「ふぅーーー、お母さんが上がるまで、何してようか? 勉強でもする?」
「とりあえず、ちょっとお話しようか」
テーブルの向かいに座ったサーシャが真面目な顔をして「お話しよう」と言ってくる。
勉強とか愛しあうんじゃなくて、ただのお話がしたいらしい。
真面目な顔をしてるけど、真面目に話すことなんてあったかな……?
「うん? なに?」
「サーシャ教とアリアの教祖就任について」
「え?」
今更話すことなんてあったかな?
サーシャの教えを広めるための宗教でわたしが教祖。それ以外、何もないと思う。
……何だろう?
「わたし以外に教祖に相応しい人っていたっけ?」
考えてみる。
お母さんは破門したから関係ないし、お姉ちゃんは信者ですらないと思う。
残りの信者は全員わたしだ。頭の中にあるでっかい神殿に入りきらないぐら大勢いるけど、ある意味ではわたし一人。
結婚してるし、サーシャから一番愛されてる自信もある。
……うん、教祖に一番ふさわしいのはわたししかいないと思う。
「……私を愛してくれてるって意味では、アリアが一番で間違いないよ。そして、私が一番愛してるのはアリアで、これも間違いないよ」
「うん、だよね」
ちゃんと口にしてるし、いっぱい愛しあってるから間違いない。
わたしはサーシャが、サーシャはわたしが一番好きで愛してる。
……うん? じゃあなに?
「でも、私は神様じゃないし、教えを広めたいわけでも崇められたいわけでもないよ」
「え?」
「宗教とか作る気はないし、アリアにも教祖にはなってほしくない」
「……」
サーシャがじっと見つめてくる。
その目は真剣でちょっと悲しそうだ。
……なんで、悲しそうなの?
サーシャを愛して、サーシャを崇めて、サーシャの教えを広める……それって、いいことだよね?
「……ちょっと考えてみようか。神様と結婚できる? 神殿とか教会の人達、あの人達は信仰対象やその教えに愛情を感じてると思う? 結婚したいと願ってると思う?」
……信者の人達を思い浮かべてみる。
みんな必死に祈ったりしてるけど、内容は「平和が続きますように」とか「豊作祈願」とか、そんな感じの人が多い。
神様の像やシンボルマークに向かって「好きです」とか「愛してる」とか「結婚して下さい」なんて言ってる人は見たことがない。
「……思ってない、と思う……」
「うん、そうだね。私も、神様に向かってそんな大胆なことは言えないし、そんな気持ちは全然わかないよ」
「……」
サーシャがわたしの横に座りなおして、手を握って見つめてくる。
「私にとって、アリアは世界で一番大切で一番愛してる、私のお嫁さんで生涯の伴侶。それ以上でもそれ以下でもないよ。アリアにとっての私は、なに?」
わたしにとってのサーシャは……。
サーシャの顔が息がかかるくらい近くにある。すごく可愛くていい匂い。手をぎゅっと握ってくれてるのもすごく安心する。像やシンボルマーク、聖書と違って、わたしのすぐ隣にいてわたしだけをいっぱい愛してくれる。
「……わたしの、わたしだけのお嫁さん」
「うん、私はアリアだけのお嫁さん。それ以上でもそれ以下でもないよ。信仰対象じゃない、アリアの生涯の伴侶。それが私だよ。……愛してる」
サーシャがぎゅっと抱いてくれたので、思わず顔をくっつけてスリスリをしてしまう。
……落ち着く。
もし神様が隣いても、信仰対象にはこんなことは出来ない。罰当たりって言われる。
サーシャがわたしのお嫁さんだから許されるスリスリ。
……崇めるとか、なんで思っちゃったんだろう。
サーシャを信仰対象したら愛しあえなくなってしまう。手をつなぐのも、ぎゅっとするのも、スリスリするのも、一緒にお風呂に入ることもできなくなる。
そんなのは絶対にヤダ。
ずっとサーシャの隣いて一生愛しあう。
「ごめん、サーシャ。もう崇めないよ。ずっと愛しあいたいから」
「うん。もう二度と、サーシャ教とか教祖とか考えちゃ駄目だよ。アリアは私のお嫁さんで、私はアリアのお嫁さん。それ以外は許さないからね」
「うん……」
……ぎゅっがちょっと痛い。
まさか、また幽霊に……。
謝ってスリスリしてるのに「ぎゅっ」が強くなったので、そっとサーシャの顔を見てみる。
「……」
違った。幽霊じゃなかった。
この笑顔はお仕置きの笑顔だ。
崇めた罰と、「もう考えちゃダメだよ」っていう念押しの「ぎゅっ」。
……その「ぎゅっ」、甘んじて受け入れるよ。わたしのせいだし。
「……」
「……」
……いつまでお仕置きの「ぎゅっ」が続くんだろう。痛いし暑くなってきた……。
スリスリしても、背中を叩いてギブアップを訴えてもやめてくれない。
いつのまにか床に押し倒されてがっちりホールドさてるし……。
全身を使ってのスリスリは嬉しいんだけど、暑さとくすぐったさでそろそろキツくなってきた。
「サ、サーシャ……。ホントにゴメン。もう二度と崇めない、誓うよ。そ、そろそろキツくなってきてて……」
「……つい夢中になっちゃった。じゃあ、ここまで」
「ほっ……」
サーシャは満足したような笑顔で離れてくれる。
そして、送風機のスイッチを入れてこっちに向けてくれた。
……怒るときは怒るけど、フォローが完璧なサーシャ。流石だよ。お母さん達とは全然違う。
「あーーー、気持ちいいーーー……」
シャツをパタパタして服の隙間から風を入れる。
「私もそれ、していい?」
「へ?」
「送風機に向かってシャツをパタパタするやつ」
「うん? 全然いいと思うよ?」
「じゃあ……」
なんでそんなことを聞いてくるんだろう?
サーシャ家ではパタパタに許可がいるの?
……そっか、サーシャの家には送風機はなかったっけ。あるのは大型の冷風機だ。あれは風に当たるというより、部屋全体を冷やすって感じに近い。
それに、お泊り会でわたしの家に泊まった時も、パタパタしてるのは見たことがない。友達の家だから遠慮してて、今は家族になったからしてみたくなったとか?
……だったら嬉しい。
今まで以上に色々な姿のサーシャが見られる。それだけでも、家族になった感が強い。
「ふぅーーー……。気持ちいいね、これ」
……サーシャ、それ、ちょっと違う。人前でやっていいパタパタじゃない。
サーシャのシャツはファスナーが付いていて前が開くタイプ。ファスナーを下げて両手でパタパタ広げたらどうなるか。答え、胸が丸見えになる。
注意した方がいいのかな? 他の人の前でコレをやったらサーシャが変な目で見られそうな気がする。
しかも、なぜかノーブラだし……。
わたしはブラをつけるかどうか検討中だけど、サーシャはブラを付けていたはず。
ノーブラでシャツを広げてパタパタって……。胸を見せつけてるみたいだよ……。
「……ん? どうしたの、アリア? パタパタしないの?」
「えっと、わたしのパタパタより、サーシャのパタパタが気になって……」
「……胸が見えてるのが気になる?」
「うん……。人前では、その、しないほうがいいと、思う……」
サーシャがシャツを広げて胸を見せつけてくる。
綺麗だけど! 今はちょっとは隠そう!
「アリアの前だけだよ。パタパタして胸を見せるのは。他の人の前ではしないよ」
「うっ……。でも、今は隠した方がいいと思うよ。ちょっと恥ずかしいし……」
サーシャとわたしの価値観が少しズレてる気がする。
そういえば、マッサージの時もわたしの裸を見てちょっと恥ずかしそうにしてただけで、すぐに平気な顔でマッサージしてくれてたっけ……。
……裸に慣れてる、のかな?
サーシャのマッサージはすごく上手で気持ちよかった。他の人でたくさんやってないと出来ないような熟練具合だと思う。沢山の人に裸になってもらって、同じようにマッサージをしてきたに違いない。だから裸に慣れてる。
……モヤモヤする。
わたしと同じように他の人にマッサージ……。その光景を考えるとモヤモヤする。
……嫉妬、かな? ……うん、嫉妬だね。
あの、ほぼ裸状態のマッサージは、よほど愛してないと出来ないと思う。わたしだってしばらく恥ずかしかったし、サーシャも最初は顔が赤かった。それを、わたし以外の人に……。
「どうしたの、アリア?」
「……サーシャは、どうして平気なの?」
「ん?」
「胸を気軽に見せたり、裸でマッサージしたり……。恥ずかしいよね?」
「確かに、ちょっとは恥ずかしいね」
「でも、なんか、裸に慣れてるから……」
「それは……」
「他の人のをいっぱい見てるから慣れてるの? あのマッサージとかで……」
サーシャの、すごく気持ちいい愛のマッサージ。
他の人にサーシャがやってるのはモヤモヤして落ち着かない。
「……ゴメンね、不安にさせちゃって。凄く恥ずかしい理由だけど、ちゃんと聞きたい?」
「……うん」
「まずはマッサージ。慣れてるのは、うちのお母さん相手にずっとやってきたからだよ」
「え?」
「お母さんが教えてくれて、お母さんが練習台になってくれてたの。いつか、アリアにやってあげて、気持ちいいって言ってほしかったから。お母さん以外にはやったことはないよ」
……フーシャお義母さんに……。
すごく納得。
お義母さんもマッサージが得意なのは知ってる。たまに肩を揉んでもらうとすごく気持ちよかったから。
そっか。お義母さん直伝の秘伝のマッサージだったんだね。お義母さんに教わって、お義母さんが練習台なら、慣れてるのも気持ちいいのも納得。
……はぁ、モヤモヤして、嫉妬して、バカみたい……。
「ゴメンね、サーシャ。変なこと聞いて―――」
「話は終わってないよ。まだ、マッサージの理由だけ。裸に慣れてる理由は言ってないよ」
「え? お義母さんのマッサージで慣れてたからじゃないの?」
「違うよ」
え? じゃあ、裸に慣れてる理由って何だろう?
「裸に慣れてる……あまり動じない理由はね……もっと先を考えてるからだよ」
「もっと先?」
「うん、もっと先。裸でマッサージするより恥ずかしいこと……」
……あれ以上に恥ずかしいこと? なにそれ……?
「さっき、晩ご飯の前にいっぱい愛し合ったよね?」
「うん」
最長時間と最高回数を更新した、晩ご飯前のアレだよね。
途中までは妄想ノートの再現みたいですごく恥ずかしかったけど、最後はすごく幸せで、これ以上の幸せはないと感じるほど濃い時間だった。
「……アレをね……お互い、裸でやってる状態を想像してみて」
「アレを、裸で……、……、……、……、……っ!?」
はっ、はずかしすぎるーーー!!!
え!? なにそれ!? どんな状態!?
ありえないよ! 恥ずかしすぎる!
「ふふ……。私達にはまだ早すぎるけど、大人の夫婦はもっと恥ずかしいことをするんだよ」
「ほえっ!?」
「……私の夢の一つが、アリアとその恥ずかしいことをする事。だから、裸を見てもあまり恥ずかしくないの。本当はもっと恥ずかしいことをしたいから。わかってくれた?」
コクコクコクコクコクコク!!!
首を縦にブンブンすることしか出来ない。
わたしの顔はきっと真っ赤だ。頭の中はぐちゃぐちゃで真っ白。
意味不明過ぎる。
頭の中に裸のサーシャが出てきてベッドで手招きしてるけど、そっちに行く勇気がない。
恥ずかしすぎて、その先が怖い。
……お、大人の夫婦って、すご過ぎる。
「私とアリアは、毎日、朝も夜も、いっぱいその恥ずかしいことをするんだよ」
「も、もういいよっ!!! 恥ずかしすぎるっ!!!」
わたしはベッドに逃げ込んで布団をかぶり丸まる。
頭の中は裸のサーシャでいっぱいだ。聞かなければよかった。
……うぅ~~~、恥ずかしい。サーシャ、すご過ぎるよ……。
「うぅぅぅぅ……」
暑い。すごく熱い。
布団が暑い、頭が熱い、顔が熱い。心臓がバクバクゴンゴンいってる。
「ゴメンね、恥ずかしい思いをさせて。今はこれで十分幸せ。愛してるよ、アリア」
サーシャが丸まった布団の上からぎゅっとしてくれる。
……あぁ、落ち着く。
サーシャの言葉で爆発してサーシャのぎゅっで落ち着く。なんか納得できないけど、わたしにとってはサーシャは絶対に必要だと感じる。
サーシャがいなかったら爆発することも落ち着くこともできない。なにもない日常しか残ってない。
わたしの今の日常は、サーシャがいないと始まらない。
「……サーシャ、愛してるよ。ずっと一緒にいてね」
「大丈夫、ずっと一緒にいるよ」
恥ずかしくて布団から出られないけど、気持ちはしっかり伝えた。
布団の上からでわかりずらいけど、ぎゅっの力が強くなったので、間違いなく気持ちは通じてる。
「……今は恥ずかし過ぎて無理だけど、ちゃんと、出来るようになるからね」
「うん。でも、今は考えなくていいよ。何年でも待つから。ゆっくり大人になろうね」
「うん……」
何年でも待つ……。それは、6年間もわたしを愛し続けたサーシャには拷問の様に感じる。
いつからこんなに恥ずかしいことを考えていたかは分からないけど、夢って言ってたし、絶対にやりたいことなんだよね。
……サーシャの夢は全部叶えてあげたい。でも……。
「うぅぅぅぅぅ……」
恥ずかし過ぎる。
晩ご飯前のアレだってかなり恥ずかしかったのに、アレを裸でなんて……。
しかも、大人の夫婦はアレよりも恥ずかしいことをするんだよね……?
「無理無理無理無理無理……」
「もう考えない方がいいよ。ゴメンね、変なこと言っちゃって……あ」
妄想の裸サーシャがベッドで手招きを続けてる。
可愛い笑顔と綺麗な体で「きて……」って。
うぅ……今更だけど、可愛いしものすごい美人さんだ。
そんな美人さんが、笑顔の裸状態で手招きしてる。
……もう、いっちゃってもいいかな?
サーシャは詳しそうな口ぶりだったし、全部任せればなんとかなりそう。
わたしは裸になってされるがままにしてればいい気がする。
裸でサーシャにされるがまま……。
「無理無理無理無理無理……」
やっぱり恥ずかし過ぎる! 無理!!
……ん? 身体が浮いて―――
「このっ、馬鹿娘っ!!!!」
「べぎゃ!?」
丸まった布団ごと壁に投げつけられ、ドゴッっと鈍い音が響く。
お姉ちゃんに投げられた時のような痛みが走り、床にうずくまる。
「ぐぅぅぅぅ……いた、いぃぃ……」
「あんた、今度はなにしたの? 教祖の次は悪魔にでもなった?」
うぅぅ……悪魔はお母さんだよ。
なんで壁に投げたの? 痛すぎるよ……。
「ごめんなさいね、馬鹿娘がまた迷惑かけちゃって」
「いえ、今度は私のせいで……」
「本当に優しいわね、さっちゃんは。あ、お風呂に入って来ていいわよ。この馬鹿娘はほっといてもすぐに立ち直るから」
「……はい。でも、アリアと一緒に入りたいので、回復を待ちます」
「そう? じゃあこれ、食べてていいわよ。本当はお風呂上りにと思って持ってきたんだけど」
「ありがとうございます、クレア母さん」
「本当にいい子ね。アウレーリア、さっちゃんがお風呂に入れないから、さっさと回復しなさい。わかった?」
「うぅぅ……ん……ぐぅぅぅ……」
わたしのうめき声を返事だと勘違いしたお母さんが部屋を出ていく。
……お母さんがひどすぎて、わたしの理不尽な反撃なんて甘すぎる気がしてきた。
娘を布団ごと壁に投げつけて見捨てるなんて、普通の親は絶対にしない。
少なくとも、フーシャお義母さんは絶対にそんなことをしない。
……今からでも、あっちに住めないかな……?
「アリア、これ、ジュースとお菓子。食べれる?」
「い、今はちょっと、むり、かも……」
「ゴメンね、私のせいで……」
「うぅ……いいよ……慣れてるぅぅ……」
不幸中の幸い……かどうかわからないけど、幸い、お姉ちゃんほどのダメージはない。
サーシャをあまり待たせずに回復すると思う。
「ふぅー……、ふぅー……、ふぅー……」
痛みと怒りを整えてると、窓の外が目に入った。
……まだ降ってるんだ。
この雪を見てると、さっきまでの恥ずかしさや投げられた時の怒りが消えて、落ち着いた気分になってくる。
……この雪、これって、ホントに魔術なんだよね。
領主様の魔術らしいけど、魔術ってホントに何でもありだと思う。夏に雪を降らせるのって、軽く天変地異だよね? それを一人の魔力で使うって想像がつかない。
……はぁ、魔術か。
ここ数日の色々な失敗がよみがえって来て辛い。
最大の失敗は、わたしが魔力暴走で死にかけて、サーシャが幽霊に乗っ取られたこと。
最大の成功は……癒しの氷、かな?
この魔術のおかげでサーシャの心の傷が治って、幽霊の防止にもなるんだから。
癒しの氷、か……。
「ふぅ……、ふぅ……」
うん。やっぱり、お姉ちゃんほどのダメージはない。もう痛みが楽になってきた。
この分だと、あとちょっとで動けるようになる。
……この痛み、魔術ですぐ消せないのかな?
癒しの氷はサーシャ専用だけど、心の傷も身体の傷も全部が治る。
だったら、わたし専用とか、誰にでも効く癒しの氷があってもいいと思う。
……傷を癒す魔術か……すでにありそう。
なんか、図書館で見た魔術本に書いてあったような気がする。サーシャなら知ってるんじゃないかな? 魔術は使えないけど、魔術の基礎みたいなのは5、6年生で全員が習うはずだし。
最初に氷を出した時も「天然の氷と変わらないって聞いてるけど……」って言ってた気がする。
「ふぅ……。ねえ、サーシャ」
「ん? なに?」
「傷を治す魔術って知ってる?」
「……初級魔術で「ヒール」っていう回復魔術は習ったよ。傷を癒す基本的な魔術で、戦闘では必須だって」
「おおー、やっぱりあるんだー」
「投げられた痛みを消したいんだろうけど、今は使ったら駄目だからね」
「え? なんで?」
サーシャが教科書で習ったイメージを教えてくれたらすぐに使えそうなのに。
自分で考えるわけじゃないから、師範代達との約束を破った事にもならないよね?
「教科書のことを教えても、アリアは違う魔術を使いそうだから駄目。絶対に変なイメージになると思う」
「うっ……」
失敗談が多すぎて反論できない。
「思いついたらまず相談。勝手に使ったら今度こそ入門取り消しになって、就職も白紙になるよ。一緒に入門して一緒に働くために、絶対に勝手に使わないでね」
「うん、わかったよ……」
「……でも、考えるだけなら自由だから、今の内に考えておくのもいいんじゃないかな? 今後も色々と痛い目を見ると思うし」
「あ、そうだよね。次に投げられた時の為に考えておくのはアリだよね。お姉ちゃんに投げられたらこの程度じゃすまないし」
「……うん」
「じゃあ……」
お母さんに投げられた痛みはすでにほとんどない。サーシャと話してる最中にいつの間にか気にならなくなった。
だから、考えるのは対お姉ちゃん用の回復魔術だ。
……ん? そもそも、初級魔術の「ヒール」ってどういうイメージなんだろう?
癒しの氷みたいに、魔力で傷を埋めるイメージなのかな?
「ねえ、サーシャ」
「教えないよ。アリアは混乱すると思うから」
「そっか……」
うん、わたしには初級本でもチンプンカンプンだったからね。
聞いただけじゃわからないし混乱する自信がある。聞いたわたしがバカだった。
そうなると一から考えなきゃダメなんだけど、癒しの魔術を考えると真っ先に「癒しの氷」が思い浮かぶんだよね。困った……。
なんだろ? 魔術って、一回使うと同じイメージがしやすくなるのかな? だから2回目からは使いやすいとか?
……癒しの氷以外かー。
「んーーー……」
「……まずはお風呂に入らない? お湯が冷めたら魔石代が勿体ないよ」
「あ、そうだよね、お風呂が先だよね」
投げられたショックと魔術のことでお風呂が頭から飛んでた。
サーシャはわたしの回復を待ってくれてたんだから、これ以上待たせられない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!