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「森咲さん。今日は本当にありがとうございました。お疲れ様でした」
わざわざ亮君が来てくれ、丁寧な挨拶をしてくれた。
若いけれど、とても礼儀正しい。
「あっ、いえ。こちらこそ本当にありがとうございました。シンプル4の皆さんのおかげで素敵なCMができました。スケジュール通りに終われて良かったです」
「皆さんの手際の良さには感心しました。リーダーの本宮さんを中心に、チームの団結力を感じました。それと、今日は……あなたの笑顔にずっと癒されてました」
「えっ!! い、いえ、そんなそんな。そんなことないです」
何だか今、ものすごく照れてしまっている。
仕方がない、目の前にいるのはシンプル4の亮君なんだから。
「ほんとですよ。ほんとに……癒されました。最近、疲れ気味だったんで……。あなたが持ってる最高の魅力が『笑顔』なんですよね。周りを幸せにする『笑顔』の恭香さん。ずっと……そのままでいてくださいね。また一緒にお仕事ができるのを楽しみにしています」
このセリフはさすがにダメだ。
顔から火が出そうになる。
体が熱くてたまらない。
「……あ、あ、ありがとうございます。そ、そんな風に言ってもらえて恐縮です。私もまた一緒にお仕事がしたいです」
言葉も体もガチガチだ。
あまりに過大評価され、この空気感がいたたまれない。
「そんなに固くならないでください。僕は本当の気持ちを言っただけですから。まあ、とにかく無事に終われてホッとしました。他のメンバーも喜んでました。本当に感謝です。ありがとうございます」
こちらこそ、亮君の素敵な笑顔にみんなが癒されて頑張れた。
私ではなく、シンプル4のみんなの「笑顔」こそが、誰をも「幸せ」にできる。
「毎日過酷だと思いますけど、体に気をつけて頑張って下さいね。うちのスタッフみんな、シンプル4を全力で応援してますから」
きっと、毎日、恐ろしいくらいハードなスケジュールなんだろう。
ちゃんと眠れているのかな?
ちゃんとご飯を食べているのかな?
どうか、本当に元気に頑張ってもらいたい。
この気持ちは、家族に対する心配に近い。私にも19歳の弟がいるから。
弟は、学校の先生になりたいらしく、大学で毎日頑張っている。
私よりもずっとしっかりしていて、両親も弟には期待しているみたいだ。
たまにメールが来るけれど、なかなか会えない現状を寂しく思っている。
そんな弟と、同世代のシンプル4のみんなが重なって、心から応援したいと思った。
「ありがとうございました!」
シンプル4のみんながスタジオを出ていく間、私達は頭を下げ、笑顔で手を振って見送った。
今日1日一緒に仕事を頑張った仲間として、心からお疲れ様と言いたい。
「また仕事呼んで下さい!」
亮君が手を振りながら叫んだ。
他のメンバーも手を振ってくれていた。
言葉だけじゃなくて、本当に、また一緒に仕事ができたら嬉しい。彼らの仕事ぶりを見て、きっとチームのみんながそう思っただろう。
「ちょっとちょっと。今の、まさか自分に言われたと思ってません? あれ、恭香先輩に言ったんじゃないと思いますよ~。ちょっとテレビに推薦されたからって、自意識過剰にならないでくださいね」
梨花ちゃんがイヤミたっぷりに言って、ぷいっと立ち去った。
当然、私に言ってくれたとは思っていない。
誤解するにもほどがある。
毎回毎回どうして私に冷たい言葉を投げかけるのだろう。そんなに私のことが嫌いなのだろうか?
何だか胃が痛くなってきた。
これはストレス……?
大丈夫、大丈夫。
あんまり気にしない、笑顔笑顔。
頑張っていたら、絶対いいことあるから。
私は、胃の痛みを堪え、もう一度、自分に言い聞かせた。
今日はシンプル4に会えて、撮影も大成功で、良いこともあった。
だから元気を出さなければ。
「うん……。今日はとっても良い日だった。早く帰ってお風呂に入ろ。あったまってゆっくり眠りたい」
私は、ひとり、小さくつぶやいた。