コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それから数日は普段の仕事が忙しくて、プロジェクトの相談も彼女と出来るどころか、もちろん修さんの店にもついででも顔を出せない状況。
まだプロジェクトは本格的に始まっていないだけに、そんなにしょっちゅう会議があるワケでもなく、それぞれが資料集めやアイデアや企画を準備しているような感じだから、彼女にも会える機会もなく。
フロアも違うし、なかなか一緒になる機会も少ないからすれ違うことも、食堂にも行けてなくて、また前みたいに彼女に会えない日々が続く。
まずいな・・。
彼女にアプローチそれなりに定期的にしておかないと、元々乗り気じゃない彼女の気持ちは多分どんどん冷めていく。
だけど、まだ彼女の連絡先も知らず、距離も少しずつ近づけていってるオレの立場としては、どうにもならなくて。
もどかしい気持ちを日々感じながら、明日は土曜日で仕事も休みだし、遅くまで残業していた帰りに酒が飲みたくなって修さんの店へ久しぶりに寄った。
「おっ、樹。いいとこ来た」
「えっ?」
店に入った早々、修さんがオレに気付いて声をかけてくる。
「久々に来たタイミングがこのタイミングなんて、やっぱお前らなんか繋がってんだね~」
「へっ?何がですか?」
「あれ。見てみ」
するとカウンターに徐々に近づいていくと目に入る人物。
カウンターの隅で酔いつぶれて気持ち良さそうに眠っている彼女の姿が見えた。
「今日来てたんスね。てか、寝てる・・?」
「あぁ、さっきまでいろいろ愚痴ってたんだけどね。そこそこ気持ち吐き出せたらスッキリして眠っちゃったみたい」
「何かあったんスか?」
優しく彼女を見守りながら報告してくれる美咲さんに尋ねる。
「樹、いつものでいいか?」
「あっ、お願いします」
彼女の隣に座って、様子をうかがってみると、まったくオレに気付かず静かに眠っている。
そしてそんなオレを見て修さんも自らオーダーを入れてくれる。
ここまで酔いつぶれてるなんて正直気になる。
「この子、さっきここで前の彼氏に再会しちゃって」
美咲さんが、ずっと彼女を気にしてたオレに気付いて、酔いつぶれた理由を説明してくれる。
「・・え? あの、前にここに一緒に来てた人ですか?」
「そうそう」
オレがまだ彼女を好きになる前。
オレはこの店で彼女とその男を見ている。
まだオレも学生でフラフラと不特定多数の異性と遊んでた頃。
その時はまだ本当の恋愛なんて、本気で誰かを好きになることがどういうモノかわからなかった。
というか、適当に遊んで適当に楽しめればそれで良かった。
結局決められた人生を歩むことがわかっていたオレは、半ば人生も投げやりで。
そんな時、この店でたまに見かけるカップルがいた。
常に幸せそうな雰囲気を漂わせていたそのカップルは、常連らしく何度か一緒になることがあった。
男性の方はいつでも余裕で大人で、常にその相手を守ってるような雰囲気で。
そしてその女性もそんな相手の男性といる時は常に笑顔で楽しそうで。
きっと結婚も近いのだろうと、その女性の親友である美咲さんから何気ない会話の時に聞いた。
その時、ここに同じように数人の女性を連れて来てたオレは、誰一人その二人のような雰囲気になれていないことに気が付いた。
そして本当の恋愛ってあーいう感じなのかなって若いながらわからないままも、なんとなくその二人を見て思った。
別にそれを見て羨ましくも憧れたりもしなかったし、特にそのカップルをそれから気に留めることもなかった。
なんとなくオレには縁のない世界のことのように感じて、少しその時一瞬思っただけ。
だけど、しばらくして、そのカップルを見なくなった。
それと同時に女性の方だけが一人で来るようになった。
それからは、ずっと一人。
なぜかたまに見かけるその女性は、そこからなんとなく雰囲気が変わった気がして。
急に誰も寄せつけないような一人の世界を纏うような、急にそんな一人強がって生きているようなそんな雰囲気に変わった。
だけど気心許してる美咲さんや修さんには時折自然な笑顔を見せて砕けた姿を見せていたり。
そして、ある時をきっかけにオレはその女性が少しずつ気になるようになっていった。
それがこの目の前で酔い潰れている彼女。
自分の気持ちを認めた時からは、もう彼女にハマっていくのが早くて。
そこからオレは彼女しか目に入らなくなった。
あの当時は何気なく見ていただけだったけど、今思えばあんな風に幸せそうにしていた彼女の姿もきっとオレの中で無意識でも何か感じていたのかもしれない。
あんなに幸せそうにしていた彼女が、いつからか恋に破れて一人強く生きていく女性になった。
そんな彼女がオレには魅力的でもあり、変えてあげたい・なんとかしたいと思うようにもなって。
オレなら彼女を幸せにしてあげるのにって、誰一人本気にならなかったオレが思うなんて、ホントどうかと思うけど。
だけどある時オレは彼女に救われて。
オレにはこの人が必要なんだと感じた。
だから、この先の彼女の人生はオレが幸せにしたい。
きっとその時の恋愛が今のような頑なな心閉ざした彼女に変えてしまったんだと思うから。
その原因を作ったその相手の男が現れたから、今彼女はここまで荒れているんだろうな。
なんかそれがすごく悔しくて。
何年か経っているのに、結局別れてからも彼女をここまでさせる相手が少し憎くて。
だけどオレは彼女になんの影響力も与えられてないのに、この相手はいとも簡単にここまで彼女の頭をいっぱいにさせることが出来ていて。
それが何より今は一番悔しかった。