注意書き
・ゆうむい
・無一郎記憶なし
・有一郎隠
僕は霞柱、時透無一郎。
僕には、何もかも記憶が無い。
家族のこと、今までの思い出、
昨日の出来事。何もかも忘れている。
そんな僕でも、たった一つ忘れない
ことがあった。
怒りだ。鬼に対して、どうしようもない怒りだけが僕の心を照らしている。
何故だかは分からない…けど、
鬼を滅ばさなきゃ行けない。
そんな気がする。
僕は大きな屋敷に住んでいて、
いつも隠という人に僕のお世話を
してもらっている。が、
ある日僕がいつものように任務から帰り
屋敷に戻ると、いつも僕の事をお世話
している隠の人ではない他の 隠の人が
僕の屋敷に居た。
その隠は、僕と同じ目の色をしており、
僕と同じ長い髪の毛で、毛先まで同じ
色だった。ふと腕を見ると、
その隠には片腕がなかった。なんでこの人は隠なんか やってるんだろう。
「……君、誰?」
「申し遅れました。今日から新しく
無一郎の…ではなく、霞柱様のお世話を
する、新しい隠で ございます」
「…前の隠はどこ行ったの」
「色々と事情があり、霞柱のお世話を
俺がする事になったのです。」
「…ふーん、まぁどうでもいいけど。
君が僕の世話をしてくれるんでしょ?
僕お腹すいたからなんか作って」
「そう言うと思いまして、もう準備して
おります。」
随分と仕事が早いな、と思った僕は
隠に着いてきてくださいと言われたため、
僕は言う通りに隠に着いて行った。
「ここで霞柱様にはお食事して頂きます。
今日のメニューはふろふき大根ですよ」
隠はそう言って少し微笑んだ。
…ふろふき大根は僕の好きな食べ物
だった。なんで知ってるのか
気になったけど、めんどくさいから
その疑問には目を閉じた。
「…美味しい」
僕が一口食べてそう呟くと、隠は
安心した顔で微笑んでいた。
このふろふき大根は、何処か懐かしい味が
するのは何故だろう。
「…ご馳走様。いきなりで悪いんだけど、
お風呂入りたい。」
「承知致しました。しばしお待ちを。」
僕がお願いを言うと隠はすぐさまお風呂を
沸かしてくれた。この隠は随分と
僕の事をよくわかってる気がする。
「お待たせ致しました。お風呂の準備が
整いましたよ」
「…ありがとう」
僕は服を脱いでお風呂に入ろうとした時、
隠は慌てて僕に一言伝えた。
「お待ちください霞柱様! 髪をお団子に
しないと髪が 濡れてしまいます」
「…髪なんか別にどうでもいいでしょ。」
「いけません。俺が結んであげるので、
少しこちらへ来てください。」
僕はめんどくさいなぁと思いながら渋々
髪をお団子に結んでもらった。
「…出来上がりましたよ。さぁ、風呂に
行ってらっしゃいませ」
「…うん」
僕はやっと隊服を脱いでお風呂に
ぽちゃんと入り、ため息を着いた。
しばらくしてお風呂から上がり、
結んでもらった髪をほどきタオルで
髪をささっと拭いた。
そのまま寝室へ行き僕は眠りについた。
こんな生活を毎日続けていると、
僕はある任務の日、珍しく大怪我をした。
渋々屋敷に帰ると、隠が慌てて僕に
駆け寄ってきた。
「お帰りなさいませ…って、霞柱様!?
そのお怪我は…!?」
急に隠が大声を出すので、僕は少し
体をびくっと震わせたが、すぐに冷静に
対応した。
「うるさい…。ただいつもより
怪我した だけ」
「…ダメです、手当しなければ。こちらに
来てください!」
僕は隠に無理やり連れて行かれ、
手当をされた。
片腕しかないのに、隠は器用に僕の
手当をした。
「…別にいいのに」
「よくありません。俺は霞柱様が
心配なのです」
「なんで? 君はただ僕の世話をする隠
で、それ以外は何も無いでしょ」
「……俺は霞柱様を大事に想っています。
ほっとくなんて出来ません。」
「……」
僕は不思議に思った。なんでこの隠は
前の隠より僕のことをわかっているのだろう。
1ヶ月しか出会ってないのに。
「さ、終わりましたよ。他に何か
手伝えることはありますでしょうか。
俺に出来るものならなんでも
さしてあげましょう。」
「…あのさ。ずっと思ってたけど、
なんで僕の 好きな 物とかが分かるの?
ふろふき大根とかさ。
僕のしたいことだってお見通しだし、
外見も似ているし…
僕達は前どこかで会ってるの?」
僕はそう質問すると、隠は凄く動揺
していた。なんだか凄く辛い気持ちを
隠しているような感じがして、僕は
尚更訳が分からなかった。
「…そう、ですね…なんででしょうね。
きっとこれも運命の出会いなのでしょう。」
隠はそう言って微笑んだ。
「別にどうでもいいよ。
運命の出会いとか。僕はただ鬼を倒すだけだし」
僕は思った事を伝えると、隠は悲しそうな
顔をしてそうですか、とだけ答えた。
僕は正直に答えただけだ。
この隠がどんな想いをしてしてようが
僕には関係ない。
ある日、僕は刀鍛冶の任務に行くことになった。
「ねぇ隠。僕明日、刀鍛冶に行くことに
なったから帰るの遅くなると思う。」
隠にそう伝えると少し悲しそうな顔を
していた。
「…分かりました。無事に帰ることを
祈っております」
…やっと思い出した。
家族や僕のこと。…兄さんのこと。
僕は全て炭治郎のおかげで
記憶が戻った。
…嗚呼、早くこの戦いを終わらせて
あの屋敷に帰りたい。
あの屋敷に帰って、謝りたい。
今まで兄さんのこと忘れててごめんなさい。
冷たく当たってしまってごめんなさい。
鬼殺隊に入ってごめんなさい。
兄さんはこんな僕を
頑張って 守ってくれていたんだ。
なぜ僕はこんなに大切なことを
忘れていたんだろう。
本当にごめんなさい。
許させるのであれば、もう一度兄さんと
あの頃に戻りたい。また、あの時みたいに
笑い合いたい。
刀鍛冶の任務が全て終わった後、僕は
蝶屋敷にも行かず、すぐさま
屋敷に向かって走った。
早く兄さんに会いたい。それだけだった。
屋敷に向かって走っている時、
涙が溢れ出した。もう感情が分からない。
謝りたい気持ちもあるし、嬉しい気持ちも
あった。
屋敷に着いた僕は勢いよくドアを開けた。
「霞柱様…!?やっと帰ってきたと思えば…
どうされたのですか!?怪我が痛くて
泣いているのですか?大丈夫です。
今すぐ手当を─────────」
僕は兄さんの話を遮って兄さんの手首を
掴んだ。
「…霞柱様?」
「…ごめんなさい、」
「…何も謝ることはありませんよ?」
「ちがっ…ごめんなさ…”兄さん”…」
兄さんは僕の記憶が戻ったと知った瞬間、
目をありえないほど大きく開いていた。
「ごめんなさい、
あの時兄さんが庇ってくれたのに、
記憶を無くしちゃってごめんなさい。
兄さんのこと忘れちゃってごめんなさい、
鬼殺隊にも入っちゃってごめんなさい、
僕最低だよね。助けてくれたにも関わらず
兄さんのこと忘れて冷たく接しちゃって」
「…霞柱様、もうおやめ下さい 」
兄さんは段々と涙目になっていった。
「兄さんのことを傷つけたのは僕なんだ。
もう僕は…。兄さんに助けられてばっかで。
兄さんの片腕が無くなったのも僕のせい。」
「…おやめ下さい。もう、いいんです…。
俺はあの日、霞柱様が生き残ってくれた
だけで十分です。しかも、こうして今、
霞柱様の記憶がお戻りになられた。
それだけで俺はもう、いいんです。」
「…というか兄さん。もう敬語やめてよ」
「…いけません。俺は隠。貴方は柱。
もう次元が違うんです。敬語は外せません」
「…嫌だ!!僕は敬語の使わない
兄さんがいいの。後、頭のこれも外してよ。
兄さんの顔がよく見えない。 」
「…そう言われましても」
「ねぇお願い、2人きりの時だけでいいから
敬語やめてよ。こんな生意気な弟に
兄さんだって敬語 使いたくないでしょ?」
「…分かったよ。確かにそれもそうだし」
「…本当!?」
「…でも、2人きりの時 だけだからな。」
「うん…うん…!!」
僕がそう答えると兄さんは久しぶりに
微笑んだ。すると頭に付けているものも
外して、僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
「…兄さん?」
「…戻ってくれてありがとう。」
「…礼を言われるのは炭治郎に言ってよ
僕は炭治郎のおかげで記憶が戻ったんだ。」
「…今度会った時礼を言っとく。」
「それがいいよ。」
「…というか、玄関に立ちっぱなしじゃ
ダメだろ。手当してやるからこっち来い。」
「…うん!」
やっと叶った。兄さんと楽しく過ごすこと。
たとえこの時間がすぐ去ってしまうとしても。
僕はこの楽しいひと時を噛み締めよう。