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二人で旅に出て半年が経った。
その間訓練をし、魔獣を相手にし、様々な遺跡を探索し、古い文献を読み、未解明の暗号解きに挑戦したりしたのだが……。
「成果なしか」
人魚以来伝説の真実に辿り着けない。
「ま、簡単に真実に出会えちゃったら苦労はないよね」
「そうなんだよなあ」
と言いながらジュースを口に入れる。果実から取れたジュースで、甘い飲み物だ。
宿に飛竜レイドを預け現在フードショップにて軽く間食中。おやつの時間である。
「でもまっ、イアがどんな人なのかは分かったけど」
と言いながらケーキをつついていたフォークの先をこちらに向ける。イチゴが突き刺さっているフォークだ。食ってやろうか。
「真面目だけど、どっかおバカさん」
真面目とおバカって共生すんのかな。
「ついでに言うと私を襲えるチャンスがあったのにそうしない人」
「襲ったらオレの人生終わるだろ」
「自分じゃなくて私の事を考えてくれているくせに」
「ぬ」
そりゃまあ……考えるだろう。男に襲われて喜ぶ女の子なんて――少しはいるかもだがリルラは違う。
「リルラの事もある程度は分かったよ」
「ほぅ」
「おどける事が多いけど、ロマンチスト。
だから“これは嘘だった”って分かるとがっかりする。
星を眺める時はうっとりする。神秘が大好き。
ぬいぐるみよりも生きた小動物が好き。
ファッションは機能性よりもデザイン重視」
後はそうだな。
「自分を分析されると凄く照れる」
今みたいにケーキを食べるのも忘れて太ももの間に手を入れる。でちょっとだけ頬が赤くなるのだ。
「私ってそんなに分かりやすいかな」
「表情に出るんだよ、リルラは」
その素直さがとても可愛い。リルラは美人さんだけど凛々しいと言うより楚々とした女性だ。
「イアは体に出るよね」
「体?」
「うん。話している時、体の動作が一緒についてくるんだよ」
え? マジで? 全然自覚ないんだけど。
「表現が豊かなのは見てて面白い」
「面白い……」
「そう言う人って、好きだな」
「す――」
「あ、人としてって意味ね。恋には簡単に落ちてあげないんだから」
……ほぅ。
「オレもリルラ好きだよ。これは恋に近いかもしんない」
「へ」
「冗談だけど」
「……からかってくる人は嫌いです」
お、横を向いてしまった。けれどこれは拗ねているだけだ。ほんとに可愛い人だ。
と、ここで店員さんが追加注文したアイスを持ってきてくれた。オレは礼を言い、小さなスプーンでそいつをすくって一口インさせて――吐き出した。
驚くリルラ。
オレは店員の腕を掴み、もう一方の手で剣を抜く。
「どう言うつもりだ?」
店員――少女だ――の首に切っ先を向けて、オレ。状況を察したリルラは立ち上がり店員の正面に回る。
「オレを毒殺してあんたに得が?」
幸いアイスの味の異様さに気づけたから良かったものの呑み込んでいたらアウトだ。
周りにいる客も他の店員も動揺している。ただ一人、腕を掴んだ少女を除いて。
少女はゆっくりと、リルラを警戒しながらもオレへと黄系・檸檬色の目を向ける。ついで同じく黄系・蒲公英色の髪にかけてある帽子を取って、エプロンを取ると細い剣が現れた。
「得。復讐だよ。
ウェエイ!」
精霊が舞う。目や髪と同じ黄系・菜の花色の精霊が舞ったかと思うと少女の剣に溶け込んで、植物へと姿を変化させた。
「「!」」
花の霊剣を抜き放ち問答無用とばかりにそれを振るう少女。オレとリルラは店外へ。
「無茶すんなよな!」
ショップが壊された。正確に言うとショップを作っていた木々が成長し花を咲かせ、オレたちを襲ってきたのだ。
どよめく人々。逃げたり叫んだり呆然としたり。
「あなた、どこのどの人?」
「アリアンサ=魚衣。あんたたちが殺したロウラィの孫だよ」
「「!」」
孫。いるって言っていたな。
「私たちとロウラィが争った理由は知っている?」
「知っているよ。ずっと魔族を逃がしてしまったって話聞いていたからね。最期の日も『これから討ってくる』って言われたから」
「リルラにはなんの罪もないって理解しているか?」
「祖父さんの最期の日まではそう思っていたよ。けど!」
花の霊剣を地面に――木の板で舗装された歩道に突き立てる。すると木板が息を吹き返し緑豊かに花を咲かせた。アリアンサの振るう霊剣に合わせて蠢き、オレたちを襲う。
「祖父さんは帰ってこなかった!」
遠距離からは植物に任せ、アリアンサは霊剣の射程までオレたちとの距離を詰める。彼女が足を着くたびに花を咲かせる木板。
「植物たちに聞いたよ! あんたらに敗けて殺されたって!」
目が潤んでいる。潤んだ目でオレたちを見据え、霊剣でリルラに斬りかかり、オレへ植物で攻撃する。
「遺体の行き先も聞いた! 人魚を信じて海に向けて語らっていた祖父さんらしい! きっと人魚が最期だからって応えてくれたんだ!」
「オゥル!」
「キィ!」
精霊を剣に宿し霊剣へ。
「騎士たちには時間を貰った! 確かめようと思った! あんたたちと祖父さんどっちに正義があったんだって! 祖父さんは間違っていた! あんたたちが良い奴なのは分かったさ! けど! あんたたちは祖父さんを殺した事なにも後悔していない! その点は! 許せない!」
「オレたちが後悔するなんてロウラィに失礼だろうが!」
「勝者は敗者の命を背負って生きる! そこに勝敗の後悔なんてあってはいけないんだよ!」
それくらい騎士なら分かっているだろうに。
「あたしは騎士じゃない!」
……は?
「なかったんだ! 半年前までは!」
――つまり、ロウラィが敗れてから復讐の為に剣を取ったか。その割には剣の扱いに長けているような気がするが……成長が早い。
「師に教わった! 怖い人だけど頑張ったんだ!」
「お師匠さん、私たちに剣を振るえって言ったの?」
「言ったさ! 感情を剣に乗せろって! それは力になるって!」
「そりゃ――」
そうかもだが。しかし感情だけではダメだ。義務だけで振るうのもダメ。なにもかもを乗せて、自身の信念の為に振るうのだ。これを失くしては騎士ではない。野蛮な賊だ。
アリアンサに剣を教えた師ってのは騎士か? 賊か?
「魔族の力を見せてみろ!」
「見せたらなにさ!」
「あんたが人か魔族かを確かめる!」
「お師匠さんに言われたの⁉」
「そうだよ!」
「待てリルラ! ここは人が多い!」
魔族の威圧を解放したらリルラが差別を受ける可能性がある。
「……やるよ、イア」
「リルラ!」
「私は人の心で魔族の威圧を振るう!」
帽子を取る。取って角があらわになり威圧が解放される。
人々の間に走る動揺と緊張。
圧し離されるアリアンサ。
「なんって強力! でも!」
「え」
リルラの前に一輪の花が咲いた。咲いて、花粉を撒き散らす。
「?」
けれどリルラに変化はなく。
なんだ? なにをした?
「……そいつには幻惑効果があった。
人の姿を、自分が思う“人の本性”に見せる効果が。
あんた、いま周りの人がなにに見えてる?」
「普通の人」
「……化け物には見えていないか。確かに、人の心があるようだ」
「魔族の役目を忘れてな」
「「「!」」」
突然の声の闖入。男、低い男の声だ。しかしどこからの声だ?
「師匠!」
「少し来てもらおう」
「! イア!」
叫ぶような声。に、目を向けてみるとリルラが――消えていく!
「リルラ!」
慌ててリルラの手を取る。が引っ張られる。力強いなにかに引かれている。
「くっそ!」
◇
『世界終末時計 0時1分』
「!」
倒れ込んだオレは珍妙な声に顔を上げる。
えっと……なんだここ? 石の、部屋? 所々が光っている、黒い石の大部屋。中央には大きな時計があって『世界終末時計 0時1分』と音声を発している。
「なにここ?」
隣では手を繋いだままのリルラも呆然としていて。彼女の前にはなにやら記号が浮かんでいる。右を向いた矢印だ。
ほぼ無意識にだろう。矢印にリルラが触れた。
『人類の滅亡を逃れる為だった』
「「?」」
流れ始める、語り。女性の声だ。
『いや、乗り越える為、と言うべきか。
今より僅か二十年後。たった二十年後に人類は滅亡する。
その理由は――人の業。
まずは起こってしまった事を話そう。
確かにあった地球温暖化。
各国はバラバラながらに対策に乗り出し、それでも間に合わなかった。
僅かな気温上昇だったが緑は減り、砂漠化し、氷は溶け、海面は上昇。
多くの小さな島々は沈み、国境は改められた。
気候危機の不安は混乱を呼び、人々の多くは確かに対処をしたのだろう。
炭素社会を脱し、電気に置き換えられ、植林が促され、少しばかり気は安らんだ。
気が安らんだところで途上国は先進国を責めた。
責任の所在を求めたのだ。
これだけならまだ少しの暴動ですむ。
けれども事はすまなかった。
なにせ気温が――下降したから。
これについて警鐘を鳴らしていた学者は何人か存在していた。
「人のせいもある。人は地球を壊した、これについて否定はない。しかしそれと同時にもとより地球の気候は波打っていて、気温上昇は頂点に達すると下降する」と彼らは言った。
だが世界の多勢は杞憂として取り上げなかった。
あくまで気温上昇は人のせいであり、自然現象は含まれないと。
先進国は途上国にも気候危機の対策を求め、一方で途上国は今度は自分たちが得をする番だと化石燃料を貪ろうとした。この途上国の流れは批判されて鎮火したのだが。
代わりに途上国は化石燃料を貪った先進国を責め支援金を望み責任を取らせようとした。
一部の先進国は純粋に地球の気候を考え支援し、一部の先進国は自分たちの利益の為に途上国を事実上支配下に置いた。
結果、足並みが揃う事はなく。
世界はパニックに突入する。
だからだろう。人の不満は伝播し爆発しかけた。
なにかのきっかけさえあれば暴発するほどに。
そしてそれはあっさり訪れる。
新たなる気候危機。
気温下降。
それを世界は喜んだ。
気温が元に戻る、これこそが人の努力の成果だと。気温上昇は止まったのだと。
緑は息を吹き返し、雨は大地を潤し、極地は氷に包まれる。
確かに地球は元に戻った。
が、平時をあっさりと飛び越えた気温は下降に下降を繰り返す。
ではこの状況、誰に責任を取らせれば良い?
途上国は先進国に責任を押しつけた。
先進国は学者に責任を押しつけた。
学者は国際社会に責任を押しつけた。
そうして不満は暴動となり略奪・放火・殺傷事件となった。
そして始まったのだ。
戦争が。
まさにそれは最終戦争。
元より燻っていた火種はあった。
ある大国がある小国を属領にしようと攻め、ある宗教がある宗教を根絶やしにしようと攻め、ある貧困国がある富裕国の油田を手に入れようと攻め、更にある独裁国は国民を奴隷化し扇動し自由意思をはく奪した上で他国の領土を軍事力によって入手しようと試みた。
争いは争いの壁をとてつもないレベルで下げ、世界中で続発するようになった。
ここに気候危機による暴動と責任の押し付け合いが加わったのだ。
そこである国が考えた。
状況を利用しようと。
細菌兵器、いや殺人ウィルスを実戦に投入し、投下された地点を中心に風に乗って蔓延したウィルスは世界人口の三分の二を葬った。
けれどもある国は悪びれる事などなく、それどころか自分たちの支配下に加わる国にだけワクチンを売り捌く。
甘い汁を吸うだけ吸った国は当然攻撃される――前に彼ら彼女らは核兵器を使用し敵国にトドメを刺そうとした。
ではそれを放っておくか? 否。核兵器は飛来途中に撃墜される。
撃墜された核兵器は大気に放射能をまき散らし、生み出された黒煙と死の灰は空を覆い、大地に海にと黒い雨が降り注ぐ。
暖かな太陽の光は遮られ、気温下降に拍車をかけてとうとう全地球凍結【アイスボール】を招いた。
多くの動植物を道連れにした「人類による気候危機」。
なのに人は争いを止めない。そう、止めなかったのだ。
ゆえに動いたのは【世界最高頭脳】と言われる女性。
名を「クリスタル」。
クリスタルは警鐘を鳴らす。いっそ予言したと表現しても良い。
二十年余りの後、最期の人が亡くなる事により人類は滅亡する――と。
これにより、クリスタルはある研究に入った。
無論人類を滅亡から救う研究である。
が、どうしてもうまくいかない。
戦争を止めても人類は滅亡する、そんな演算結果が出た。
理由は判明した。
遺伝子に死が刻まれていたからだ。
避けられない種の寿命として。
クリスタルは苦悩する。
苦悩の末にクリスタルは考えた。
「人類が滅亡すると言うのなら、せめて存在した証を遺せないか」
と。
作られたのはバイオノイド【ヨシュア】』
そこで表示される、人に良く似た姿。
水晶の角のある、人。魔族だ。魔族に違いなかった。
『ヨシュアは人類滅亡後も存続する。
が、人類滅亡の凡そ八万年後、地球には別の知性体が出現した。
人類とは別系統から進化した【セリオン】。
それらはあらゆる手段を以てヨシュアを殺そうとしてくる。
殺し、屠り、彼らの文化を受け継いだ。
簒奪者、人を名乗る偽人である』
次に表示されたのは、人だ。オレたちだ。
オレたちが……簒奪者? 偽? そんな歴史、学校の授業で習わないのは勿論どの本にもどの遺跡にもどの史料にも……。
「偽人は都合の悪い歴史を消し、都合の良い歴史を残す。
まさに、正しく人を受け継いでいるな」
声と靴音。視線を向けると緑系・松葉色の髪、銀系・白金色の目の青年魔族が一人。
この声はさっきの。
「リルラ。ヨシュアと偽人の子。
こちらに来い。横のを殺せ」
「殺さないよ、私は」
「なぜ?」
「なぜ? 今の話が本当だとして、良いじゃない。証を遺すと言うなら今の人がその証じゃない」
「正しく人を受け継いだ偽人は人類と同じ道を行くだろう。事実辿っている。ゆえに我々はこれを消さねばならない。あらゆる手段を使ってだ」
だから、魔族は人を襲うのか。壊そうとするのか。二度と地球を死なせない為に。
「八万年、再誕した地球は様変わりした。かつての人類が描いた“異世界”がここにある。
だが俺たちの地球だ。守らねばならない」
「守るよ。けどそれは一方を殺してじゃない。共存出来るのは私の両親が証明している」
「殺されている」
「……そうだけど」
「戦いの果て、瀕死に陥った魔族と本能を越え、心によってこれを救った人間。
生まれた感情。
産まれたリルラ。
はたしてこの家族は幸福であったか?
殺した側は笑っていただろう」
「怖いんだよ。自分と違う魔族が。どっちも歩み寄りをしないから。
私は人を愛すよ。魔族を愛すよ。
応えてほしいよ」
オレの手を握る力が強くなる。魔族だけではない。人も応えてくれと言っているのだ。
……魔族云々はともかく、オレは――
「オレは、きっとリルラが好きなんだ」
指が動いた。リルラの指が。
小さくだが、表情には出ていないが心が揺れた証。
「他の魔族に対して同じ感情は持っていないけど、そもそも人全部を好きでもない。
好きになったり嫌いになったり、全じゃなく個で考えてみれば良いんじゃないか?」
「……幼いな」
「だろうな」
「幼い思考で未来を思うか」
「ドリームビルダーだからな」
笑ってみせる。ここで笑わないで、夢を語る事など出来ない。
「ヨシュアと偽人を変えられるか、お前に」
「オレはパラディンに到達する」
「精霊の王、聖霊か」
「誰よりも強くなって、誰よりも夢を語って、夢を実現する。
人全部と魔族全部を変えるのは無理だと思う。
けどそれってオレ一人ならの話だ。
オレが夢を実現したなら人も魔族もきっと夢を強く見始める。
共存の夢を見る奴が増えるかもしれないんだ。
一緒にいるのは不可能じゃあない。
オレが! みんなの夢を作ってみせる!」
「……サ・スア」
精霊が舞う。緑系・若葉色の精霊が。
「『空間』の精霊サ・スア。
お前たちの夢の果てを見よう。
今はお前たちを元の場所に戻す。
アリアンサがいる、リルラが魔族と知った者たちがいる。
襲われ、戦いの日々が続くだろう。
精々あがけ。
俺たちは俺たちで動く。
夢を叶えられるなら、叶えてみせろ。
作って魅せろ」
「――ああ!」
「あなたの名前は?」
「ジュライ=女凪」
「ジュライ=女凪。覚えたよ」
空間が歪む。
確かに元の場所へと戻されるのだろう。
その前に改めて宣言しておくか。
語るのを躊躇ってはいけない。
「見てろよジュライ」
剣と視線を上に向けて。
「オレは絶対に、パラディンに到達するから!」
夢は続く。