「……はぁ、アイナさん。
たくさん買いましたねぇ……」
薬草を扱っているお店から出ると、エミリアさんにそんなことを言われてしまった。
今日は冒険者ギルドの依頼は控えて、色々と買い出しに来ているのだ。
「いざというときに何があるか分かりませんからね。
あるときに買う、というのが重要です」
「確かに、貴重な薬草もありましたからね。
あれを使うと、どんなものが作れるんですか?」
「それは秘密です」
「えっ」
……スキルはあれど、知識は無し。
ユニークスキル『創造才覚<錬金術>』で調べれば分かるものの、瞬間的に分からないものは濁しておこう。
以前とは違って、今回は余りあるほどの資金がある。
欲しいものは即ゲット。お金の力ってすごいよね!
「でも、これでまた色々な薬を作れるようになるんですよね。
うーん、やっぱりすごいなぁ……」
「あはは、錬金術師なんて素材が無ければ何もできませんから。
……それにしても、薬かぁ……」
振り返ってみれば、何だかんだで薬を作ることが一番多い。
ポーションみたいな回復薬は必需品だし、身体の悪い部分を直接的に治せる場面もあるし。
でも、錬金術には薬以外のジャンルもいくつかあるんだよね。
爆弾は作ったことがあるけど、それ以外にはアーティファクト系の錬金術……だとか。
「……ところでエミリアさん。
アーティファクト系の錬金術ってご存知ですか?」
「はい。ちょっとしたものと、すごいものしか見たことがないですけど」
「ちょっとしたもの、と、すごいもの?」
「ちょっとしたもの、っていうのは……例えば、本とその鍵ですね。
魔法の力で本が開かないようになっているんです」
「へぇ……。
その鍵じゃないと開かない、ってことですね」
「すごいものは、王都にある施設なんですけど……そこにある、扉ですね。
必要な鍵がいくつもあって、開けるための手順もかなり複雑なんですよ」
「ほうほう……。
……って、両方とも鍵なんですね」
「この国では、アーティファクト系の錬金術は広まっていないみたいですから」
「へー、そうなんだ」
「……というか、そういうのはアイナさんの方が詳しくありません?」
「ああ、いえ。
一般的な認知度はどうなのかな……と思いまして!」
「なるほど……。
アイナさんの生まれたところでは、きっと盛んなんでしょうね」
……今回は先に、そんなことを言われてしまった。
まぁこの世界の人から見れば、空を飛ぶ乗り物とか、遠くの人と話せるスマホとかも、そんな扱いになってしまいそうだ。
「ルークは何か、アーティファクト系の錬金術は知ってる?」
「そもそも魔法剣が、鍛冶と錬金術の合いの子みたいな感じですからね。
それ以外だと……やはり、特殊な効果を秘めた指輪とかでしょうか」
「……指輪?」
私のつぶやきに、エミリアさんも言葉を続けた。
「あ、そういうのも入るんですか?
それならわたしも、それなりに見ますね!」
「その辺りは切り分けが難しいですからね。
指輪の場合は魔石のような効果を持つのですが、人の手で作ることができるのが大きな違いなんです。
魔石は自然に作られるものなので、人の手では作れないですから」
……ふむふむ、なるほど。
何となく、雰囲気は分かってきたぞ。
指輪みたいなアクセサリとして作れるなら、プレゼント用に作っても良いかもね。
錬金術での『置換』も試してみたいし。
「……うん。
そこら辺も試したくなってきたから、薬草と鉱石以外も買って帰ろっと」
「え、まだ買うんですか?」
「もちろんです。
私は作りたいものをすべて作るんです。素材に妥協はできません」
「素晴らしい向上心です。それでは、次はどちらに?」
薬草はついさっき買ったし、その前は鉱石関連を見ていたから……次は、何だろう?
今までのパターンだと、ここで終了……って感じだったからね。
「魔法の関連で、何か扱っているお店はありますか?」
「魔法……ですか。
確か、街の外れにあったような気がします」
何とか思い出してくれるルーク。
街の外れということは、あまりメジャーなジャンルでは無さそうだけど――
「……うん、そこもちょっと行ってみたいかな。
今までと違うものが作れるようになるかも」
「分かりました、それでは向かいましょう」
「うん、案内よろしく。
昼食はその後にしましょうね」
「はい」
「はぁい」
買ったものを全部アイテムボックスに入れ終わると、私たちは街の外れに向かうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ひぇっひぇっひぇっ……。いらっしゃいませ……」
「あ、どうも……。見せて頂きますね」
「はい、ごゆっくり……」
ルークに案内されたお店に入ると、魔女の帽子を被った白髪のお婆さんが出迎えてくれた。
瓶底のような眼鏡もしているし、いわゆる『魔女のお婆さん』という表現がよく似合う風貌だ。
……お店は薄暗くてかなり手狭。
しかし、中には様々なものが並べられていた。
「何やら色々とありますね……。
ああ、やっぱり薬草みたいのもありますね」
とりあえず近くには、瓶の中で液体に浸った植物の根……のようなものも置いてあった。
これ、何の根だろう?
「それかい? マンドラゴラの根だよ……」
お婆さんは私の様子を察して、説明をしてくれた。
薬草の一種ではあるのだが、普通の薬草よりも魔法的な力が強く、特殊な薬や呪術ではよく使われるらしい。
このお店ではその力をしっかり引き出すため、特殊な液体に浸けて保管しているのだという。
「……それと、抜くときには悲鳴を上げるからねぇ……ひぇっひぇっひぇっ」
あ、やっぱりそういう感じなんだ……?
悲鳴を上げる植物……イヤだなぁ……。
「他の薬草屋では見かけませんでしたけど、やっぱり扱いが難しいんですか?」
「そうだねぇ……。もし普通の店が手に入れても、結局はこっちに流れてくるかねぇ……。
扱いが専門的だし、需要も狭いしね……」
……なるほど。
それなら薬草が色々欲しい場合は、こういうお店にも寄る必要が出てくるわけか。
周囲を改めて見回すと、植物以外の品揃えもなかなかのものだ。
骨や皮といった、何かの生き物の一部。何だかいちいち魔術っぽい。
紙に描かれた何かの魔法陣。魔法はよく分からないけど、何だかファンタジー感が満載だ。
石の欠片。うーん、宝石や魔石とは違うけど、何だろう?
それ以外にも、アクセサリで使えそうな細かい鎖なども置いてある。
「……はぁ、色々ありますね」
「ひぇっひぇっひぇっ……。
まぁ、こういう店は種類をおいてなんぼだからねぇ……。
ミラエルツではこういう店は流行っていないから、他の街にいけばもっと大きいところもあるだろうよ……」
色々あるように見えるけど、やっぱり狭いしね?
「ちなみに、ここより大きいお店ってありますか?」
「ミラエルツには無いよ。ここが一番大きいからね……。
これ以上となると、王都か、その向こう側の街さねぇ……」
……王都の、向こう側。
今までは王都が終着点みたいなイメージだったけど、その向こう側もあるのか。
そういえば地図を見ると、クレントスから王都までの距離くらいは、さらに続いているんだよね。
「とはいえ、このお店にある分でも色々と作れそうですね」
軽く『創造才覚<錬金術>』で調べてみると、今まで見覚えが無いものがたくさん頭に浮かんできた。
指輪などのアーティファクト系も多そうだ。
「ひぇっひぇっひぇっ……。『作る』ってことは、お前さんは錬金術師なのかい……?
ここにあるものは全部、扱いが難しいけど……大丈夫かねぇ……?」
あ、大丈夫です。レベル99ですから。
「多分、大丈夫だと思います!
ちなみに、ここに並べていないものってありますか?」
「ああ、たくさんあるよ……。
でも、一見のお客さんにはちょっと見せられないかねぇ……」
不敵に笑うお婆さん。
く、ここは実力を見せないといけないのか!?
……まぁ、無理して見せてもらう必要は無いんだけど。
「それじゃ、今日はここら辺をください。
ここからここまでと、あそこからあそこまでと、そこからそこまで」
「ひぇっ……?」
「「ひぇっ」」
……大丈夫、金額は計算してるから。
これは経費です。無駄遣いでは、決してありません。
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