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どういうこと!?何が起きたの!?私に妹!?
いやまあ、お母さんやお父さんはアード人的にもまだまだ若いから私に弟か妹が出来るのは別に不思議なことじゃない。
ただ、その可能性は限りなく低いと思っていた。それはアード人の……有り体に言えば性欲が滅茶苦茶低いのも原因だ。これに追加で地球人より遥かに妊娠し難い身体なものだから、あり得ないくらい出生率が低いんだよねぇ。ドルワの里でも私が百年ぶりの子供であることからもそれが見てとれる。
それでも私が不在の間に良い感じに……いや、親の生々しいのは色々キツいから止めておくとして……。
「お母さん、いつの間に」
「あなたが旅立った後よ。個人的にもう一人欲しかったし、実証するのにもちょうど良かったから」
お母さんは私の妹、ティルを抱っこしてご満悦だ。いや、それより実証?
「お母さんの生々しい願望は置いておくとして、実証って?」
「あら、長から何も聞いていないのね。ティナが地球から持ち帰った食べ物よ」
「食べ物?」
缶詰を中心にした保存食や調味料の事だよね?
「ええ、その食べ物が重要なのよ。早い話アード人が食べるとそう言う部分がとても刺激されるの」
「はぁ!?」
なにそれエ◯ゲーか何かですか!?まさかの発情作用で子沢山実現!?
「お母さんがムラムラしただけじゃないの?」
娘としてストレートに言ってあげた。ちなみにティルは眠ってる。わが妹ながら大物だな、この娘。
「それは否定しないけど」
「しないんかい」
「私だって学者の端くれ、一例だけで実証なんて言わないわよ。来なさい」
で、私はお母さんに連れられて里の広場にやってきた。すると。
「「「こんにちはー!!!」」」
そこには元気いっぱいな子供が三十人くらい居た。
「……え?本当にそんな効果があるの!?」
「しかも妊娠率が跳ね上がる作用まであるわ。まあ、副作用が無い訳じゃないけど」
「待った、副作用があるの!?」
と言うか私はなんともないんだけど?
「まあその、ティドルを含めた里の旦那達が腰痛を患ったくらいかしら」
「お父さん……」
つまり女性は底無しになるわけだ。いや、私は?なんともないんだけど。なにこの疎外感……あっ、いや別に構わないか。大変なことになりそうだし。
ちなみにアード人の妊娠期間と成長速度は凄く早い。環境故なのか、一年もあれば十歳くらいまで成長して、それからゆっくりと成長していく。それにしてもちょっと早すぎるような気がするけど、それも地球の影響なのかな。
尚、成長に必要な栄養も多いから、専用の栄養スティックが用意される。
子育てに時間をとられないための進化だとは言われているけど、諸説あるらしい。詳しくは分からないけど。
ただ一つ言えるのは、ドルワの里は空前のベビーブームってことかな。ばっちゃんめ、知ってたなぁ?
と言うか早すぎない?
「それと個人差はあるけれど、妊娠から出産までの時間も異常に早かったわね。私の場合四日かしら?」
「いくらなんでも早すぎるよ?大丈夫なの?」
地球人より遥かに早いスパンと言っても、妊娠から出産までは一月近く掛かるはず。あっ、ちなみにアード人は胎生だよ。鳥から進化したっぽいけど、卵生じゃない。
「私を含めて母親全員健康そのものよ。ただ、異常にお腹が空いて大変だったわね。パトラウス政務局長が直々に大量の栄養スティックを用意してくれなかったら、ちょっと危なかったわね」
ばっちゃんが手を回したんだろうけど、弟だからって地球で言えば大統領に相当する人をパシリで使うなんて。会ったことはないけど、なんとなくジョンさんと同じタイプのような気がしてきた。いや、ジョンさんの場合は私が悪いんだけどさ。
「ティルは大丈夫なの?」
今もお母さんに抱かれて爆睡している妹の事が気になる。明らかに普通の状態じゃないんだ。まだ実感は湧かないけど、やっぱり心配になるよ。
「そこも大丈夫よ。色々検査をしたけど、ティル含めて今回生まれた子供達はみんな健康体そのもの。
ちょっと平均より食べる量が多いけれど、これは急成長するためのエネルギーね。計算だと今後は普通通りに成長していくはずよ。
もちろん、経過観察は必要だけどね」
「そっか……色々有り過ぎてあんまり実感湧かないけど……おめでとう。そしてみんな、はじめまして!ティナだよ!」
「「「おねーちゃん!!!」」」
うんうん、子供は元気が一番だ。ビックリしたのは間違いないけど、この効果は素直に嬉しい。センチネルに襲われなくても滅びの道を歩むアードを救う手立てが地球に有る。それが分かっただけでもアード政府だって地球に興味を示すはずだから。
ケレステス島、ハロン神殿。アード永久管理機構の政務局に割り当てられた区画にて、ティリスが弟であるパトラウスと面会していた。
尚、パトラウスは執務室で貴重な余暇を満喫していたところに姉が突撃してきて、豊かな自然と噴水がある中庭へ強制連行されている。南無。
「先ずは無事の帰還、喜ばしく。姉上不在の最中、ドルワの里にて珍事が発生しましたが臨機応変かつ迅速に対処しました」
「連絡には目を通したよ。ごめんね、パトラウス。色々大変だったよね?☆」
「確かに珍事ではありましたが、内容としては歓迎すべきものでありました。まさか、これ程の効果があるとは」
「ティアンナちゃんが張り切っていたのは知っていたけど、まさか三十組が一斉に子供を産むとは思わなかったなぁ☆」
「何を仰るか。姉上の店から栄養スティックを融通させていただきましたが、軽く百名分の幼子用スティックが備蓄されていたではありませぬか。
姉上は此度の事態をある程度予測されていたのでは?それ故に私に里の管理を任せた。外部に情報が漏れることを防ぐためでしょう」
「ミドリムシに知られたらあの馬鹿達が何をするか分からないからね。情報は?」
「遮断しております。里の者以外は此度の事態を知りませぬ。無論、女王陛下は全てを見通されていらっしゃるでしょうが」
「……女王陛下は何か御叡慮を漏らされたりした?」
「侍従長の話では、何も。心穏やかにお過ごしなされておられるとか。しかし、時折星空を眺め悩ましげに吐息を漏らされることがあると」
「心当たりがあるとするなら、ミドリムシか。ロクなことしないな。フェルちゃん達一部のリーフ人以外は駆除した方が良くない?」
「姉上、言葉が過ぎますぞ。女王陛下もそれは望まれておられませぬ」
「そうかな?私はこれでも陛下の忠臣、ご意見番なんて呼ばれてたんだけど。陛下の御心中を思えば……いや、いいか。忘れて、パトラウス。私はもう一線を退いたババアなんだ。口を挟むのは止めとく。ミドリムシは嫌いだけど」
「姉上……」
憂いを帯びた目で空を見上げる姉を見て、パトラウスはかつての姉の姿を重ねるのだった。
五百年前、アードが母星に閉じ籠る選択をした時、姉もまた一線から身を退いたのだ。