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「どーってことないですよ。どんどん映しちゃて下さい!」
夏希までが、割り込んできて思いっきり笑いながら言った。
夏希らしいけれど、かなり余計なことだ。
「あのねぇ、夏希。他人事だと思って。簡単に言わないで」
「何を恥ずかしがってるの? お世話になる亮君のお願いなんだから、聞いてあげなきゃ。天下のアイドル様に『笑顔の可愛い』なんて言われて引き受けないバカはいないよ」
「バカって……」
この密着番組は昔から続く大人気番組だ。
日本中のたくさんの人の目に触れることを考えたら、絶対やりたくない。
できるだけ目立たないように生きてきた私なのに、いきなりあの人気番組に出るなんて有り得ない。
「森咲はコピーのセンスがあります。笑顔も含め、どうぞしっかり紹介してやって下さい。お願いします」
朋也さんが、番組のディレクターさんに言った。
「了解です。じゃあ、そうさせていただきます。良かったです」
えー!!
私、OKしてないよ。
思わず大声で叫びそうになる。
朋也さん、夏希、一弥先輩まで、みんなが意地悪そうに笑いながら私を見ている。
「恭香ちゃん。もう、観念しなきゃね。みんな楽しみにしてるから。今から放送が楽しみだね」
「一弥先輩。私、本当に自信ないんです。テレビ画面に自分の顔が映るのを想像しただけで……」
「まあまあ、恭香。大丈夫大丈夫、恭香は可愛いんだから。視聴者から『あの人誰?』って問い合わせが来るよ、きっと」
「うん、かも知れないね。恭香ちゃんは本当に可愛いんだから自信持って。あの番組、普通は一生出られない番組だよ。なのにすごいよ。ご両親や友達とか、みんなに連絡して見てもらったらいいよ。ほんと、最高の親孝行ができたね」
その言葉と同時に、一弥先輩は私の頭を優しい笑顔で撫でてくれた。
思わずキュンとなる。
「親孝行……ですか……」
「そうだよ、恭香。おじさんもおばさんも、きっと喜んでくれる。びっくりするだろうなぁ」
不安は不安だし、嫌なものは嫌だけれど、確かに、親孝行と言われたら、ほんの少しだけ気持ちがラクになった。
「嘘みたい~。私が恭香先輩だったら絶対断ります。その見た目でよく受けましたね。普通、全力で断るでしょ? 周りにおだてられて調子に乗って。みんなもおかしいですよね、恭香先輩じゃなくて菜々子先輩ならわかりますけど。推す人、間違ってるんじゃないですか。会社のためを考えたら恭香先輩じゃないです」
梨花ちゃんは、みんながいなくなったタイミングで言った。
あまりにもデリカシーのない発言に、胸が苦しくなる。
会社のためを思うなら、確かに私ではない。
自分が1番分かっているのに……
「あら梨花ちゃん。そんなこと言っちゃダメでしょ。恭香ちゃんだって、自分がたいしたことないって分かってるから嫌がってるんだから。まあいいじゃない。テレビ、楽しみね。しっかり見させてもらうわ、笑顔のコピーライターさん」
菜々子先輩……?
どうしたんだろう。
優しいと思っていた先輩なのに……
今の言い方は、すごく意地悪でトゲがあった。
「撮影再開します!」
ダメだ、つまらないことをウジウジ考えている暇はない。今は仕事に集中しなければ。
「シンプル4のみなさん、入られまーす!」
「よろしくお願いします」
休憩が終わり、シンプル4のみんなが再び集まってきた。
彼らは人気者なのだから拘束時間は守らないといけない。
シンプル4の新曲はこのCMにピッタリの雰囲気で、軽快な明るい曲が流れる中、彼らはリズムを刻んで踊った。
もちろん商品のお菓子を持って。
ダンスするメンバーはキラキラしていて、アイドルとしての魅力が最大限に感じられた。
グミを何度も食べるパターンの撮影は、きっと大変だろう。
それでも笑顔いっぱいの4人。
彼らが持っているだけで、グミも美味しそうに見えるから不思議だ。
シンプル4とみんなで作り上げたCMは、必ず成功すると確信が持てた。
みんながこんなに頑張っているのだから、私もいろいろ考えて落ち込むのはやめよう。
笑顔、笑顔。
頑張っていれば絶対に良いことあるから……
そう自分に言い聞かせた。
次は、亮君が一人でアップのシーンの撮影。
梨花ちゃんが考えたコピーを、亮君がとってもカッコ良く言う。
「一緒に食べない? 君と僕をつなぐ、ちっちゃなハート」
ハート型の可愛いグミを亮君が手でつまんで、グミに優しくキスをする。
その仕草に、テレビ画面の向こうで、若い女の子達はきっと胸キュンするだろう。
「キャー」と叫ぶ声が今にも聞こえてきそうだ。
亮君は、可愛い系の男の子だけれど、このセリフを言う時は少しセクシーさが加わっている。
なので、大人の女性にも興味を持ってもらえそうだ。
全て上手く進んで撮影も無事に終了し、密着カメラも一旦止まった。