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「良かったじゃん!おめでとう!」
嘘だ。本心じゃないくせに。
好きな人からお付き合い報告を受けた。
「ありがとう、ふっか!」
そんなに嬉しそうに笑ってさ。
阿部ちゃんが幸せならそれで良いって
幸せになってねって思うけど……
やっぱり悔しいよ……
一緒に事務所に入所してから、ずっと近くに居たのは俺なのにさ。
でも、おめでとうって言うしかなくて。
この気持ちは伝えられないから。
「佐久間と幸せにね」
心の底からお祝い出来てないのにそんな言葉口にしてさ……俺って最低だ。
「うん、幸せになるね!」
今の俺には眩し過ぎる毒だよ……
阿部ちゃんの隣は何で俺じゃないんだろう……
「ふっか、ふっか!起きて!帰るよ!」
「ひかるぅ?」
俺寝てたのか……
阿部ちゃんと佐久間から皆に伝えたいことがあるからって、全員でご飯を食べに来てたんだっけ。
それで、阿部ちゃんと佐久間が付き合ったって報告受けて、めでたい席だしとか言って、そんなに飲めないお酒を馬鹿みたいに煽ったんだっけ。
本当はただのやけ酒だ……
「もう、皆帰ったから俺たちも帰るよ」
「ひかる、まっててくれたのぉ?」
あー。呂律回ってねぇや。
「ほら、立って。心配だから俺んち連れてく」
俺の手を引いて立たせて、身なりを直してくれる。
また照に迷惑かけちゃった。
こういう時、いつも照が助けてくれる。
まぁ、逆もたまにあるんだけどな。
俺たちは持ちつ持たれつの関係だ。
「ほら、着いたよ」
照の車に乗ったら俺は眠ってしまったらしい。
目が覚めたら、照のマンションの駐車場だった。
「歩ける?」
「むりー」
「しっかりしろよ、最年長」って苦笑いしながらも抱き抱えてくれた。
「よいしょっ」
部屋の中に入り、照は俺をソファに座らせるとキッチンに行きお水を持ってきてくれた。
「お風呂、沸かしてくる。これ飲んでゆっくりしてな」
「ん、ありがと」
リビングを出ていく照を見送りながら、渡された水をゴクゴクと飲む。
酔って少し熱くなった体にはひんやりして気持ちいい……
「少しは酔い冷めた?」
リビングに戻ってきた照が顔を覗き込んでくる。
「うん、大丈夫……」
そっか、無理すんなよと頭をぽんぽんされる。
「ふっか?どうした!?」
「えっ………………………」
ボロボロと溢れ落ちる涙……
俺……泣いてる……自分でも無意識だった……
自分で思ってるよりもダメージ受けてたみたいだ。
照に優しくされて俺の中のダムが決壊したらしい。
「……ふっか……大丈夫だよ……」
照がそっと抱き締めて背中を撫でてくれる。
大丈夫大丈夫と何回も優しく繰り返して、背中をトントンと一定のリズムで叩いてくれる。
何だろう……凄く……安心する……
「ひかる……ごめん……」
「そこはありがとうでしょ?」
ありがとうって言い直すとどういたしましてってニコッと笑ってまた頭をぽんぽんとしてくれた。
「ふっか、今日は泊まりね!お風呂入ってきな。スッキリすると思うよ」
「うん、ありがとう」
1人になるのは不安だったから有難いや。
照の優しさが嬉しかった。
「ふっかぁ、やっぱり髪乾かしてないじゃん!風邪引くよ!」
先にお風呂から上がってソファでまったりしてると、お風呂から上がった照がドライヤーを手に戻ってきた。
「乾かしてあげる 」
そのまま後ろからされるがままに髪を乾かされる俺。
その時だった。
何気ない一言だったんだ。
ドライヤーの音で照には聞こえないだろうと思ったんだ。
「ひかるに好きになってもらえる人は幸せだね……」
照の手の動きとドライヤーの音が止まった。
「ふっかがそれを言うの……俺の気持ちに気付いてるくせに……気付かないふりしてる……ふっかが!?」
「ひかる……?」
「……阿部じゃなくて俺を好きになってよ!!俺ならふっかをあんな風にに泣かせたりしない……ねぇ……俺を好きになってよ……」
言葉の最後の方は泣きそうな声だった。
懇願するような切ない声。
照のそんな声は聞いたことない。
そうだ……俺は照の気持ちに気付かないふりしてた……
俺は昔からそういう人の気持ちには敏感だった。
だから阿部ちゃんが佐久間を好きなことも2人が両想いなことも気付いてた。
阿部ちゃんは俺の事を大切な同期でメンバーとしか思っていないことも。
でも、阿部ちゃんのことを好きな気持ちには蓋は出来なくて、照の気持ちには気付かないようにしていた。
「ひかる……」
振り返り、ひかるの頬に触れる。
少し、濡れていた。
じっと、照を見つめる。
「ふっか…」
視線が合うと照は俺の手を取り引き寄せる。
流れるように唇が重なった。
「んっ…………」
照のキスを拒むことが出来なかった。
まだ阿部ちゃんのことが好きなのに…照への気持ちは曖昧で宙ぶらりんのままなのに…俺たちは一線を超えてしまった。
続く