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第18話「レクイエム・終曲」
記録されなかった兵士たちが、次々と“名乗り”始めた。
それは小さな炎のように、影部隊《オルド》内部で広がっていった。
だがそれは同時に、“この国の闇”そのものを照らす行為だった。
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ある晩、セツナの元に届いたのは、軍上層部からの緊急通達。
【特別監査官・黒瀬セツナへ】
【影部隊の構造が崩壊しつつある。即時帰還を命ずる】
けれど、セツナは首を横に振った。
「帰るだけじゃ、“終われない”。
僕はここで、最後まで“名前の記録”をやりきる」
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その意思は、幹部たちにも届いていた。
グルッペンは、静かに全幹部を集め、こう言う。
「我々が今、黙って見ているだけなら……この国は、また“記録を隠す側”に戻る。
そうさせないために、俺たちが選んだ“少年”だったはずだ」
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鬱先生は、端末を開きながらつぶやく。
「セツナ、お前の記録を、**“国の記録”に上書きしてやるよ」
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その日、軍の全端末に向けて1本の映像が一斉配信された。
記録したのは、ショッピ。
映っていたのは、黒瀬セツナの声だった。
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「僕は、黒瀬セツナ。かつて名前を奪われ、番号で呼ばれた者です。
今、《オルド》と呼ばれる“名前のない兵士たち”と共にいます。
お願いがあります。
どうか、僕たちの“記録”を、消さないでください。
この国に、“名を持って生きる”未来があるようにと、
願っている人間がここにいることを——知っていてください」
⸻
その映像は止まることなく、国中に拡散された。
誰かが止める前に、誰かが消す前に。
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静まり返った幹部室の中、トントンは小さくつぶやいた。
「……きれいに泣ける日は、まだ遠いけどな」