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「俺が目を覚ましたのは偶然だ。エリスのせいでは無い。いいか? ここでは何があっても自分のせいだと思わなくていいから、謝るな。悲しい時は泣いていい、辛い時は辛いと弱音を吐いても構わない。無理をする必要も無い、作り笑顔も、作らなくていい。お前の素直な感情を出してくれて良いんだ」
そして悩んだ末、ありのままの自分を見せて欲しいと言葉を選びながらギルバートはエリスに伝えた。
「ここにはお前を憎む者は居ない。責め立てる者も居ない。命を狙われたりもしない。お前の事はこの俺が必ず守る。だから安心しろ。眠るのが怖いなら、朝まで共に起きていよう。決して、お前を独りにはしないから、俺で良ければいつでも頼ってくれ」
瞳に大粒の涙を浮かべたエリスが真っ直ぐギルバートを見ると、二人の視線がぶつかり合う。
「ギルバートさんは、優しいですね……」
「そうか? これが普通だ。きっとお前の周りの奴らがおかしかっただけだ」
「そんな事……」
「奴らを庇う必要は無い。ほら、もう一度寝るぞ。身体は疲れているはずだから、目を瞑ればすぐに眠れるだろう」
「はい……」
まだ夜も明けない時間なので再びベッドに横になった二人。
エリスの心も落ち着きを取り戻したのですぐに眠れるかと思ったギルバートだったが、やはり眠るのが怖いのかエリスがなかなか眠れない気配を感じ取り、
「やはり、眠れないか?」
彼女に背を向けたまま問いかけた。
「……目を瞑ると、怖いんです……大丈夫だって分かってはいるんですけど、また襲われたらどうしようって思うと、怖くてたまらなくて……」
エリスの不安は最もだ。ましてや寝込みを襲われ殺されかけたのだから。
ギルバートのように、軍に属していた経験があるならば、慣れてしまうものなのかもしれないけれど、エリスは王族の人間で常に守られる側だった。
そんな彼女が一度味わった恐怖は計り知れないだろう。
それに、例え眠れたとしても、先程のように悪夢にうなされてしまうかもしれないと思うと、目を閉じるのさえも無理なのかもしれない。
エリスの不安を知ったギルバートは彼女の方に向き直ると、そのまま身体を引き寄せて抱き締めた。
「――ッ」
突然の事に声にならないエリスは小さく息を飲む。
身体は少し強張っているけれど、そこに恐怖は無かった。あるのは緊張だけ。
「こんな事で不安が取り除けないだろうが、気休め程度にはなるだろう? 怖い事は無い。お前が眠るまでこうしていてやるから安心して眠るんだ。また悪夢でうなされたら、すぐに起こしてやるから、心配な事は無い」
ギルバートの優しさに頼ってばかりではいけないと頭では分かっているエリス。
だけど今は彼のその優しさが、暖かな温もりが必要で、それに縋るしか無かった。
「ありがとうございます……。こうされると、何だか心が、落ち着きます……本当に、安心出来ます……」
抱き締められたエリスは守られているという安心感から、徐々に瞼が落ちていく。
ギルバートは彼女を優しく抱き締め、時折背中をポンポンと規則正しいリズムで叩いていた事で、いつしかエリスは眠りの世界に堕ちていった。
「……ようやく眠ったか」
再び規則正しい寝息が聞こえてきた事に安堵したギルバートもまた目を瞑り、エリスを抱き締めたままで眠りについた。
朝、小鳥の囀りと窓から射し込む光で目を覚ましたエリスは思わず声を上げそうになる。
(ずっと、こうして抱き締めてくれていたんだ……ギルバートさん)
まさかあの状態のままギルバートまで眠っているとは思わなかったエリスは驚いたものの、彼の温もりのお陰で朝までぐっすり眠れたのだと知り嬉しくなった。
(不思議だな……昨日会ったばかりの人なのに、こんなにも安心出来るなんて)
普通なら、いくら助けてくれたとは言え会ったばかりの人間相手にここまで心を許せる事は稀だろう。
しかし父親が亡くなってからこれまで、味方と呼べる者が一人も傍に居ない環境を過ごしてきたエリスにとって、ようやく現れた自分の味方。
初対面だろうと素性が良く知れなかろうと、今一番頼れるのは他でもないギルバートだけ。
その事を理解しているエリスは、未だ眠る彼に身を寄せ、彼の温もりに包まれながらギルバートが目を覚ますのを待っていた。