それからは最悪だった。日の光の当たらない,窓のない窮屈な部屋で毎日を過ごした。毎朝決まった時間に起こされ,勉強という名の洗脳を受ける。内容は毎日何一つ変わらない。そのせいでここにいた魔族の大半は壊れてしまった。
「…。」
この頃の俺はもうすでに壊れていたのかもしれない。妹を探すため,それしか頭に入っていなかったせいかもしれない。光なんてもとから,なかったのかもしれない。
「次。」
ここにいる子供たちは魔法に長けているものたちばかりで,兵器として使用される。使用済みの者たちは…どうなるかはわからない。そこでの訓練がただ,子供たちには厳しすぎるということだけだ。俺はこの時,初めて生きるのが怖くなった。もし,明日自分が死んだらどうなるんだろう,またこんな奇跡が起こるわけない。そう思い続けていた。
「では,戦闘を始めてください。」
人間が作ったAI兵器と戦う。魔法との相性はかなり悪かった。まだ自分自身の威力が弱いからなのか,外傷ができるくらいで戦闘不能になるまで時間がかかる。俺の体力との勝負といったところだろうか。
「火炎玉(ファイアーボール)。」
初歩的な(この頃はこれが一番出す事のできる割と強めの魔法)火炎玉をAIめがけて3発ほど放つ。しかし,鉄に火は効かず黒ずむだけだった。
遠くから監視している人は険しい顔をして紙に何かを書き込んでいた。きっとあれは能力を数値化しているんだ。自分の前の子も,ああやって数値化されていたから。
「この魔族もダメだな。」
「処分ですかね」
そんな会話が聞こえた。きっとあいつらは俺を殺すつもりだろう。ここで死んでしまっては聖來に合わせる顔がない。
調査員二人に囲まれて,自分の部屋に戻った。また,真っ暗な部屋だ。本当に,頭がおかしくなりそうだ。調査員が居なくなってからもあの言葉はなはれず,俺の精神はもっとおかしくなっていった。
「_き。」
こうやって誰かの声が聞こえたり。
「おに_ちゃん。」
声のするほうを向く。…そこには紫色の鬼の面をした人と狐の面をした人がいた。どうやってここまで来たのか,もしかしたらこの二人が俺を殺そうとしていた人なのか,何もわからなかった。
「妹を,世界を救えるのはお前だけだ。」
「…何を言ってるんだよ。」
意味の分からないことを言っている。どうやら幻覚も見ているようだ。
「哀れな…シキ。貴方の一番大切な人に会いたいですか。まだあの子は生きている。でも,そのためには幾つかの試練を乗り越えなければならない。…どれだけの年月をかけなければいけないかもしれない。それでもあの子を助けますか?」
妹,聖來の事を言っているのだろうか。…もちろん,あいつを救えるならどんな辛いことだって乗り越えるつもりだ。助けたい,もう辛いことを経験させたくないから。
助けたい,そう心から願った時だった。真っ暗だった部屋は光で包まれ,草木のにおいがした。
目を開けるとそこには崩壊した建物とにぎやかな面影が何一つない街だった。
「戻ってきた…のか。」
早く何か食べ物が食べたい。ここからそう遠くない家に向かって歩き出した。
俺が連れ去られた日,まだ魔族は何人もいたはずなのに。誰もいない。もしかしてここにいた者たちは皆,人に連れ去られてあんな風になっているのだろうか。自分だけ帰ってきた罪悪感が自分を襲う。
家に近づくと庭師が一人,居座っていた。
「…紫鬼王子?」
「聖來は…?母上や父上は?」
庭師は涙を流していた。そりゃそうだ。数年前にいなくなった王家の子が帰って来たんだから。
それから,庭師の鳴き声に気が付いたのか,母が出てきた。
「嘘,本当に,紫鬼なの…?」
「ただいま。」
母は真っ先に俺に気付いた。そして強く抱きしめてくれた。その手は凄く,震えていた。母は今,あの時の俺と同じなんだ。誰かを失ってしまったのではないかという気持ちでいっぱいなんだ。
「あの,こんな時に言うのもなんだけど,…腹減ったかも。」
「そうね,そうしましょ。」
久しぶりに家に帰ってきた。そこにはメイドが一人。それだけだった。家の中はそんなに荒れていなかったけどやっぱり前より汚い。
「ごめんね,これぐらいしかなくて。」
出されたものは簡素なものだった。それでも,空腹だった俺には十分だ。
「…母上,あの後,この街はどうなったんですか。」
悲しい顔をしていたが,俺は聞かなければならない理由があった。
「そう,あの日…」
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