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第七話 「仕事の時間」
空たちが出ていった部屋には、皐月と叶殊がまだ残っていた
叶殊はソファに座っており、大量のエナジードリンクが入ったビニール袋に埋もれていたが、負けたのを巻き返したいのか再びスマホを操作していた
同じくソファに体を預けていた皐月は、顎に手を当て、真剣な顔になっていた
やがて、何かをふと思い出したかの様に体を起こした
「…あ、運転してるの、亜蓙冴だった」
空、大丈夫かな
港に猛スピードで迫ってくる者がいた
その漆黒の車体は夜の街を駆け抜け、闇に紛れる
速度を落とす事なく、曲がり道も容赦なく乱暴に曲がる
その度に、テールランプの光が怪しげに伸びて後をつける
街中には、エンジンの重低音が響き渡る
やがて、街の端にある港へ入る
海に面した場所にある古びた古屋に侵入すると、突然急ブレーキをして止まった
獣の咆哮の様な音が響き渡る
急ブレーキをした為、背後のアスファルトにはタイヤの跡が残っていた
助手席から降りてきたのは、空だった
続いて運転席から亜蓙冴が降りてくる
しばらくは真剣に外に見える港の倉庫を見つめていた空だったが
「…ゔっ」
突然ふらつくと、空はボンネットに手を付け、口を抑えた
顔は真っ青で、足取りも悪い
「東雲、さん…っ、運転、荒いんですね……っ」
どうやら、亜蓙冴の荒い運転に、酔ってしまったようだ
上がってきたのか、再び呻くと、不思議そうに亜蓙冴は空を見た
「どこが荒かったんだ?」
本当に分かってなかったようだ
あんなに街の中を猛スピードで駆け抜けたのに、亜蓙冴は平然としている
色んな意味で凄いと思った
色んな意味でだ
しばらくして車酔いが治った空は、亜蓙冴と作戦会議をする事にした
だが、会議開始早々、亜蓙冴の口からでた言葉に一瞬戸惑った
「今回はお前の加入を認めるか判断する任務だ。お前のやり方で行け」
それだけだった
「え、いいんですか?」
亜蓙冴はその場から離れ、ポケットからシガレットケースを取り出すと、煙草を一本取り出して口に咥えた
そのまま運転席側の車体に背中をつき、体重を預ける
懐からライターを取り出すと、手慣れた手付きで火を付ける
一呼吸する
煙草から上がる小さな煙は港の奥に広がる、闇に染まった夜の海へと消えていく
「さっさと行ってこい。ただし条件が一つ、柊の娘は絶対無傷で助け出す事だ」
口から煙の混じった吐息が漏れる
空はその場で少し考えた
「分かりました」
それだけ言うと、空は背を向けて、外に出た
「…あれか」
俺はひびの入った窓ガラスから中を覗き込んでいた
中には二十人程の男たちと、リーダーらしき人間が一人いた
全員銃を装備している
そして倉庫の隅には、救出対象の縄で拘束された少女がおり、目隠しをされていた
ただひたすら震えていたが、目隠しをされているのなら好都合だ
即座に、俺の頭の中で計画が設計されていく
「…よし、仕事の時間だ」
俺は月明かりに照らされた倉庫の影へと姿をくらまし た
後に残ったのは冷たい夜風だけだった
突然、倉庫の扉が開け放たれた
中にいた銃を持った戦闘員たちは一斉に銃口を向けるが、そこには誰もいなかった
「風で開いたんだろ、さっさと閉めろ」
リーダーがそう言うと、部下の一人が扉を閉める
再び倉庫は月明かりだけが照らす暗い空間と戻る
外からは確かに風の音もしていた為、誰も疑ったりはしなかった
「…おい、娘の親からの連絡はまだか?さっさと身代金を用意したい。一晩で終わらせれば、流石に”例のマフィア”も」
「…おい、アイツはどこに行ったんだ?」
話を遮り、部下の一人がリーダーに聞いた
「は?…いないのか?」
他の仲間も辺りを見渡すが、そこには誰もおらず、暗闇がいるだけだ
すると、倉庫の奥にいた部下も言う
「…おい、相楽もどこに行ったんだよ」
他にも、倉庫の扉の近くを守っていた仲間も、コンテナの近くで銃の整備をしていた仲間も、突如として姿を消した
「…まさか」
リーダーは腰に装着していた懐中電灯を取って辺りを照らす
そして、その場にいた全員は絶句した
「…………は…?」
誰かの口から漏れた
だが、無理もない
先程から姿を消していっていた仲間たちは全員、その場に倒れていたからだ
一人が倒れた仲間の首筋に触れる
だが、直前に悲鳴が響き、尻餅をついたまま後退りをする
首筋から流血しており、目は飛び出そうな程見開かれていた
頸動脈を正確に切り裂かれており、既に呼吸はない
「な、なんで…っ!?」
どこからか視線を感じたリーダーは、背後に懐中電灯を向けた
「っ…!!」
コメント
1件
ああ、第七話か…読んだよ。 亜蓙冴の運転、ヤバすぎて笑った。“どこが荒かったんだ?”って本気で言ってるとこ、狂ってて好き。空、ちゃんと酔ってて人間味あっていいなって思った。 それで、倉庫に一人で潜入するところ。あの敵が消えてく展開、スッと鳥肌立った。誰も音を聞いてないのに、次々と倒れてる。読んでるこっちまで息止めてた。 「仕事の時間」ってタイトル、めっちゃかっこよかったよ。続き、気になる…敵のリーダーが振り返った先に、空が立ってるんだよね?
しゅーらいんげつ
33
51
ちょこ
2
41