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精神病んでる
DV、オメガバース
冴潔
あの日、「拾われた」と自覚した瞬間から、俺…潔世一の人生は決まっていた。
**劣勢オメガ。**番を持たず、一生涯を孤独に過ごすか、誰かの一時的な慰み者として終わるはずの存在。
それが俺だ。
けど、そんな自分に手を伸ばし、「番にしてやる」と告げた、もの好きなアルファ…
それが冴だった。
冴は優勢アルファ。世界の中心に立つような強さと支配欲を持ち、誰に対しても譲らない。
俺にとっては恐怖であり、同時に救いだった。
だから冴には逆らえない。逆らう気すら湧かない。
冴への忠誠心が呪いのように胸へと刻まれていた。
それでよかった。
捨てられなければ。
傍にさえいてくれさえすれば。
だが、予想外の出来事が俺を震わせた。
俺はここ数日体調不良が続いていた。熱っぽさ、倦怠感、眠気。
最初は発情期がずれてきているのかと思ったが、病院で突き付けられた言葉に耳が塞がれた。
――妊娠している、と。
有り得ないことではない。オメガとアルファの間に子供ができることは当たり前だ。
だが、劣勢オメガの自分が「優勢アルファ様の子」を宿したなんて。
重荷だと思われるのが。
世間に、冴に…「失敗作だ」と言われるのが。
嫌だ。嫌われたくない。冷めた目で見られたくない。
日にちが経つに連れてその思いが強くなる。
そして、とうとう勇気を振り絞り、伝えた夜。
冴は黙って俺を見下ろした。無機質な翡翠色の美しい瞳に、感情が宿っているのかどうか分からなかった。
張り詰めるような息苦しさに耐えられなくなって、口走ってしまう。
「……堕した方が、いいんじゃ……」と。
その瞬間、彫刻のように美しい冴の表情が変わった。
氷が砕けるように、怒気が迸った。
「あ“? 俺の子を捨てるって?勝手なこと言ってんじゃねぇよ。
――拾ってもらった分際で」
怒鳴り声に身体が跳ねる。次の瞬間、冴は俺を乱暴にベッドへ押しやり、すぐさま立ち上がった。
外に出ていく足音。ガチャリと音を立てて、外から鍵を掛ける音が響いた。
閉じ込められた。
暗闇の中で、心臓が跳ね、息が詰まる。
「……冴……?」
返事はない。
静まり返った部屋で、膝を抱えた。
恐怖がじわじわと広がっていく。
冴に見捨てられるかもしれない。
冴が二度と戻ってこないかもしれない。
「冴、俺無理だよ。助けてッ!お願い…なんで、なんで来てくれないの?俺のこと嫌いになっちゃった?ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!許して…もうしないから。お願い…ねぇッ!ね”ぇッ!!」
開かないドアを叩きながら泣き叫ぶように謝罪を繰り返す。
頭を壁に打ち付け、爪を噛み、涙が止まらない。
冴に嫌われることが、何よりも怖い。
冴がいなければ、自分は存在できない。
孤独は精神を削り、時間の感覚を奪った。
どれほど経ったのか分からない。夜か、朝か。
謝罪の言葉は嗄れて声にならなくなり、ただ冴の名を呟き続けるしかできなかった。
突然、鍵の音がした。
びくりと身体が震える。ドアが開き、光が差し込む。
そこに立っていたのは、冴。
冷たい表情のまま、部屋に足を踏み入れる。
俺は反射的に這い寄り、床に額を擦り付ける。
「ごめんなさい、ごめんなさい……! 俺、俺……!」
冴はそんな姿を黙って見下ろした。長い沈黙のあと、低い声で呟いた。
「……俺との子供、産むな?」
その声音に、涙腺が決壊する。
喉が詰まり、嗚咽の合間に必死で答えを紡ぐ。
「……ぅむ、産むがら“っ!!お願い捨てな…いで!」
その瞬間、冴の口元が僅かに緩んだ。
膝を折り、俺を強く抱きしめる。
「……いい子だ。」
温もりに包まれた瞬間、全ての不安が溶ける。
俺は泣きじゃくりながら冴に縋りついた。
閉じ込められた恐怖も、孤独も、全部どうでもいい。
冴がいてくれる。冴が捨てない。
それだけで、生きていける。
「……捨てない、で……」
「誰が捨てるかよ。拾ったもんは最後まで俺のだ」
支配と依存。その歪んだ絆は、より強く結びついた。
俺は確かに思った。
――この人のためなら、子供を産める。
冴に愛されているのなら、何も怖くない。
その夜、安堵の涙を流しながら、冴の腕の中で眠りについた。
The END
コメント
1件
(冴潔最高です ~。。、!支配の仕方が性癖ドストライクっ!)