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フローリングに敷かれたカーペットの上にペタリと座り込んで、スマホの画面を呆然と見つめる私……
夢? 夢じゃないよね……?
取りあえず、ホッペを抓ってみる。
――――い、痛い。
しかし、頬の痛みとともに、猛然と嬉しさがこみ上げてきた。
スマホの小さな画面。そこにはなんと、トモくんの携帯番号とメールアドレスが表示されているのだ。
そう、中学時代からずっと知りたかった、トモくんの携番とメアド――
「んん~~~~♪」
私はスマホを胸に抱きしめて、そのまま後ろへ倒れ込んだ。そして、嬉しさのあまりにフローリングの床をゴロゴロと転がりまわ――
「あだっ!?」
物凄い勢いで、本棚の角に額を激突させた私。
しかし、その痛みすら夢ではない事の|証拠《あかし》である。額に激痛を走らせながらも、私の頬は緩みっぱなしだ。
や、やばい……この感動を誰かに伝えたいっ! このままでは、窓を開けてベランダから叫び出してしまいそうだ。
「そだっ――」
私はスマホの画面を切り替えて、発信履歴からお目当ての番号を探す。
そして発信をタップし、その薄い機体を耳に当てた。
『もしもし、お疲れさまッス』
コール三回で繋がる電話。聴き馴染んだ声――
「もしもし、由姫ぃ? いま、何してる?」
電話の相手は、小倉由姫。私が鬼怒姫で頭を張っていた時にナンバー2だった娘で、私が引退した後もこの娘とは交流が続いていた。
『えっ、いまッスか? ヒマだから、単車で流して来ようかと思ってたとこッスね』
「ちょうどよかった。ヒマならウチ来なさいよ。一緒にパーッと飲みましょ♪」
『えっ? いいんッスか? てか千歳さん、なんかご機嫌ッスね。いい事でもあったんッスか?』
「ふふふっ、ナイショ♪」
とか言いながら、話したくてウズウズしてる私。きっと由姫が来たら、聞かれてもいない事までベラベラと話してしまうのだろう。
「そうだっ、あと昔のメンバーで来れそうな娘がいたら、声を掛けてみて」
『来れそうな娘って、なに言ってんッスか……? 千歳さんが集合掛けたらアイツら、彼氏と事の真っ最中でも男ほっぽり出して全裸のままソッコーで駆け付けて来るッスよ』
いや、それは嬉しいような、まったく嬉しくないような……
とゆうか、その例えはどうなの? 少し慎みとか恥じらいを持ちなさい。
「そこまで慕ってくれてるのはありがたいけど、流石に全員集合とかしたら近所迷惑だし…………じゃあ、テキトーに三、四人、ノリのいい娘に声掛けてみて」
『了解ッス』
「それから、お金は出すから銀麦と――」
と、銀麦というワードに、さっきのトモくんとした会話が頭を過ぎった。
――だったら、銀麦じゃなくてプレモルぐらい出しやがれ。
プレモル――プレミアムモルトか……
「いえ、銀麦はヤメ。プレミアムモルトにしましょう」
『えっ? プレモルッスか?』
「そう、プレモルを三箱。それと、この時間なら梅子ん家のお寿司屋は、まだ開いてるわよね。特上寿司を十人前、持ち帰りで作って貰って。あと何か食べたい物があったら、好きに買って来ていいわよ」
『プ、プレモルが三箱……しかも寿司が特上で十人前って……? あの貧乏性で、コンビニ弁当の箸ですら洗って使い回す千歳さんが……明日は雪どころか槍、それもゲイボルグ級の魔槍が降るかも……』
なにやら失礼な事を言われている気がするけど、私はすっかり舞い上がっていて、怒りなどみじんも湧いてこない。
『ホント、何があったんッスか?』
「だから、ナイショだって。フフフン♪」
『まあ、飲みながら、ゆっくり聞かせて下さい。じゃあ、買い物済ませて、一時間くらいで行くッスから』
「ええ、お願いね」
電話を切った私は再びスマホのアドレス帳を開き、トモくんのページをタップした。
「えへへへっ♪」
そしてまた、スマホを胸に抱いて床をゴロゴロと――
「あだっ!?」
さっきと同じ場所を同じ場所へぶつける私。それでも私の顔は、ニヤけたままだった。