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ツアーの準備が佳境を迎えていた。
演出、構成、ダンス……やるべきことは山積み。 その中で、太智は人一倍、動いていた。
 「塩﨑さん、ちょっと休憩したら?」
 スタッフが声をかけても、「大丈夫!」と笑顔で返す。
でもその笑顔が、日に日に張りついたものに変わっていくことに、仁人は気づいていた。
 太智はグループを引っ張る存在として、どこか“完璧”でいようとしていた。
 
 「俺がしっかりせなあかん」
 その思いが、無意識のうちに太智を追い詰めていたのだった。
 
 
 
 
 リハーサル後のスタジオ。
 太智はひとり残って、ノートを開いていた。
全体のフォーメーション、照明のタイミング等、 確認すればするほど、不安と責任感で胸が詰まってくる。
 「……あかん。これでほんまに、みんな楽しんでもらえるんか……?」
 そのとき、ドアが静かに開いた。
 「……太智」
 仁人の声。すぐ後ろに、勇斗の姿もあった。
 「さっき柔と舜から聞いたよ。最近、太智のこと気にしてるって」
 太智は驚いたように眉を動かした。
 「……あいつら、見とったんやな」
 仁人は近づいて、静かに椅子に腰かけた。 言葉を選びながら伝える。
 「太智が頑張ってるの、みんな見てるし、知ってるよ。めちゃくちゃ頑張ってる。でも……全部、ひとりで背負わなくていいんだよ」
 「……でも仁人はラジオもあるし、勇斗はドラマとかで大変やし……。柔太朗は衣装考えてくれてるし、舜太も今引っ張りだこやん……やから、オレが動かな、って思ってまうねん」
 太智の声は震えていた。
自分が止まってしまえば、流れが滞る気がして、走るのをやめられなかった。
 仁人は、そっと太智のノートを閉じた。
 「太智、それ、責任感からじゃないと思う……。俺たち、いい意味で誰も太智に完璧を求めてない。メンバーの誰かが困ってたら支え合えばいいじゃん?」
 勇斗も隣で言葉を重ねる。
 「そうだよ、太智。太智が止まったら、俺らで動かすし、ダンスだって演出だって、一緒に考えれるから。太智の“ひとりで頑張る”姿見て、助けたくても助けられないのが、一番つらいんだよ」
 太智は、ぐっと唇を噛みしめた。
 「……でも、もしオレが頼ったことで、誰かに迷惑かけたら……オレ、役目果たしてへん気ぃして」
 「迷惑くらいかけていいよ。お前が笑ってる方が、何百倍も助かるわ笑」
 勇斗のその言葉に、太智の目に、ぽろりと涙がにじんだ。
 仁人は、そっとその肩に手を置いた。
 「太智、俺たちはM!LKだよ。1人じゃないから背負い込まないでよ。もっと、頼って。お前がしんどいなら、俺が引っ張るし、勇斗が支える。……そうやってやってきただろ?」
 太智は、小さくうなずいた。
 「……ありがとう。オレ、ちょっと頑張りすぎてたかもしれへん。……甘えてもええ?」
 「うん、いいよ」
 「もっと頼ってくれたらいいのに、って何回も思ってたわ」
 ふたりの温かい言葉に包まれて、太智はようやく、深く息を吐いた。
 
 
 
 数日後。演出の打ち合わせには、全員参加し、意見を出し合った。 太智のノートには「みんなの言葉で、完成するライブ」というメモが追加されていた。
 ライブ当日。
ステージに立つ5人の姿は、どこまでも自然で、どこまでも頼もしかった。
 そして、太智は心から笑っていた。
コメント
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ありがとうございます。 とても良かったです