「よしっ……と。ところでアックさん。気になっていたんですけど、ガチャでご自分の装備とかはお出しにならないのですか?」
ガチャで装備品を出す――そこまで頭が回っていなかったな。
それに、
「ん~……、果たしてガチャにそこまで頼ってもいいものかな?」
「悪い目的では無いわけですし、アックさんご自身のスキルなんですからいいんじゃないでしょうか?」
「そんなものかな」
「はいっ!」
ルティに言われてハッとした。レアが確定するガチャに覚醒したとはいえ、おれは正直言って自分の為に使うことにどこか不安とためらいがあった。しかし彼女の言うように悪いことに使うわけじゃないのは確かだし、ガチャをしてもいいかもしれない。
【Sレア イグニスメイル Lv.240】
【Sレア クリムゾンガントレ Lv.300】
「――何というか……見事に炎系の防具ばかりだな」
ロキュンテのことといい、ルティからの影響が思いきり出た感じだ。
「あらら、アックさんに炎の拳で攻撃しまくっちゃった影響が出ちゃいましたか~……ごめんなさいです」
「いや、体が属性を覚えたことに関しては怒る理由もない。レアガチャが単なるランダムで出る物じゃないことも分かったからね」
「あっ! この際ですのでズボンはわたしがお作りしますよ! 赤い装備に身を包むアックさんにぴったりかと!」
彼女は何でも作れるのか。強くなれる料理以外にも裁縫も出来るなんて。
「ルティは万能なんだな」
「え、えへへ……それほどでもぉ」
「焼いてきたパンも頂くよ!」
「どうぞどうぞ! わたし、素材をなめしてきますねっ!」
スキュラが宿に戻って来たのは昼過ぎのこと。
昨晩おれが街中で暴れたことについては、
「……反省したなら別にいいですわ」
――と、彼女はきちんと自分の役割をこなしてきたようで、おれに呆れながらも話を聞かせてくれた。
「そういうわけで、あのベッツなる貴族騎士は強そうな人間を片っ端から探していましたわね」
どうやら身内から暴れ者が出たらしく助っ人が欲しいということだった。敵討ちをして欲しいなど、何とも物騒な話だ。
「身内のゴタゴタなら自分で行けばいいんじゃ……?」
「いいえ。あたしが見た感じ、あの男の強さは大したことありませんわ。あたしが水魔法で止めたのはアックさまの寝不足気味なお体を案じてのことであって、負けるようなことにはならないと思っていましたから」
酒場に入った時点でおれが寝不足気味状態だったことに、彼女は気付いていたらしい。スキュラに助けられたし頼りになりすぎる。
「……それよりも、全身暑苦しそうな装備はあの娘が?」
「ルティから相当ダメージを受けたみたいでね。体が炎属性を覚えてしまった結果であんな感じに」
「その魔石って、もしかしてアックさまと共に成長されておられるのでは?」
「成長を?」
魔石から見えた彼女たちの成長と称号。
やはりあれはそういうことなのか?
「その魔石は人間を狂わせる何かがありますわ」
彼女は人間じゃないような――などと失礼な話だが、スキュラも狂わされた一人だ。スキュラ自身も魔石に思うところがあるといったところか。
「おれは魔石に気に入られたのかな?」
「覚醒をされてからはそうだと思いますわ。それまでは失敗続きだったのですよね?」
「いいものなんか一つも出なかったな……」
「それが今やアックさまの成長と共に学習している……そんな気がしますわ」
果たしておれ自身のステータスはどう表われるのか。
「……なるほど」
「それはともかく、アックさまはご自身のお強さを確かなものにするまではむやみやたらに強さを見せつけるべきではありませんわ」
「人前、それも剣闘場に行くことを反対してる?」
「それだけではなく、転送士のことも含めてですわ!」
考え方はルティの母親とはまるで異なるな。スキュラは人間を信用してないし無理も無いけど。
「あーまぁ、うん」
「特にあの貴族騎士とはここにいる間は接触を避けるべきかと」
「気を付けるよ」
スキュラの話では話をしただけで特に何も危ない目に遭っていないらしい。ベッツなる貴族騎士もアグエスタに旅で訪れただけで、実はこの国の騎士では無いのだとか。
スキュラとの話が一段落したところで、勢いよく部屋のドアが開かれる。
「イスティさま!! 外! 外に行くのっっ! 早く、はやくっ!!」
「フィーサ?」
部屋を出て行ったきり戻って来なかったが、フィーサが慌てながらおれを呼んでいる。
何かあったのだろうか?
「あたしはこの部屋にいますわ。どうぞ、行ってらっしゃいませ」
「よろしく頼むよ」
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