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美希みなみ
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そこまで話したところでコインパーキングに着いた。
「ここから車でもいい?俺の行きたい所は車の方が行きやすくて」
栞里は車に乗るという事に、少しドキッとしたが頷いたて車に視線を向けた。
拓海は慣れたように自分の白のSUV綺麗な車体の鍵を開けると助手席を開け、栞里に目で乗るように促した。
「失礼します……」
そんな栞里の言葉に、拓海はクスリと微笑むと、「どうぞ」と執事がするようにうやうやしく頭を下げた。
「拓海さん!!」
ふざけた巧みに少しムッとして声を上げた栞里を見て、拓海は楽しそうに笑い声をあげた。
「もう……」
大学生の栞里にとって車はそんなに乗ったこともなければ、異性の運転する車に2人きりで乗るという事に慣れていなかったが、今の拓海の行為に少し緊張が解けたような気がした。
そんな栞里とは反対に、余りにもスマートに慣れた様子で助手席を促す拓海に栞里は少なからずドキッとしていた。
冷えた車内にエンジン音が響き心地よい振動が栞里に伝わった。
「ごめん、すぐに温かくなると思うけど」
拓海は手を擦りながらそう言うと、車はゆっくりと駐車場から発進した。
少しして、拓海がゆっくりと口を開いた。
「ごめん、俺も兄ちゃんだからすぐさっきみたいな事を言って。こんな説教じみた事言う奴嫌だよね。本当にごめん。でも俺は栞里ちゃんに俺には無理して欲しくないなって。少しずつでいいから、思っていることを言ってほしくて。そこでお互いの意見がぶつかったら、そこで修正していけばいいと思うんだ。言いあう事も、時には傷つけあう事も理解する方法だと思うんだ」
片手でハンドルを持ち真顔で運転する拓海はお兄さんと言うよりは、彼氏の様な台詞だった。栞里はどう反応していいか分からずとりあえず頷いた。
栞里がチラリと運転する拓海を盗み見ると、ちょうど拓海も栞里に視線を向けていた。その優しい眼差しに栞里はパッと視線を前に戻した。
顔が赤くなっていないだろうか?栞里はそっと自分の頬に手を当てて心を落ち着かせる。
(でも……拓海さんはきちんと話ができて、きちんとお互いを理解するために努力をする人かもしれない)
な
んとなく拓海の人柄を理解したような気がして、栞里は窓の外の流れる景色を見ながらつぶやくように言葉を発していた。
自分でも無意識だったかもしれない。
「私……ずっと自分が我慢さえすれば、相手を不愉快にさせない。じゃあ我慢しよう。そう思って生きてきて。私は平和主義なのって言って生きてきたんですけど……。嫌われたくなくて逃げていただけだなって。妹の為にもよくなかったのかなって今は思っています。妹が少し我儘なところがあるのは私にも非があったのかなって。でも、なかなか直せなくて自己嫌悪によくおちいります」
なぜ拓海に話したのか、栞里自身もわからなかった。
正解を導きたいわけでも、否定をされたいわけでもなく、ただ聞いてほしかったのかもしれない。
拓海は少し考えるような仕草のあとゆっくりと言葉を発した。
「難しいよね。我慢と思いやりの違いって。それって人によって違うと思わない?」
「思います」
「私は我慢しているのにって思ってしまったら、全部が我慢だよね。その人にしてあげたいって思えば思いやりだろうし。でもみんなが自分の事しか考えていなかったら、世の中は争いしかないかもしれない」
(確かにそうかもしれない。私は常に妹にたいして我慢してきたって思っていた。そんなの頼んでないと言われたらそこまでだろう。プリンだってお姉ちゃんだって食べたいんだからジャンケンしよ?それぐらい言ってもよかったのかもしれない。もしくは可愛い妹の為だと思えれば思いやりだったのだろうか……)
栞里は今の拓海の言葉を、頭の中で繰り返した。
「じゃあ、約束。俺には我慢しないで。それで俺が嫌だって思ったことはきちんと伝えるから。そりゃ時と場合で相手の事を思いやらないといけない事はあると思うよ。でもそう言った状況じゃ無い時は思ったことを言い合おう?そうじゃないとお互いがどこまでOKでどこからがNGなのか解らないし。俺は栞里ちゃんを理解したいと思ってるから」
拓海の言葉に栞里は静かに頷いた。
「私もきちんと理解したいし、わかってほしいと……思います」
自分でその意思を伝えたことに、栞里は驚きつつも自分の中で今まで変わりたいと思っていたのも事実だと気づいた。
「弟にも、兄ちゃん説教ばかりってよく言われるんだ。俺こそ、そんな人に何か言える程できた人間じゃないのに」
その言葉に栞里は驚いて拓海を見ると、拓海の表情が少し悲しそうに見えた。
「でも、私は拓海さんに言ってもらえた言葉嬉しかったです。理解するために言葉を重ねることは大切な事だった改めて思いました」
「ありがとう」
柔らかく微笑んだ拓海は本当に嬉しそうに見えた。
車内は温かくなり、栞里は一息ついた。
「栞里ちゃん、コート脱いだら後ろに置いていいから」
栞里はチラッと後部座席を見て、コートを脱ぐと後ろへと置いた。
コートを脱いだことで、白のタートルネックにひざ丈のワンピース、黒のショートブーツと言う、少し女の子らしい服装のなったことが、栞里自身気恥ずかしくもあった。
そんな気持ちを隠すように、栞里は外を見た。冬の空はカラっと晴れ、空には飛行機が見えた。
青と白の機体が雄大に空を飛んでいた。
栞里はどこに向かっているのか聞いていいものか悩んだ。
我慢しないとの約束を思い出し、聞こうと決めた所で、隣から聞こえたその声に、栞里は無意識にそちらに視線を向けた。
「俺飛行機が好きなんだ。今日は飛行機見に行ってもいい?」
栞里の思ったことが分かったはずはなかったが、タイミングよく言われた言葉に栞里は驚いた。
「はい。もちろんいいです。拓海さん飛行機が好きなんですか?」
栞里は、拓海をチラッと見ると聞いた。拓海の表情はいつものニコニコした感じではなく、表情のないように見えた。
問いかけに声絶えず、ただ前を向いていた拓海を不思議に思い、つい栞里はもう一度声を掛けた。
整った顔が少しだけ悲し気に見えた気がして、栞里はなぜか心の中がざわつくような気がした。
「拓海さん?」
しかし、栞里の心配をよそに、拓海はすぐに笑顔に戻り、男の人にしては、綺麗な指がハンドルをトンと叩き乾いた音がした。
「うん。乗るのは別に好きじゃないんだ。ただ、雄大に空に飛んでいくのを見るのが最近好きで」
拓海の答えに栞里も少しその様子を頭に思い描いた。
「はい。なんとなくわかる気がします。私も悩んだ時とか、どうしていいのかわからなくなった時に、空を見上げて飛行機を見ると、なんか落ち着くっていうか。自由になれそうな気がします。あっ、すみません……」
語るようになってしまい、栞里は慌てて謝り恥ずかしくなり俯いた。
「うんん、本当にその通りなんだ」
そう言った拓海を驚いて栞里は見た。拓海の少し悲しそうで優しい微笑みを見て栞里は拓海から視線を外すことができなくなった。
「拓海さん何か……心配事が……」
栞里はつい声を掛けていた。そうすると、慌てて拓海は首を振ると、
「ごめんね。なんか。全然。せっかく栞里ちゃんと出かけられるのに。羽田空港って今イルミネーションとかもやっているし行ってみたいなって思って」
いつも通りの笑顔で拓海はそう言うと、それ以上何かを語ることも、その表情を見せることはなかった。
「そうですか……」
栞里はそれ以上追及することもできず拓海の顔を見ていた。
土曜日の羽田空港は賑わっていた。
もちろんこれから旅行に出かける人も多いのだろうが、遊びに来たカップルや親子も見受けられた。
時間はお昼時という事もあり、飲食店の前にはメニューを見たり椅子に座って並ぶ人の列ができていた。
「お昼ごはんにしようか?お腹空いた?」
拓海の言葉に栞里は反射的に頷いてハッとした。
「栞里ちゃん?それは思いやりと違うんじゃないかな?ちゃんと言って」
「……正直、もう少し後がいいです。なんかやっぱり自分で思うより、緊張していたみたいで。拓海さんはそれで大丈夫ですか?」
「よく言えました。じゃあ、どこに行きたい?というか俺も緊張していたしまだお腹空いてないんだ」
苦笑しながら栞里の頭をポンと優しく叩くと拓海は笑顔を向けた。
「拓海さんが緊張するんですか?」
栞里が意外そうに言うと、拓海は『俺だって緊張ぐらいするよ』と笑った。
その後、少しブラブラと空港内を2人は見て回ることにした。