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校舎の外に出ると、夕風がまだ冷たくて、みことの頬を痛いくらいに撫でた。
すちの背中は遠かった。
歩く速度が速いわけじゃないのに、追いつけない。
(……行っちゃう)
喉がきゅっと狭くなる。
さっきの冷たい言葉が耳から離れない。
けど、このまま背を向けられたら、本当に戻ってこなくなる気がした。
「すち……!」
みことは思わず走り出した。
靴音だけが乾いた道に響く。
すちは足を止めない。
むしろ、呼び止められても振り向かなかった。
やっと手が届きそうな距離に近づいた瞬間、
みことはすちのシャツの裾を小さく掴んでしまった。
「……なんで、無視するの」
すちは一瞬だけ足を止めた。
だが振り返らない。
「離して、みこと」
低い声。
怒っているわけじゃないのに、拒絶だけがはっきり乗っている声。
それが、怖かった。
「やだ……離したくない……!」
声が震える。
涙が零れそうになるのを必死に止めながら、みことはすちの裾をぎゅっと握る指に力を込めた。
「俺、すちに嫌われた……? なにか、俺……した……?」
すちの肩がわずかに揺れた。
心が動いたのか、ただの風なのか、みことにはわからない。
「……みこと」
ようやくすちが振り向く。
その目はやっぱり深い色をしていて、どこか壊れた光が宿っていた。
「どうして追いかけてきたの」
「だって……置いていかれるのやだよ……!」
本音をぶつけた途端、堰を切ったみたいに涙がこぼれ落ちた。
すちはその涙を見た瞬間、表情を微かに歪めた。
迷っている。
突き放そうとした心と、どうしようもなくみことに揺れる心がぶつかっている。
「……困らせないで」
すちの声が少しだけ震えた。
怒ってもなく、冷たくもなく──けれど優しさではない、苦しさの滲む声。
みことは涙で濡れたまま、言葉にならないまま首を振る。
「すち……どこにも行かないで……」
その一言で、すちの瞳の奥に沈んでいた闇がゆっくりと揺らいだ。
まるで、心の底の何かが小さく軋むみたいに。
すちはみことの手をそっと掴んだ。
振り払うためじゃなかった。
ただ、触れたかった。
「……みこと」
名前を呼ぶ声が、今にも壊れそうに弱い。
その弱さが、みことの胸をかき乱した。
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