアタシの後ろをついて回る。
「もう3日もおかしな事を呟きながら、町中をうろうろしておるではないか。部屋にはちっとも入れてくれぬし……」
福の神・一寸法師を見付けられてたまるかと思ってアタシは3日間、奴を完全に閉め出した。
姉の部屋にも入れてもらえず、桃太郎は廊下で寝起きしているらしい。
フン、ざまあみろ!
髪切り事件で桃太郎を疑ったのは悪かったナァ……という考えが浮かばなくもない。
犯人が一寸法師だったことは誰にも言っていないので、アパート内で未だ桃太郎は最も有力な容疑者として扱われているらしい。
行く当てもなく、それでアタシの後を付いて回っているのだろう。
でも、アタシは今忙しい。
「人類の2分の1は既に宇宙人やねん」
「は、初耳じゃが……?」
桃太郎は顔をしかめた。
ホラ、宇宙人っぽいヤツに限ってこういう反応をする。
誤魔化しているつもりなのだろう。
「人類が人工衛星飛ばしたり、探査ロケット飛ばしたり、あげくに宇宙ステーション造ったりしてんのは何でや?」
「いや、それは宇宙の資源の争奪戦……」
「アホか、アンタは? 何で人類が宇宙開発に熱心かっていうと、地球の人口の2分の1を占める宇宙人による故郷への郷愁の思いやねん。ノスタルジーや! 騙されたらアカン。NASAなんてほとんど全員宇宙人や!」
どこに潜んでるか分からんで。
そう囁くと、桃太郎は心なしか青ざめた。
「宇宙人探したい! 宇宙人探し隊!」
隣りの部屋の扉が開いていたものだから、アタシは勝手に入っていった。
1Kの狭い和室──特に押入れを中心にくまなく探す。
一寸法師が存在するくらいだ。
宇宙人はどんな大きさなのか、どこに潜んでいるのか予想もつかない。
「ややややめてくださいぃ」
気弱そうなメガネの女の子がアタシの腕に取りすがる。
「大丈夫やから。大丈夫、な! でも油断はできんからな」
「ななな何が大丈夫なんですか?」
桃太郎が何か叫び、女の子が甲高い悲鳴をあげる中、アタシはマイペースで部屋の捜索を完了した。
よし、次に向かうのは1階だ。
「宇宙人探したい! 宇宙人探し隊っ!」
目についた所をあちこち探して、これはクサイとピンときたのは玉手箱風の小さなボックスだった。
うらしまの弁当箱のようだ。
「小人型が隠れるには最適なスペースやな」
「小人型? 型って何だい、リカちゃん?」
誰かがすぐ側でそう言ったが、アタシの意識はあまり現世(こっち)に留まってはいなかった。
「見付けたッ!」
叫んで蓋を取ると、中にはビッシリとイナゴが入っていた。
つくだ煮や。
「うわ…」
一瞬だけ、思考が現実に戻ってくる。
「こんな弁当食べてたら会社の人、引くやろな」
我ながら正しいツッコミだ。
「おうぅっ!」
イナゴ弁当を目の当たりにした桃太郎が、両手で口を押さえて嫌なポーズをしている。
「やめろーっ、桃太郎くん!」
「おうぅっ!」
桃太郎とうらしまの悲鳴をバックに、アタシは部屋を飛び出した。
自室に戻って押入れを開ける。
「ほ、リカ氏(うじ)か。拙者の事は誰にも言ってないでゴザルな」
一寸法師が飛び出してきた。
アタシの肩にちょこんと乗る。
小鳥みたいで可愛らしい。
細い目の奥で、何だか小賢しげな光が瞬いている。
「拙者はそなただけの福の神でゴザルよ。米と金を供えれば、必ずやそなたの元に福が舞い込むでゴザル」
「へっへっへっ」
アタシの笑い声だ。
へっへへ……まさか願い事を叶えてくれるとは。
宇宙人のなかでも、アタシは相当ランクの高い宇宙人と遭遇できたようだ。
「そやなぁ、アタシの願いは……」
やっぱり高校行きたいってことかな……と言いかけたその時。
背後でガタッと音がした。
「リ、リカ殿……」
桃太郎だ。
興奮していたせいでアタシ、玄関に鍵を掛けるのを忘れていたようだ。
桃太郎はメガネを外したりかけたりしながら、アタシの方を──主に肩の辺りを凝視している。
「余、余は目が悪くての。つまり視力が……」
──いや、そんな筈無い。
──いやいや、そんな筈はない。
ブツブツ呟きながら、遂にメガネは間近に迫った。
肩の上で小人が身じろぎするのが分かる。
「拙者は福の……」
「キャーーーーッ!」
人の耳の真横で、桃太郎は突然すごい悲鳴をあげた。
文句を言う間もなく、バタッと倒れる。
「も、桃太郎?」
泡吹いて昏倒している。
「ひ、人が失神するとこ初めて見たわ」
こんなひ弱な桃太郎には、鬼退治も世直しの旅も無理やろな。
心底、そう思った。
「こんな所で、こんな時間に何をしておる?」
そう言われたのは、桃太郎失神騒動から半日ほど経ってからのことだった。
ここはオールド・ストーリーJ館、屋根の上。
今は夜の12時を回ったところだ。
失神した桃太郎は随分長いこと眠りこけ(仕方ないから部屋に寝かせてやった)、そして今、ようやく意識を取り戻したようだ。
「アタシ、UFO探してんねん。アッ、何やその目は。言っとくけど、アンタにツッコム資格はないで」
梯子が見当たらないので自分の部屋の窓から身を乗り出して屋根瓦をつかみ、腕の力だけでここまで必死によじ登ってきたのだ。
思った以上に大変な運動で、アタシはまた肩が抜けるかと思った。
でも屋根の上は気持ちいい。
「ゆーふぉー……」
桃太郎、何かを考え込んでいる表情だ。
ひ弱なコヤツに屋根まで上がる力はなく、窓から上を見上げての会話である。
「余はさっき何か小さなモノに遭遇したであろうか……。おかしな夢を見たような気がするのじゃが」
「………………」
無視してアタシは広大な夜空を眺めた。
ここはトーキョーだけど都心からはかなり外れている。
星もチラホラ見える。
「昔な、おじいちゃん家のマンションで見たんや。夜空に有り得ないオレンジと白の光! フワッと飛んだり、ピタッと止まってしばらく静止してから、急にジグザグ飛行したり、それから突然消えたり現れたり……」
「リカ殿…………」
桃太郎がすごく何か言いたそうに口ごもった。
「違う! 飛行機違う! ヘリも飛行船もありえへん。間違いなくUFOや! あの動き……見た人でないと分からんわ」
「お、落ち着くのだ、リカ殿」
必死の形相したメガネが突然窓枠を越えた。
歯茎をむき出しにして「うぬぬ」と唸る。
ひ弱桃太郎が屋根に這い上がってきたのだ。
「来るな!」
アタシは叫んだ。
余計な雑念が入ると、UFOが逃げてしまう。
「お姉が昔言っててん! 果ても分からんこの宇宙に、生命(この場合、知的生命体に限定する)は自分たちだけやと思ってる人間の驕りが我慢できんわって。他にいる! 宇宙人は必ずいる! 地球の人口の半分がヤツらだって何で誰も信じへんの?」
「信じる方がどうかして……ゲフッ!」
桃太郎が滑った。
パカッと口を開けたまま屋根から姿を消す。
ズン。
もの凄い地響きの中、アタシは屋根の上に仁王立ちした。
「宇宙人を見付けても、それが友好的宇宙人か敵対的宇宙人か見極めが難しいんや! でもアタシにはできる。アタシにはできるねん……アレッ」
そこでスッパリ記憶が途切れた──ドシン。
アタシも屋根から落ちたのだ。
「7.不毛なサガ~思わず色んなことに対してツッこんでしまう関西人の血」につづく