テラーノベル
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目が覚めるとそこは百鬼夜行の中だった。
意味がわからない。ついさっきまで私、「雪」はお寺にいたのだから。
私はいつも通りお寺に参拝に来ていた。時刻は7:37。今日もいつもと同じことを願う。
「今日はみんなとちゃんと話せますように」
それしか願ったことがない。
今日も参拝を終えてスマホの時刻を確認してから学校に向かおうとスマホを見ながら後ろを向いたとき、階段があるのを忘れていて踏み外してしまった。
幸いにも2段ほどの階段だったので大事にはならなかった。でもかなりまずいことになってしまった。
九尾の像を壊してしまった。一部壊した、では済まない。九尾の尻尾9本の内、3本ほど下に割れ落ちていた。
その瞬間、目の前が真っ白になった。瞬きしても白いまま。私は何が起こったのかわからなかった。
色が見えてきて輪郭がはっきりしてきたとき、第一印象は
「外、こんなに暗かったっけ。」
と思った。そしてうるさい。周りを見渡そうと横を見たときびっくりして叫びそうになった。
両隣に大きい青鬼と赤鬼。前には大きい白い山狗。後ろには、私がうっかり壊してしまった九尾の像に似た白と赤の九尾がいた。それを見るだけでもびっくりする。
だが自分の体にも違和感があった。
自分の身体を見ると、服装はセーラー服だったのに白い美しい着物になっている。それに髪の毛も、私は肩くらいの長さでくせ毛だったのに、今は腰ぐらいの長さの髪でストレートになっている。それに自分の体の周りに雪の結晶がちらちら飛んでいる。一人で慌ただしくしていたら、
「どうしたの、雪女。落ち着きがないよ?」
と後ろの九尾に話しかけられた。今私のことを雪女って呼んだ?私の名前は雪なのに。全くわからない。もしかして私の名前は雪女だったのだろうか。そのはずはない。でも、本当に雪女になっているのだろうか。
普通に考えるとおかしい。だが自分の身体の周りに雪の結晶がちらちら飛んでいるから雪女、なのだろう。お寺の九尾の像壊しちゃったから、雪女になってしまったのだろうか。
そして九尾って喋れることにびっくりした。
「何でも⋯ありません」
すごいカタコトな言葉になってしまった。でも仕方ない。いろいろ混乱してるし、コミュ障なんだから。
「すごい緊張しているね。初対面じゃないのに。」
初対面じゃ⋯ない。じゃあこんな話し方したら、怪しすぎる。
「まあ、雪女は百鬼夜行が初めてだから仕方ないかもね」
百鬼夜行。それは絵巻物でしか聞いたことのない言葉。
それに妖怪が街を歩いているなんてありえない、はず。でも、今私の周りには妖怪しかいないし自分も妖怪だ。信じられないけれど、ここは百鬼夜行なのだろう。
「百鬼夜行にようこそ。」
ふわっと九尾さんが笑って言った。
「百鬼夜行⋯」
「どうしたの?」
九尾さんが不思議そうにこちらを見た。声に出ていたらしい。
「なんでもございません」
言葉が変になった。でも緊張しているし。
「そっかぁ。」
そんなこと気にした様子はなく、優しく九尾さんは声をかけてくれた。なんだか一瞬心が軽くなった気がする。どうしてだろう。
そこから私は百鬼夜行の中で色んな人と仲良くなった。まずは九尾さん。話してみるとすごく優しくて話上手で聞き上手。おっとりした口調で話しやすい。完璧なキツネさんだ。
そして酒呑童子さんと茨木童子さん。ふたりとも現代の歴史の本では怖い、とか恐ろしい。とか書いてあったが、ふたりともすごく優しかった。酒呑童子さんは
「固くなるな。せっかくの宴、楽しめ。」
と声をかけてくれる。茨木童子さんは
「余と一緒に酒を飲もうではないかぁ!」
とお酒を楽しそうにお酒を押し付けてくる。
「私お酒飲めません。」
と私もつられて笑ってしまった。なんだか楽しかった。一緒に話していた妖怪たちに
「雪女は本当に楽しそうにおしゃべりするねぇ」
とよく言われた。私のいた世界ではそんなこと一言も言われたことがない。でも確かに今までずっと緊張してカタコト言葉で話していたけれど、楽しくていつの間にか自分がコミュ障のことを忘れていた。
夜が明けそうになる頃にはみんなで楽しく、笑いながら話していた。
突然酒呑童子さんが
「雪女、もうすぐ夜が明ける。妾は帰るとしよう。」
と言って私に背を向ける。
その直後、というより酒呑童子さんの言葉に被せて
「酒呑童子様。余も一緒に帰ります。」
「じゃあ、またね。酒呑童子様お待ち下さい!」
と茨木童子さんが言って酒呑童子さんを小走りで追いかける。
酒呑童子さんを追いかける茨木童子さん。かわいい。酒呑童子さん達が動き出してから、他の妖怪たちもぞろぞろと森やら川の中やらと消えていった。
今更気付いたが、もう夜が明けるのか。私はどうなるんだろう。元の世界に帰れるのだろうか。私は街のすぐ横の池のふちに座って裸足になって水の中に足を入れてそんな事を考えていた。
ふと目が覚めるとそこはお寺の前にいた。いつの間にか眠っていたらしい。立ちあがって周りを見渡すといつも通りのお寺がそこにあった。さっきまで百鬼夜行の中にいたのに。あれは夢だったのだろうか。と思いながら自分の姿を見た。いつも通りのセーラー服。それに肩ぐらいの髪、何もかもが普通。でも、私がさっきまで見ていた世界の姿と自分の姿がぜんぜん違う。
元の世界ならスマホがあるはず。そう思ってポケットを探る。ちゃんとスマホがあった。時間を確認しようと電源をつけたとき、思わず声が出てしまった。
「7:37…」
私がお寺に到着した時刻。スマホの時計が壊れているのか、と思いながらお寺の時計を探して時刻を見てみても7:37。じゃあこの時間はあっているのだろうか。時間が戻っているのならば私が壊した九尾の像も壊れていないはず。そう思い像の方に目を向ける。 壊れていない。安心した。
もう一度スマホの時計を見る。「7:39」、学校は「8:10」登校だからまだ大丈夫の時間だ。でも学校に行って本を読みたいから早くに家を出てこの神社によってから学校に向かう。
ついさっきまでいた世界は夢だったという確証はないし、そんなのわからない。でも、さっきの出来事は私の記憶に刻み込むと私は決めた。また九尾の像を壊さないように階段を降りて、学校に向かう。
教室についた。いつも通り教室のドアを開けて教室に入っていく。いつも通りの動き。だが、少し違う。私の気持ちが、違う。あの百鬼夜行で楽しく喋った時を思い出しながら教室にいる女子に話しかけた。
「おはよう。」
少しぎこちない笑顔になってしまったかもしれない。でも、話しかけられただけ成長だ。
みんなに挨拶をするのは普通かもしれない。だけど私にはできなかったこと。いつも話しかけられてから返事し、下を見ながら挨拶をする。でも今日は自分から話しかけて、ちゃんと相手の目を見て挨拶した。
その行動は百鬼夜行で学んだこと。案の定、友達は私の行動に目を見開いた。そこからふわっと柔らかく微笑んで
「おはよう、雪。」
と返してくれた。それがとてつもなく嬉しかった。
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コメント
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おお、第1話からもう引き込まれました……! 雪ちゃんが九尾の像を壊したことで百鬼夜行の世界に迷い込む展開、めちゃくちゃドキドキしました。コミュ障なのに妖怪たちと自然に打ち解けて笑い合う姿がとても愛おしくて。特に「おはよう」って自分から言えたラスト、本当にじんわりきました。どんな気持ちで言ったんだろう、って想像するだけで胸が熱くなります。続きが気になります!