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「君たちか……」
学生たちを一瞥したズィナミは次の瞬間体を硬質化させ続け始めた。
『鋼体術』、別名『身体強化』と呼ばれるこのスキルは代々鬼王と呼ばれた戦士に受け継がれた闘技の根幹である。
若い頃、この里の前身である鬼王の里に預けられたバストロとズィナミも、当然この技を習得済み、いいやズィナミに限って言えば習熟していると言って良いだろう。
八年前のアキマツリの帰り道、不意に姿を現したクロトを警戒した時の、バストロもそうであったが、魔力を高速で体内に流し続けた場合、身体強化はその速度に応じて段階を超えて重なってしまう、所謂(いわゆる)、多重掛けって状態になる。
『身体強化』、文字通り体のあらゆる機能を高めるスキルである。
筋肉の機能のみならず、外皮や骨格の強靭化を齎(もたら)し、内臓や各種感覚器官の性能すら強化、つまり高め捲ってしまう業なのだ。
簡単に言えばこの状態になったニンゲン、まあ鬼と言ったほうが判り易いだろうが、人族はお腹が減って仕方が無い、そんな状態に陥ってしまうのである。
ターボ装着車に乗った事がある方なら判って頂き易いかも知れないな、走り出しからずーぅっとっ、ターボ全開…… えぇ、燃費悪ぅっ! って事なのだ。
一般の魔術師が取得していたとしても、滅多にやらない技である筈だが、この時のズィナミ・ヴァーズは惜しみなく多重掛けを繰り返したのであった、さぞやお腹が空いてしまった事であろう……
「ほう…… なるほど、な………… ふむ」
身体強化の多重掛けは術者の見た目をも変える。
学生たちの前で何回も身体強化を重ねたズィナミの体は徐々に赤らんで行き、最終的に言葉を発した時にはどす黒い赤、と言うよりほぼ黒に変じていただけではなく、額から短い角状の突起が二本せり出していたのであった。
一見すれば人外のモンスター、そう思われても仕方が無い姿で呟きを漏らした直後、ズィナミは身体強化を解いた美しく賢明な女性の姿に戻り、横に控えていたキャス・パリーグに告げたのである。
「パリーグ副学長、この子とこの子、ジョディ・ブレイブニアとサンドラ・レオニー…… この二人は既に魔術師じゃあないね、魔力に色が混ざっちまってるね白と紫、かな? ふぅ~、今後はレイブの所で学ぶしかないだろうねぇ…… 後、そこの一回生、ラン…… 何と言ったかな、君は?」
問われた男子生徒は大きな声で答えたらしい。
「は、はいっ! ランディです! ランディ・スカウトと申しますっ! 因みにですが俺もレイブさんに教わりたいと思っていますっ!」
緊張で全身に力を込めたランディに対してズィナミは首を左右に振りながら答えたそうだ。
「ほらほらそんなに力んだりしたらアンタの周りの魔力は真緑になってしまったよ! レイブの所に行くまでは大人しくしておいで! 他の生徒に影響を与えないとも限らないんだからね! ジョディ、サンドラ、お前達もだよ!」
「「は、はいっ」」
「うぃ♪ んで学院長? 今からレイブ師匠の所に行っても良いんですかねぇ? 俺、早く教えを受けてみたいんですけどぉ~?」
浮かれているランディと期待を込めた目で自分を見つめているジョディとサンドラの瞳を見回した後、学院長ズィナミ・ヴァーズは彼らではなく横に立つキャス・パリーグに対して言葉を発したそうだ。
そこまで一気に話し終えるとキャス・パリーグは遠くを見るような視線を浮かべてレイブに言う。
『それから学院長の指示で全校生徒を集めたの、お前の所に送るべき適合者、『役立たず』を見つける為にね、そうして新たに見つけられた二人がライアとシンディだったの』
「適合者、ですか? 『役立たず』が、ですぅ?」
『ええ、彼らは紛う事無き適合者よ、貴方やラマスの後を追う者、それに違いないでしょう』
「俺とラマスの…… どう言う事ですか、姉さん? ちゃんと説明してもらいたいんですけど……」
『そうでしょうね、では説明しましょう、実はね全ては学院長の推測から始まったのよ、あの日私が助け出して連れてきた貴方に会った時、彼女、ズィナミは一つの仮説を立てた、そうらしいの』
「は、はぁ……」