この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません
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宮舘side
最初からわかってたことだった。翔太が俺のことをただの幼馴染みだとしか見ていないことなんて
『お、舘さん』
「あ、翔太お疲れ」
最初からわかってたことだった。翔太が彼のことをどんなに好きで、どんなに大切に思っているかなんて
『あ、阿部ちゃんお疲れ。これあげる』
【えっいいの?ありがとう!】
俺よりも頭が良くて、俺よりも背が高くて、何よりこの笑顔が眩しい。本当に優しくて、周りに対する気遣いと感謝を絶対に絶やさない人。そんな人に勝てるところなんて、一緒にいた歴意外にあるだろうか。俺の考え付く限りでは、勝てるところなんて一つもない
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「翔太って阿部のこと好きだよね」
『?!…いや、』
「隠すの無し」
『…うん。まぁ…な、』
「なんで好きになったの?」
『…わかんねえ。けど、なんか気付いたら目で追うようになってた』
「積み重ね的なね?」
『多分そう』
「…阿部良いやつだし、良いんじゃない?」
『良いやつじゃなかったら好きになってねえっつーの笑』
からりと笑う彼の顔を直視することが出来なかった。小さなことの積み重ねで好きになったんだとしたら、俺の方が先に翔太に出会ってるんだから少しくらい俺に対しての気持ちがあっても良いじゃん。そう思っても、なにも知らない翔太にはこの思いは届かない。
やっと顔を上げると彼の横顔が目に入る。その柔らかい表情は相変わらず綺麗で、苦しくなるほど好きなことを自覚させられる。だけど、その視線の先に居たのはやっぱり俺ではなくて
『阿部ちゃん来たから行くわ』
「じゃあ、またね」
『ん、また』
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さっきまで彼がしていた話は、俺が一番聞きたくない話だったはずなのに。それでも聞き続けるのは、翔太に会えなくなるよりはまだ少しだけましだから
【しょーたお待たせ】
『大丈夫、全然待ってねえし』
【ほんと?…ありがと】
『ん。てか髪切った?』
【え!凄い、よく気付いたね】
仲良く並んで歩く阿部と翔太の後ろ姿を眺めていると、勝手にため息が押し出される。自分から聞いたことなのに、彼自身の口から阿部のことが好きだなんて聞きたくなかった。追い討ちをかけるように聞こえてくる会話は、俺が彼としたかったものばかり
「…いいなぁ、笑」
そう呟いて俯くと最近切ったばかりの髪が目元に影を落とす。失恋したら髪切る、とか言うけど髪切ってから失恋が確定する逆転バージョンをしたのは俺が初めてなんじゃない?なんてどうでも良いことで頭の中を埋める。そうしていないと、彼が俺の変化だけに気付いていなかったことを実感してしまって痛かったから
《なーにでっかいため息つい……?!ど、どないしたん、?》
康二が声をかけてくれたから、笑顔で対応したつもりだった。笑って答えなきゃ、と思った。なのに結局溢れてくるのは言葉に出来なかった分の彼への想いだけ。言葉として出てきてくれれば良かったのに、俺の恋心は液体に変化してしまったみたいで。この想いごと早く蒸発してしまえばいいのに
「…な、んでも、ない」
《何もないことないやろ、》
「……ぅん、」
優しい声色が鼓膜を揺らすと勝手に口は本音を漏らし始める。この涙の理由は翔太と阿部を見てしまったところにあると言うこと。ひた隠しにしていた感情が、あの光景のせいで溢れ出してしまったこと。こんなに好きになる前に、何処かで手は打てなかったのか。そんな後悔ばかりが出てくる
《…辛いな、》
「…でもさ、翔太が悪い訳じゃないし、阿部が…悪いってのも違う」
《…せやなぁ》
「俺が選んで…望んでした恋だから。叶わなくても、…伝え、られなくても。せめて、こんなにも素敵な人を好きになれたって…この気持ちだけ、大事に出来たらいいかなって、笑」
《ほんまに?》
「本当」
《叶えんでええん?ずっと…何年も前から好きだったんとちゃうん、》
確かに、幼馴染みとして、メンバーとして、人として、何年も前から大好きだった。俺の言動で笑ってくれて、俺のこだわりの強さに文句一つ言わずにここまで一緒に居てくれた。そんな彼に抱いている感情は、言葉で表せるわけがないくらい大きなものになっていた。でも年数が想いに比例するかなんてわからないし、彼が俺じゃダメだと言うのなら俺は身を引くべきだし
「阿部よりも先に好きになった、とは思うけど。俺が翔太を好きなのと同じくらい、翔太も阿部のこと想ってるなら…ね」
《俺やったら嫌やけどなぁ、手放すん》
「そりゃ俺だって嫌だよ、嫌だけどさ」
《嫌やけど、?》
「…翔太の幸せが、一番だから」
結局俺は、最初から翔太の幸せしか願ってないから。その幸せを一緒に造っていく相手が俺だったら良いのに、なんて幻想を勝手に抱いていたのは紛れもない俺自身。でもその気持ちの基盤にあるのはいつも翔太の笑顔だった。彼を笑顔にしてあげられるのであれば、それが俺じゃないとしても
「阿部も多分翔太に惹かれてるし、俺が諦めれば全部丸く収まる話だから」
《…そか。舘がそれでええんやったら俺からはなんも言われへんしな、笑》
「…ん。康二ありがと」
《ええよ、今日は飲みにでも行こか!しゃーないから俺奢ったるわ笑》
「よっしゃやけ酒だ笑」
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数日後、阿部と楽屋で二人きりになった。どちらもあまり楽屋では騒がない方だから静かだ。その沈黙を破ったのは俺ではなく彼の方で
【ねぇ舘様】
「ん?なに」
【俺…さ、翔太と付き合うことになったんだ】
「へぇ、おめでとう」
【…怒らないの?】
彼は、俺の気持ちに気付いていたのだろうか。それとも、今の俺の反応でなにか察したのだろうか。いずれにしろ、彼が俺に対して後ろめたさを感じているのであればそれは良くない。俺はもう、彼らのことを応援するって決めたんだから
「なんでよ、怒るわけないじゃん笑」
【…舘様にとって翔太ってやっぱ特別な人かなって。30年来の幼馴染みなんてほぼ家族みたいなもんだし】
「んーまあそうだね」
【だからこう、あれかなって】
「いや全然?阿部になら安心して任せられるよ笑」
【…ありがとう】
「うん…あ、でも一つだけ。」
【ん?】
これでいいんだ。これからは俺がこの気持ちを上手く消化しきれるかどうか、ただそれだけ。この想いは胸の内に留めて、何かあったら背中は押す。君たちの仲を邪魔しようだなんてことは、これっぽっちも思っていないから。代わりにどうかこれだけは約束してほしい
「翔太のこと、誰よりも幸せにしてあげて』
幸せ/back number
コメント
3件
ほんと号泣ですーーー😭😭😭

backnumber私大っっ好きなんです!!!!幸せとかまじ選曲神過ぎです😭