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駅から何の変哲もないところに歩いてきたな、とは思ったが、何やら忌々しい文字が。
「いやいやいやいや、絶対いや、ほんとにいや」
「でも、ここまで来たし」
「行き先伝えられてたら行かなかったわよ。今からでもやめようよねえまふゆ〜」
今現在、まふゆに腕を引っ張られて、お化け屋敷に入れられようとしている。
遊びに行かないかと誘われて、二つ返事で了承してしまった。まふゆからの誘い、ちょっと嬉しくなったから。どうせ本屋とか文房具屋とか、勉強関連のお店に連れられると思っていた。けど、電車賃持ってこいと言われちょっと舞い上がり、一応歩きやすい靴で、と言われ気を遣われていると思ったら……。
「絵名煩い」
「な、ななななっなんでここに連れてきたのよ、他にいいところたくさんあったでしょ!?」
「絵名が前、おばけの動画怖がってたから。どうなるかなって」
「そんなの考えたらわかるでしょ! こうなるのよ、こうなるの! 考えなくたってもわかるでしょ!」
「はいはい。行くよ絵名。入場料は三百円だから」
「三百円って、チーズケーキ買えるじゃないコンビニのチーズケーキ、もうやめようよ。コンビニでも普通に美味しいチーズケーキ食べられるし!」
「嫌なら出すけど」
「そこが嫌じゃなくて、入るのが嫌なの!」
まふゆは私の手を引っ張って、ずかずかと建物の中に入っていく。そして心の準備もする間もなく受け付けへ。
簡易的な作りになっており、恐らく個人営業。相場は分からないが、他に人もいないし、近所のお化け屋敷で検索して見つかったところに適当に来た、という感じだろう。
「大人二人です」
「ひぃ〜……」
私のびびりっぷりに、受け付けを担当していた六十半ばくらいのおじいさんがつい口を挟んだ。
「そんな怖くないよ。怖がることないって、安心しなよ」
「そうなんですか……」
「なんか、入る前は怖がる子多いけどね。終わってみると怖くないっぽくて、笑顔で帰る子多いから」
と、豪快に笑う。精神的には少し安心だが、自ら進んでお化け屋敷に来る人間なんて笑顔で帰るに決まってる。行き先を伝えられていない人がどんな反応をしていたか、問い正したくなる。
「じゃあ、いってらっしゃい」
まふゆは私の手首を掴み、私に有無を言わせず歩き出した。
***
垂れ布の先は、真っ暗で、心做しか肌寒いものとなっていた。けど多分これは心理的問題。
「もう無理だって……」
「……」
私はまふゆの腕をしっかりと掴んでおく。細い廊下が続いており、壁には所々赤い手形や、血飛沫が描かれている。そんな中をゆっくりと歩いていく。
「ほんっと無理、無理……」
「手、繋いでおこっか」
「何でもいいから、私から離れないでよ……!」
まふゆの顔を伺うが、意外と苦い顔をしていた。まさか、自分から誘っておいてお化け屋敷が怖い、なんてことはないだろう。というか信じたい、頼れなくなる。
「暗いね……」
「暗い、そりゃあ……暗いの嫌なの?」
「少し夢を思い出して。怖いわけではないけど、嫌」
「そっか……」
お化け屋敷が怖いわけではないなら、それでいい。流石に今はまふゆに気遣ってる余裕がない。私は今、この空間に手一杯だ。
「っきゃあ!」
「……」
突然空気が発射され、音とともに私の心臓に負荷を与える。雰囲気が嫌なのに、びっくり要素もあるなんて。
「こういうのやめてほしい。雰囲気で勝負してほしい」
「よくあるよね」
そう言ってまふゆはもう進もうとする。私も仕方なく足を動かす。
歩いていくと見えたのは逆さに吊るされた人形達。マネキンが何体も吊るされており、隙間を嫌でも通らないと前に進めない。
「悪趣味……」
「そんなものだよ」
「ねえ、絶対離れないでよね。絶対離れないでよね!」
「わかったから。ほら行くよ」
「まふゆぅ……」
私はまふゆに体をしっかりと密着させて、足を踏み出した。
***
「はい」
まふゆがお茶の入ったペットボトルを差し出した。私はそれを受け取る。どうせならアイスティーとかレモンティーとか、甘い飲み物が飲みたかったが、文句は言ってられない。
お化け屋敷からは無事出れた。今は近くの公園のベンチに座って、気を落ち着かせている。
「あの受付の人、申し訳無さそうな顔してたね」
「見てないわよそんなの……」
「泣くとは思わなかった、ごめん」
「別に……」
私は貰ったペットボトルの蓋を開け、お茶を飲む。
「まふゆ、今日泊まっていかない?」
「無理だと思うけど」
「……絶対今日寝れないんだけど」
「セカイには行けるから、セカイで会おう」
「うん……」
目を閉じると、お化け屋敷の光景が広がってしまう。何だかんだ怖かったのは、和室の雰囲気のある部屋の小さい女の子。やけにリアルで、どの部屋にある置き物や色んなものを差し置いて断トツに怖かった。
「なんか、色々あったけど……。一番怖かったのは最後の女の子かな。何もしないのが不気味だし、小さい子をあんなところに置いとくなんて……。あれってもしかして人形?」
「何それ」
「はぁ……いたじゃない。見てないの?」
「見逃してるのかな」
あんなに堂々といたのに、見逃す、なんてことあるのか。もしかしてまふゆの悪ふざけ。そんな冗談今はやめてほしいが。
「えっとほら、最後の方にいたじゃん。鏡の前で立ってた」
「そんな人いたっけ?」
「とぼけなくていいから……」
どこにそうやって人をからかう精神があるのか。私はこんなにも怖がっているのに。まふゆ嫌いだ。
「……ねえ、絵名」
「何よ」
「本当に、その人……わからないんだけど」
「…………え?」
じゃあ私が見たのって、もしかして本物の──。
「まふゆ、今日絶対セカイに来てね」
「分かった」
「絶対絶対、絶対だからね」
「うん」
どうしよう。鳥肌が止まらない。