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〈佐伯 霞 の真実〉
「愛というのは、形だけでは伝わらない。表現することで好きを生み出す」
私は早乙女先生が好きだ。
しかし、同級生とも会話を交わしたことのない私からすると、先生への直接的な愛情表現などできるはずがない。
頭では整理尽くせない言葉を繰り返す教師の話を、右から左に聞き流していた。
暇を持て余した指は赤いペンをクルクルと回す。
私はただじっと、潰れかけたペン先に目を向けた。
すると稲妻のような速さで神経同志が共鳴し、頭の中のモヤが晴れた。
__そうだ…!これなら先生に伝わる!
3時間目の生物の授業。
夏の匂いと共に心地よい香水の香りが教室中にフワッと広がる。リズム良くドクン、ドクンと鼓動する心臓の音が周りに聞こえていないか不安になりつつも、先生の綺麗な睫毛を遠くから見つめていた。
手鏡で前髪を整えて、計画通り、早乙女先生が来たところで私は少し埃被った床に新品の赤いペンを転がす。
気づいている。
先生は交互に私とペンを見ているのを視野のほんの端っこで確認できた。
『愛してる』の告白。そのままの想いを丁寧にノートの切れ端に綴ったのだ。
その週も、またその次の週も。
しかし幾ら待っても返事は無かったし、前より距離も、先生すらも遠く感じた。
私は諦めなかった。早足で廊下をランウェイする先生の後ろをつけては隠れ、つけては隠れと追いかけた。
先生はいつも放課後に生物室で仕事をしている。パソコンのエンターキーを強く押す音が一定の時間差で鳴り響く。
ここは特等席である。生物室の入り口扉の僅かな隙間に顔を押し当て、彼女の美しさを今日も眺めている。誰も知らない、私だけが知っている放課後の先生の姿。そんないつもの変わらない先生の日常を観賞することは、新作映画を見る時よりも胸が高鳴る。
ある日の放課後、6時間目を終えて図書館に行き、5時が過ぎたところで急いで生物室に向かう。4階の階段を踏み終えてすぐ、聞き覚えのある声がした。
__変だな。この時間に南館の4階に来るのは、早乙女先生だけのはず。
音を立てぬよう、ゆっくりと扉に隙間を作った。やはり、この声は松上君である。
隣のクラスの松上君は時折図書館で見かけることがあったのでよく知っていた。彼は無意識に本を朗読してしまう癖があったそうで、比較的人の少ない、私と同じ図書館の2階を利用していた。
松上君は勢いよく、栽培室の鉄扉を開けて押し入って行った。私も気になって後を追う。
半開の扉から顔を覗かせると、そこには恐ろしい光景が目に入ってきた。
なんと「先生」が「生徒」である松上君を襲っていたのだ。
彼も乱れた呼吸を繰り返し、先生の体を手で撫で回していた。いつもは低い先生の声が今日は少し高い。
「あッ…。松上く…ンッ…//」
信じられない光景に思わず目を背けた。
私の顔が次第に熱くなり、瞼も溶けるように重く感じる。
それに下腹部あたりが心臓のように鼓動を波打っていた。
私の右手はいつの間にかチェック柄のスカートの中に潜り込み、止まらない手で自分を慰めた。
「んッ…あッ…あンッ…//」
声を抑えつつも自分の下半身部を愛撫した。
じんわりと心地よさと余韻が残り、微かな痙攣を起こした。頭が真っ白になり、足に力が入らないまま扉近くのデスクにもたれ、座り込んでいた。
恐ろしく迫る足音がこちらに向かってくる。
__つけていたことがバレてしまう…!
急いで身だしなみを整え、バランスを保たない体を精一杯の力で動かした。
私は廊下を走り、近くの手洗い場へ駆け込んだ。
「先生ってあんな人だったんだ…」
私の知っている先生はもういない。
落ち込んだ反面、嬉しさも込み上げ、
私にもチャンスがあるかもしれない。
そう思った。
いつもはキリッとしている目もトロンと潤い、丁寧に巻かれた黒髪も乱れきってボサボサであった。白衣に包まれ普段は見えていなかった素足は白く、肉付きがしっかりしていた。
教師として働く先生とは全く違った。1人の女性だったのだ。
一瞬ではあったが、目にしっかりと焼き付いている彼女の姿を脳裏に浮かべ、私は長い間個室の中で1人激しく喘いだ。