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第1章 1話 「はじまり」
ーやわらかな光に包まれている。
まるで誰かに抱きしめられているような、そんな安心感。
遠くで風の音がする。
草原の匂い、空の青さが肌に沁みる。
――ここは…どこ?
『チョコ…目が覚めましたか。 あなたを待っていました。さあ、行くのです。あなたの在るべき姿を探しに…。』
在るべき姿? 何なんだろう?
チョコはチョコ。
チョコ以外の何者でもないー。
ーはず…。
ーとある家にてー。
「…コ姉ちゃん…ョコ姉ちゃん……」
「チョコ姉ちゃん!!!!」
ハッ!!
目を覚ますと、正面に男の子がいた。
「もう!チョコ姉ちゃんってば!朝から剣の練習するっていったじゃん!!」
「ショコラ、ごめん…。おはよう…。」
「姉ちゃん、眠そうだね?この調子じゃあ、今日こそショコラが勝ちそうだね!」
「言ったなー?この生意気な弟め~!」
チョコは自分の木刀を持ってショコラと共に駆け出していった。
ーここはカカオ村ー。
私の名前はチョコ。弟のショコラと一緒にここ
カカオ村で暮らしてるの。
物心付いた時には、父も母もいなかった。
でも、全然大丈夫!ショコラがいてくれるから。
「姉ちゃん!早く早く!!とりゃっ!
とりゃっっ!隙ありぃ!!」
「えっ?!」
……カラン。
ショコラの木刀がいつの間にか地面に落ちていた。
「ショコラ……。まだまだね!」
「くっ!今日こそはーー!!」
こんな感じで毎日楽しく過ごしてるの。
そんな私たちには夢がある。
それは…剣で世界に姉弟の名を連ねることっ!!
そのためにも強くならないと!!
カーーンッ!! トスッ……。
ショコラの手からまた木刀が落ちた。
「あ゛ーーっ!もう!!姉ちゃんズルいってば!!少しは手加減しろよ!!」
「あーあー、情けないな~?そんなんで世界に名を馳せる剣の使い手になれるのかな~?」
「そ、そういう姉ちゃんだって!これまで、村長に勝ったことないじゃないか!!」
「そ、村長は別!村長は人間離れしてるんだから。あの人には勝てるわけないよ!」
2人で喧嘩をしていた、その時。
「おーい!チョコー!」
遠くから、同じ村に住む男の声がする。
フォンダンさんだ。
フォンダンさんはカカオ村でカフェを経営している人。
カカオ村はカカオ豆がよく取れるので、カカオを使った色々な食べ物を提供している。
「フォンダンさん!どうしたんですか?新作のカカオ料理でもできたの?」
「違う、違う!村長が2人を呼んでるんだ。 」
「村長さんが私たちを呼んでる?」
村長が私たちを呼ぶのは、私とショコラか大喧
嘩して家を壊した時と、私がショコラの木刀を
思い切りぶっ飛ばして村長の家の屋根を突き
破った時しか呼ばない。
「ショコラ…。今日は私たち何もしてないよね?」
「うん…。僕も何もしてないよ?」
「本当に何もしていないのか? 」と、フォンダンさん。
3人に妙な緊張が走る。
「と、とりあえず、呼ばれたんだし、行かないとね!」と私。
「うん。」とショコラ。
ーカカオ村 村長の家ー
ギギーー…。
……。
何だか、いつもよりドアが重いような…。
「チョコ………。ショコラ………。」
目の前には白髪の老人が座っている。
『…村長ー。』
「そ、村長!もしかして姉がまた何かやらかしましたかっ?!」
ゴツンっ!! 私は力いっぱいショコラの頭にゲンコツを入れてしまった。
(…ちょっとキツすぎたかな??)
「イッッターーー!!!!」
「何すんだよっっ!?そんなキツく殴ることないじゃん!!」
「ショコラが変な事言うからよ!」
「まあまあ……。喧嘩しなさんな、2人とも。」
(村長……。何だか前よりやつれたような…。)
「本日はどのようなご用件で私とショコラをお呼びに?」
「……そなたたちを呼んだのは他でもない。」
部屋に緊張が走るー。
「まず、確認したいことがある。…2人の夢はなんだったかな…?」
その質問にショコラが即答。
「もちろん!姉弟で世界に名を轟かせること!もちろん、村長直伝の剣さばきでっ!!」
村長はこくり、と頷いた。
「チョコ…。そなたも今も変わりないな?」
「はい…。もちろんです。私たちの夢は世界に私たちの名を轟かせる。そして、真の姿を見つけることです!」
『…?!!』
部屋にいた3人はチョコの言葉に驚いた。
(…あれ?…真の姿?私、何を言って…私の意思で言った訳じゃ…)
「チョコ姉ちゃん…何言ってるの? 」
「……やはりな…。」
村長が重い口を開くように話し始めた。
「チョコ…ショコラ…。私に予言じみた能力があることは知っておるな?」
「うん。私たちが木刀の練習に熱中しすぎて、家が崩壊寸前になる前に手を打ったり、毎日の天気を予想して最適カカオ収穫日を推定したりしてたもんね?」
(それ…あまり大した予言じゃなくない…?)とショコラは思った。
「いかにも。特に最適カカオ収穫日はわしが最も力を入れて予言している内容じゃ。」
「それで…予言がどうかしたの?」
「チョコ、ショコラよく聞くのじゃ。
この世界が悪に染まろうとしている…。ワシには見えるのじゃ…。とてつもなく邪悪なエネルギーが解き放たれようとしている…。」
「悪…?そんなの、村の外に出ればいっぱいいるよ?悪の塊の魔物がウジャウジャ。」
と、チョコが首を傾げながら質問する。
「とてつもないってことは、魔物の数が今まで以上に増えるっていうこと?」
と、ショコラ。
「そうではない…。もっと、こう…なんというか……う、うう〜ん……」
頭を抱えて悩み込む村長。
「もっとこう何なのですか?!早く教えてくださいよ!もしかして、分からないんですか?」
「そうじゃ!分からんのじゃ!!」
『へ?』
チョコとショコラはポカンと口を開く。
村長は、急に静かな声で語り始めた。
「……じゃが、それでも行かねばならん理由があるのじゃ…」
「そのとてつもない正体を知るために、トリラテ王国の女王様方にお会いせねばならんのじゃ。」
「トリラテ王国の…?」
「女王様方?」
2人は顔を見合わせる。
「いかにも。トリラテ王国の姉妹女王様であられる、トリ様、ラテ様はワシよりも優れた預言者である。あの方々の元に行けば、そなたらがするべきことが分かるはずじゃ。」
「ですが、村長。トリラテ王国はずっと向こうにありますよね?しかも、迷いの森とも呼ばれるデバデバの森を抜けないと行けませんよね?」
「いかにも。」
「というか、なぜ私たちが行かねばならないのですか?これも1つの修行なのですか?」
村長はより真剣な顔つきになった。
「…そなたらは、他のものとは違う…。
そのような予言を見たのじゃ。お主らがここへ2人で来た時に…。」
チョコとショコラはハッとする。
「私たちが2人で来た時?」
「僕たちは2人だけでこの村に来たの?」
「いかにも…。ワシはお主らを赤ん坊の姿で見つけたのじゃ。」
「じゃあ、私たちに両親がいないのって…。」
「……。今まで言わんくてすまなかった。」
3人の間に深い沈黙が流れる。
最初に沈黙を破ったのはショコラだった。
「それで…僕たちが他の人と違うって?」
「それも定かでは無い。ただ1つ言えることは、トリラテ王国に行けば分かるということじゃ…。」
「それじゃあ、私の見た夢のことも何か分かるかも…。」
チョコが思い出したようにつぶやく。
「…ショコラ。行こう。」
ショコラの方を振り向くと、まるで今すぐにでも飛び出していきそうな瞳で、私を見ていた。
「チョコ姉ちゃん…。これから始まるんだね…。僕たちの旅が…。」
ショコラが嬉しそうにつぶやく。
「そうだね!私たちの旅はここから始まる…。」
村長に向き直り
『私たち姉弟はトリラテ王国に向かいます!』
「……。気をつけて行くのじゃぞ。」
(あんなに剣をせがんでいた幼子たちがこんなにも成長するとは…。ワシも歳をとったようじゃ…。)
ー村長の家を出てー
「ショコラ!私たちの名を轟かせる旅が始まるよ!家に帰って早速支度しよう!!」
「うん!!」
ーこうして、姉弟の旅は動き出した。
誰も知らない“真の姿”を探す、
世界でたった一つの物語が――。
第1話 「はじまり」
完