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第17話「記録改訂:抗う名前たち」
影部隊《オルド》の中で、セツナは静かに“反逆”を続けていた。
処理対象の証言を記録に残し、任務の意味を問い、時に仲間の引き金を止めた。
そのたびに、彼を睨む視線は増えた。
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ある夜、部隊内で最古参の男・コードネーム《イプシロン》が、セツナに言う。
「お前みてぇな“理想”を持ったガキが来ると、組織は壊れる。
俺たちがどれだけ汚れてるか、知らねえだろ」
セツナは静かに答えた。
「でも、汚れを抱えたままでも、“正しくあろうとすること”はできる。
僕はそれを見てきた。——この国の幹部たちから」
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その頃、軍本部ではトントンが「セツナ処分要求」の書類を前に立ち上がっていた。
ゾム、シャオロン、鬱先生、ロボロ、ショッピ——
全員が彼の背に並ぶ。
「軍の正義ってのは、強い命令に従うことじゃねぇ。
“自分の言葉で責任を背負えるやつ”が正義を作るんだろ?」
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トントンが、処分命令書の最上段に赤ペンで書き込む。
【却下】
【理由:当該対象は国家監査官として正当な行動をしているため】
その筆跡は、軍の歴史に初めて刻まれた“少年の反逆”を肯定する証だった。
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一方、《オルド》では異変が起き始める。
無名の兵士たちの中から、数人がセツナにこう言った。
「なあ……本当に、選べるのか?
“名前を持って生きる”ってこと、俺たちにも」
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セツナは頷いた。
「僕も、かつては番号だった。
でも、名前をくれた人たちがいて——
今度は、僕が渡す番なんだと思う」
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その夜、オルド内で初めて“名前”を持った兵士が誕生した。
コード名を捨て、自らをこう呼んだ。
「俺の名前は、アスカリ。生き残った“元記録破棄兵”だ」
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それは、ひとつの始まりだった。
名もなき兵士たちが、“名前で記録される存在”へと変わっていく——